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ポニーテール
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「あ、お久しぶりです。牧野さん!」
2週間ぶりのバイトで最初に声をかけてくれたのは一個年下だけど自分より先に就業している綾瀬さんだった。後ろでひとつに束ねた長い黒髪が彼女が動く度に跳ねる。
「あぁ、綾瀬さん。おつかれ」
「全然シフト入ってないからもうやめちゃったのかなって思いましたよぉ。学校忙しかったんですか?」
「まぁね、ちょっと立て込んでてさ」
「ならいいけど、あっ、いらっしゃいませー!」
入店してきた家族連れの客に沈んだ日を呼び起こすような明るい声で接客する綾瀬さんを尻目に、僕はいらっしゃいませー、とか細い声で呟きながらそそくさとキッチンに入る。
前のシフトの人が残していった、うず高く積み上げられた皿が目に入り、無意識にため息をついた。
「やっとお客さん減ってきたね」
午後11時を少し過ぎた辺りで綾瀬さんが汚れた食器をお盆に積んでこちらにやってきた。
「いまどれくらい?」
「カップルが一組だけ。私もうそろそろ上がりなんだー」
「え、俺も。11時半上がり。」
「やった、じゃあ一緒に帰りましょうよ」
綾瀬さんは目尻が溶けるように笑う。
「うん、そうだね」
僕も目をぱちぱちさせてみたが、眼球が凝り固まったような音がしただけだった。
「おつかれさまです。今日はお客さん少なかったね」
「確かに、まぁ平日だしな」
「牧野さんが居たから来なかったんじゃない」
あはは、と声をふわふわさせながら笑う綾瀬さんを盗み見る。まばらに散らばった細い前髪が白い額に強烈なコントラストを放っている。
「ねぇ、そういえばさ」
綾瀬さんはそう言うと大きな通学用のリュックに細い腕を突っ込み、奥底のほうをごそごそとまさぐった。
「あ、あったあった。」
綾瀬さんの手のひらから出てきたのはくしゃくしゃになった紙切れ2枚だった。
「これ、さっき学校来る前に友達からもらったんですよね。なんかのライブ?みたいなやつらしくて」
そう言いながらその紙切れをゆっくりと広げていく。
「へぇ」
それが2枚あることと、それについて僕に話したことが導き出す結論に気づきながらもそれを言い出すことはできなくてただその時間を天井と壁の境界を凝視することでやり過ごす。
「それで、その…。よかったら今度一緒に行きません?」
綾瀬さんは手のひらでそれを撫でるように伸ばしながら、消え入りそうな声でそう言った。
「えっ?」
分かってはいたものの、いざそんなことを言われると頭が熱を帯びたようにぼーっとして動きが鈍くなる。
「別に予定があるならいいですけど。」
「えっ、いやそういうわけじゃ」
僕の煮え切らない態度に嫌気がさしたのか、綾瀬さんはすうっと鼻から息を押し出すと、それをポケットにねじり混んだ。
「いやまって、行こうよ。せっかくだしさ」
彼女の赤く染まった耳の先を見ながら少し上ずった声でそう言う。
「無理しなくていいんですよ。」
「いやいや、俺もそういうの行ったことないし。ちょっと気になるなぁって」
「そうですか…、じゃあ行きましょう!はいこれあげます」
綾瀬さんが床に落とすように渡したチケットをすんでのところでキャッチする。
「来週なんですけど、空いてますか?」
「うん、大丈夫そう」
「じゃあまた連絡しますね。お疲れさまでした!」
いつの間にか綾瀬さんの声はいつもの夜の寂しさを払ってしまうような明るい声に戻っていた。
2週間ぶりのバイトで最初に声をかけてくれたのは一個年下だけど自分より先に就業している綾瀬さんだった。後ろでひとつに束ねた長い黒髪が彼女が動く度に跳ねる。
「あぁ、綾瀬さん。おつかれ」
「全然シフト入ってないからもうやめちゃったのかなって思いましたよぉ。学校忙しかったんですか?」
「まぁね、ちょっと立て込んでてさ」
「ならいいけど、あっ、いらっしゃいませー!」
入店してきた家族連れの客に沈んだ日を呼び起こすような明るい声で接客する綾瀬さんを尻目に、僕はいらっしゃいませー、とか細い声で呟きながらそそくさとキッチンに入る。
前のシフトの人が残していった、うず高く積み上げられた皿が目に入り、無意識にため息をついた。
「やっとお客さん減ってきたね」
午後11時を少し過ぎた辺りで綾瀬さんが汚れた食器をお盆に積んでこちらにやってきた。
「いまどれくらい?」
「カップルが一組だけ。私もうそろそろ上がりなんだー」
「え、俺も。11時半上がり。」
「やった、じゃあ一緒に帰りましょうよ」
綾瀬さんは目尻が溶けるように笑う。
「うん、そうだね」
僕も目をぱちぱちさせてみたが、眼球が凝り固まったような音がしただけだった。
「おつかれさまです。今日はお客さん少なかったね」
「確かに、まぁ平日だしな」
「牧野さんが居たから来なかったんじゃない」
あはは、と声をふわふわさせながら笑う綾瀬さんを盗み見る。まばらに散らばった細い前髪が白い額に強烈なコントラストを放っている。
「ねぇ、そういえばさ」
綾瀬さんはそう言うと大きな通学用のリュックに細い腕を突っ込み、奥底のほうをごそごそとまさぐった。
「あ、あったあった。」
綾瀬さんの手のひらから出てきたのはくしゃくしゃになった紙切れ2枚だった。
「これ、さっき学校来る前に友達からもらったんですよね。なんかのライブ?みたいなやつらしくて」
そう言いながらその紙切れをゆっくりと広げていく。
「へぇ」
それが2枚あることと、それについて僕に話したことが導き出す結論に気づきながらもそれを言い出すことはできなくてただその時間を天井と壁の境界を凝視することでやり過ごす。
「それで、その…。よかったら今度一緒に行きません?」
綾瀬さんは手のひらでそれを撫でるように伸ばしながら、消え入りそうな声でそう言った。
「えっ?」
分かってはいたものの、いざそんなことを言われると頭が熱を帯びたようにぼーっとして動きが鈍くなる。
「別に予定があるならいいですけど。」
「えっ、いやそういうわけじゃ」
僕の煮え切らない態度に嫌気がさしたのか、綾瀬さんはすうっと鼻から息を押し出すと、それをポケットにねじり混んだ。
「いやまって、行こうよ。せっかくだしさ」
彼女の赤く染まった耳の先を見ながら少し上ずった声でそう言う。
「無理しなくていいんですよ。」
「いやいや、俺もそういうの行ったことないし。ちょっと気になるなぁって」
「そうですか…、じゃあ行きましょう!はいこれあげます」
綾瀬さんが床に落とすように渡したチケットをすんでのところでキャッチする。
「来週なんですけど、空いてますか?」
「うん、大丈夫そう」
「じゃあまた連絡しますね。お疲れさまでした!」
いつの間にか綾瀬さんの声はいつもの夜の寂しさを払ってしまうような明るい声に戻っていた。
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