俺らの歌を聞いてくれ

白川いより

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本番

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「本番って…」
「お前はそこ座っときゃいいからさ、」
「はぁ?」
 男は便器に座っている僕に跨がるように腰を下ろし、自分で後ろをほぐし始めた。
 このときやっとこれから起こるであろうことを理解した。
「うそだろ、お前」
「動くなよ」
そういうと男は屹立したそれを一気にのみこんだ。肉壁の感触が自身のそれを覆いつくす。
「んっ、あっ、やば」
男は自身のいいところに擦り付けるように腰をそらしながら身体を揺らした。
その度に小さく開いた口から喘ぎ声が漏れだし、耳を震わせる。
「…っ」
僕は彼より先に達しないように目をぎゅっと瞑りながら歯を食い縛り、一方的に与えられる快楽からなす術もなくただ耐えるしかなかった。
「あ、っいく」
彼は刺激を一心に受けるように身体を反らせながら僕の腹に精液を巻き散らかした。
その刺激で僕も等々達してしまった。

「ふぅ、つかれたぁ」
男は気だるそうにそう言うと、横に設置されているトイレットペーパーを数回巻き取り、めんどくさそうに僕の腹を拭った。
「おい、お前…。」
「ごめんって、でも中に出したお前の方が悪くない?」
「いやまず何やってんだよ!こんなところで急に」
「でもお前も逃げなかったじゃん。お前だったら俺なんて簡単に突き飛ばせたでしょ?」
「…。」
なにも反論できぬまま自分の半分ほどの肩幅しかずほない男をまじまじと見る。
やっぱり特に目元があいつに似ている。
「なに、もう一回やりたいの?俺はいけるけど。」
熱視線に気づいたのか、男はほくそ笑む。
「なわけないだろ」
「あっそ。よし、綺麗になった!じゃあね。」
そう言うと男は持っていたちり紙を僕に押し付け、そのまま個室を後にした。パタパタと走っているような音が個室内にこだまする。
「えっ、ちょっと!?」
あわててズボンをずり上げて追いかけようとするが、動揺しているのか手が震えてうまく金具が閉まらない。
「…一体どうなってるんだよ。」
僕は彼の追跡を諦め、ただその場にへたりこむしかなかった。
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