上 下
213 / 220
八章 彼女が彼と、住む理由。

三十五話 珍客の来訪と彼の部屋(1)

しおりを挟む
 伊都が痛みに負けベッドに潜り込んだのを横目に、白銀は来訪者の相手をする。
 病人のいる部屋に連れて来たくない、という白銀の意向により、ロビーで話し合いを済ませたようで、伊都はその間かやの外であった。

 ……二時間後。
 薬が効き、痛みは残るものの、クッションを背当てにベッドの上で座れるようになった伊都はその人物と会う事となった。

「昼の間、白銀氏が仕事で出ている間だけ、伊都さんの事を任されるという事で話がつきましたっす! 秋葉っす!」
「よ、よろしくお願いします……?」
 握手を求めてきたので手を差し出すと、包帯だらけの手をそっと握り返してくる。
 怪我人という事を気遣える人物であるようだ。
 
「買い物でも仕事の送迎でも、何でもするっす!! 便利に使ってやって下さいっす!」
 そして、熱意がすごい。
「え、初対面の方にそれは無理かと……」
 思わずその勢いにひるむ伊都であるが。
「いやいやっ!? この仕事を完遂したら、リッコ姉がモデルの仕事を紹介してくれるんで、マジ追い返さないでくれっす。元ニートだけど何でもやります、頑張るっす!」
 免許も現住所も白銀氏に押さえられてるっすから、秋葉は悪い事しないんで安心してくれっすよ! と言う彼女は、何を思い出したのか微妙にひきつった笑いを浮かべた。
「はあ……。では、この通り私はしばらく部屋を出られないと思うので、買い出しをお願い出来ますでしょうか」
「はい喜んで!」

(ま、また個性的な人が来たものね……リッコったら、恨むわよ)
 勢いに負けて「???」 と頭に疑問符が沢山並ぶも、思わず承諾する伊都である。

 そこでようやく、観察する余裕が出来た伊都は、じっくりと秋葉を見つめる。
 秋葉は現実味のないピンクゴールドに染めた髪にかわいらしい顔立ちの、人懐こそうな人物だ。
 年の頃は二十代前半か。
 伊都の周りで例えるなら、奈々に近そうなタイプである。
(こんなに元気で社交的な人なのに……元ニートって、何があったのかしらね)
 元引きこもりとしては、少しだけ親近感を覚えるけれど。
 彼女はすらりとして長身で、何故か服装はユニセックスなものを着ている。
 ただのシャツとジーンズなのに、トレーニングでもしているのか、綺麗に引き絞られた身体にぴったりのそれは彼女の美貌を引き立たせていた。
(この華やかな感じからして……リッコのモデルの弟子とか、そういう人なのかしら?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

私が欲しいのならば、最強の父と母を納得させてみよ!話はそれからだ!

文月ゆうり
恋愛
ユジイット王国の末の王女である十二歳のユリーシアは、デイグレード帝国の側妃として後宮入りした。 帝国初の側妃である。 十五歳年上の皇帝に熱望された結果による後宮入りなのだが、祖国では愛を得られず、何も与えられなかったユリーシアには理解できない。 そうして皇帝との初夜で、ユリーシアは困惑するのである。 何故なら、皇帝と彼の愛する皇后。寝台にて二人に挟まれて川の字になって、健やかに眠ることになったからだ。 ※主人公は悲しい少女時代を送っていましたが、皇帝(父)と皇后(母)に甘やかされる側妃(子供)になります。 シリアスは混じりつつ、ほのぼのしています。 恋愛は後に入ります。

6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~

皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。 それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。 それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。 「お父様、私は明日死にます!」 「ロザリア!!?」 しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

処理中です...