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八章 彼女が彼と、住む理由。
三十八話 夢の中で、彼女は幸せを思う(1)
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考えてみれば、息をするように編み物をする彼女にとって確かなストレスだったのだろう。
包帯に固められた手が、動かないということは。
彼の部屋で、彼を待っていた筈なのに。
ほんの少しソファで休んでいただけで……ここに来てしまうなんて。
「あ、魔女だー」
「起きたの?」
干し草のベッドの上に起き出した彼女をめざとく見つけた仔がいたようで、ちょこちょこと仔狼達が足元へやってくる。
キャンキャンと高い声で鳴き、前脚を上げて甘えかかってくる姿は、どうしたって愛くるしい。
それを順繰りに撫でてやって、彼女は笑顔を浮かべた。
(アニマルセラピーってやつよね、はあ、とっても癒される)
しばらく撫でてやってから、彼女は棚の上の方から編み物道具を持ってきた。
そしておもむろに、極太の毛糸と太い鉤針を取り出し作り目をする。
「ああ、やっぱり毛糸に触ると落ち着くわ……」
たった一日二日触らなかったぐらいで大袈裟な、と言うなかれ。
伊都にとって編み物は息を吸うぐらいに自然なもので、忙しさに数分しか触れない日があったとしても、毎日欠かさずに触っていたものなのだ。
手持ち無沙汰な気分になるのも、致し方がない。
(うーん。現実ではどれぐらいで編めるようになるかしら。サキさんのお友達のオーダーも受けているし、編み物解禁まで余り時間が掛かるようでも困るのよね)
「魔女、あそんでー」
ぼろ切れボールを鼻先で押し出す仔の頭を撫でて伊都は微笑む。
「はいはい、これが終わったらね。一緒にボール遊びしましょう」
毛糸の感触に満足げに息を吐き、足元を仔狼に囲まれながら伊都はさくさくとそれを編む。
ふんわり空気を編むように毛糸をぐるぐる編んでいけば、それはやがて平面になる。
仔狼らは飽きないでそれを見る。
「魔女はすげえなあ」
彼らにとって、一本の線が編み込まれ、平面を作っていくのが不思議でならない。
「私のね、お婆ちゃんが教えてくれたのよ」
「オバアチャン、って何だ?」
足下でこちらを見上げきょとんと目を丸くする彼らへ、伊都は優しく語りかける。
「私のお母さんの、お母さんにあたる人ね。その人が大好きで、小さな頃、せがんで教えて貰ったの」
幼い仔らには、祖母というものがぴんとこなかったみたいで、「ふーん」 と分かったような、分からないような曖昧な返事をする。
「それはもういいや。もっと編んでよ」
「うん、ボクももういいや。それよりあのキラキラしたの見せて」
子供らしい飽きっぽさで話題を放り、彼らは伊都に魔女の手仕事を見せろとねだる。
「はいはい」
くすりと笑った伊都は、仔狼のリクエストに応えて編み物を進めることにした。
森の動物達は魔女を尊敬している。彼らが出来ない便利なものを生み出すその手を信頼している、と言い換えてもいいが。
そんな理由で、仔狼も魔女という隣人に関心を寄せる。それは期待と言ってもいいかも知れない。
それ以上に。
母を恋しがる子供達は、伊都が持つ優しさや温もりに甘えているのだけれど。
包帯に固められた手が、動かないということは。
彼の部屋で、彼を待っていた筈なのに。
ほんの少しソファで休んでいただけで……ここに来てしまうなんて。
「あ、魔女だー」
「起きたの?」
干し草のベッドの上に起き出した彼女をめざとく見つけた仔がいたようで、ちょこちょこと仔狼達が足元へやってくる。
キャンキャンと高い声で鳴き、前脚を上げて甘えかかってくる姿は、どうしたって愛くるしい。
それを順繰りに撫でてやって、彼女は笑顔を浮かべた。
(アニマルセラピーってやつよね、はあ、とっても癒される)
しばらく撫でてやってから、彼女は棚の上の方から編み物道具を持ってきた。
そしておもむろに、極太の毛糸と太い鉤針を取り出し作り目をする。
「ああ、やっぱり毛糸に触ると落ち着くわ……」
たった一日二日触らなかったぐらいで大袈裟な、と言うなかれ。
伊都にとって編み物は息を吸うぐらいに自然なもので、忙しさに数分しか触れない日があったとしても、毎日欠かさずに触っていたものなのだ。
手持ち無沙汰な気分になるのも、致し方がない。
(うーん。現実ではどれぐらいで編めるようになるかしら。サキさんのお友達のオーダーも受けているし、編み物解禁まで余り時間が掛かるようでも困るのよね)
「魔女、あそんでー」
ぼろ切れボールを鼻先で押し出す仔の頭を撫でて伊都は微笑む。
「はいはい、これが終わったらね。一緒にボール遊びしましょう」
毛糸の感触に満足げに息を吐き、足元を仔狼に囲まれながら伊都はさくさくとそれを編む。
ふんわり空気を編むように毛糸をぐるぐる編んでいけば、それはやがて平面になる。
仔狼らは飽きないでそれを見る。
「魔女はすげえなあ」
彼らにとって、一本の線が編み込まれ、平面を作っていくのが不思議でならない。
「私のね、お婆ちゃんが教えてくれたのよ」
「オバアチャン、って何だ?」
足下でこちらを見上げきょとんと目を丸くする彼らへ、伊都は優しく語りかける。
「私のお母さんの、お母さんにあたる人ね。その人が大好きで、小さな頃、せがんで教えて貰ったの」
幼い仔らには、祖母というものがぴんとこなかったみたいで、「ふーん」 と分かったような、分からないような曖昧な返事をする。
「それはもういいや。もっと編んでよ」
「うん、ボクももういいや。それよりあのキラキラしたの見せて」
子供らしい飽きっぽさで話題を放り、彼らは伊都に魔女の手仕事を見せろとねだる。
「はいはい」
くすりと笑った伊都は、仔狼のリクエストに応えて編み物を進めることにした。
森の動物達は魔女を尊敬している。彼らが出来ない便利なものを生み出すその手を信頼している、と言い換えてもいいが。
そんな理由で、仔狼も魔女という隣人に関心を寄せる。それは期待と言ってもいいかも知れない。
それ以上に。
母を恋しがる子供達は、伊都が持つ優しさや温もりに甘えているのだけれど。
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