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役割分担2

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学校側から支給されたテントは随分と大きく、俺が調理している間にニコラスとディアナが頑張って設営してくれたらしい。

「テントが一つだけなのは有難いけど、男女が一つの空間にいると言うのは問題なんじゃ...。」
「間違いなく貴族社会では御法度よ。だけど今回に関してはやましい事が無い、出来ない前提のサバイバルキャンプだから問題ないのでしょうね。」
「それでも一定数やましい事をしようとする馬鹿はいるだろうが、お互いにメリットは無いからな...。」
「いるのか...。それじゃぁ女性陣は特に気をつけなきゃだな。」
「...そんな事ない。お、男の子も危ないよ?」
「え、そうなのか?」

四人でそんな話をしながら大きなテントの中で寝転んでいた。
周辺には結界魔法を張っており、最低限のモンスターが俺達に向かう事は出来ないだろう。
各自寝袋にくるまっており、声色からして若干眠くなってきているのが伝わってきた。外ももう真っ暗で、ランタンも付けずにボソボソと先程から話している感じだ。
だがディアナが言ってきた事が気になってちょっと頭が覚めてしまった。

「...少なくとも僕達でそういう事は無いから...気にすんな。明日も探検なんだ。休もうアーサー。」
「んんー...わかったよ。」

コロンと俺の方に顔を向けてきたニコラス。彼の眠そうな瞳の中に不満そうな俺の顔が写る。互いに寝袋が当たるくらいに近寄って、体温を保とうと言うクラーラの案である。ちなみに逆側にはディアナが寝ていて、ニコラスの奥にはクラーラがスヤスヤと眠っている。

「...ふぁあ...眠い。おやすみアーサー。」
「.........ん。おやすみニコラス。」






まさかこんな事になるなんて、誰が予想できたであろうか。

「アーサー。おはようございます。森の朝は中々良いものですね。」
「はぁ...会いたかったー。探すのにここまで手間取るとは思わなかったなぁ。」
「えっと...?」

眼前に見慣れた顔が二つ。覗き込んで来ていた。瞳が合うとふわりと花が咲いたかのように微笑んできた。相変わらず芸術作品の様に美しい人達だ。優しく寝袋に手を差し込んでサラサラと髪の毛を撫でてきた。

「何度も聞いているが殿下だろうが、将来の第一騎士団候補だろうがしらないが...勝手に入ってくるのはどういう了見だ?」
「しかもアーサーの事を連れていこうとするなんてどういう事?」
「え?」
「あ、アーサーおはよう。もうすこし眠っててくれた方が良かったかもね...。」
「...ディアナ、現状説明頼む。」

ニコラスとクラーラがイラついた口調で、ランドルフとレンフレッドに言い放っていた。
困り顔を保ったまま俺を覗き込んでいたディアナ。
取り敢えず寝たままの状態で話を聞くわけにもいかず、上体を起こしてまだ寝ぼけ気味の頭を強制起床させることにした。
四人用テントに六人は流石に狭く感じるので、のそのそとディアナと二人外に出た。ランドルフが言った通り森の朝の空気は澄んでいて、気持ちがいいものだ。若干霧がかっているが幻想的でそこもまた良い。
炎魔法で昨日同様薪に焚き火を作り、お茶の用意をした。薪が夜露により湿っていたが、炎魔法で乾燥させたので問題なく燃え始めている。

「んで、どうしてこうなった。」
「明け方に結界魔法をすり抜けて侵入してきたみたい...。け、結界魔法を張っていたのはニコラスだったから...術者の彼が一番初めに気づいて...。」
「その声にクラーラとディアナが起きて応戦していた感じか?明け方から今となるともう既に数時間は続いてるのか...俺もよく起きなかったものだな。」
「そ、それに関してはランドルフ殿下がアーサーに防音魔法を掛けてたから...。ニコラス達との言い争いに意識が今は向いちゃってるみたいだから、魔法の効力が消えたのだと、思う。」
「...まじか。」

言葉が出てこない。
何のために二人が来たかっていうと、自惚れてしまうが俺に逢いに来たからなのだろう。だが、今回は教員が決めた面子でサバイバルキャンプを行わなければいけない行事である。
二人も昨日の時点で三人が問題無い人物であると判断したはずだ。どうしたのだろう。

「...アーサー?」
「あぁ...いや。その、どうやってあの二人に帰ってもらうか考えてたんだ。心配ねぇよ。」
「...そう?えっと、ほらお茶が出来たよ。飲んで一息つこう。」
「ありがと、そうする。」
「んじゃぁ俺も貰おうかなー?」
「っ?!レンフレッド!!」
「んー?話し続けてたら喉乾いてきてさ。俺もくれるか、バイルシュミット。」
「あ、はい。」
「それにしても......随分と仲良くなったんだなぁ?」
「まぁ、サバイバルだし自然とやり取りは増えるから。」
「......そうだな。そうだよな。」
「?」

転生初日並のビックリ具合だ。
気配を殺して俺の背後に立っていたのだ。...いつから居たのやら。いや、怖いから考えないようにしよう。
そうこう考えてる内にレンフレッドが俺の横に座りディアナから受け取ったお茶を啜っていた。

「二人はどうしてここに?」
「駄目だったか?」
「行事の目的に反している、駄目だろう。」
「あはは!まぁ、確かにそうだな。分かったこれ飲んだら帰るよ。」
「...そうしてくれると有難い。その...。」
「...なぁに?」

彼の服の裾を摘み、互いの瞳を合わせる。普段よりも藍色の瞳が暗い気がする。

「明日には、逢えるだろ?これからも一緒にいるんだから...だから、少しの間だけ我慢してくれ。」
「......ははっ。本当に適わねぇな。」
「わっ!!!」

いつの間にやらレンフレッドはお茶を地面に置いていたみたいだ。
ふわっと自分の鼻腔に微かに自分以外の汗のかおりが触れた。
全身に圧迫感と微熱が降り注ぐ。
レンフレッドにぎゅっと抱き締められてしまっていた。二回りくらい大きな身体にすっぽりと収まってしまって何だか変な感じ。

「レ、レンフレッド?」
「今回はこれだけで許してやるよ。また、明日な?」
「う、うん。」
「ははっ、困った顔してる。役得だなこりゃ。......ランドルフー!!帰るぞー!!」

テントの出入り口で二人が話していた。
ランドルフが少しムッとした顔をしていたが、レンフレッドが宥めているようだ。
そうして、そのまま彼等は俺達の野営地から退出して行った。
レンフレッドの耳たぶが赤くなっていたのが見えた。
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