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八章 彼女が彼と、住む理由。

十話 団らんと共に届くメッセージ(2)

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 コール三回目で、受話ボタンをタップすれば。
『やぁ伊都! 奈々だよー。変質者に遭ったって本当? 白銀さんに慰めてもらった? っていうか身体の具合はどう? それはそれとして、北欧はいいねー、可愛い雑貨がざっくざくだよー』
 闊達でおしゃべりなその電話の主は、間違いなく親友の奈々だった。
「奈々、た、助かったわ……」
 伊都は安堵のあまり、閉じたドアに寄りかかって大きなため息を吐く。
『えっ、何、なんなの? 何でそんな疲れたような声してるの? サキさんから伊都が変質者に襲われたけど無事だってメッセージ届いたから、慌てて電話したのに』
 サキは海外で仕入れ中の奈々を気遣ってか、大分端折って連絡していたようだ。
 それもあって、電話越しの親友は困惑している様子。
 慌てて、伊都は元気な声で答えた。
「あ、ああ、こっちの話よ? 私はちょっと身体を打ったけれど、元気だから」
『そう? それならいいけど……あ、そういえばさっきサキさんに貰ったメッセージにあったけれど、伊都ってばとうとう同棲しちゃうんだって? 羨ましいなー、あんなイケメンとらぶらぶ同棲生活なんて!』
「……え?」

 伊都は奈々の朗らかな声に固まった。

『白銀さんの部屋ってやっぱりイケメンだけあってモデルルームみたいなスタイリッシュなアレなのかなぁ。伊都は知ってるの? っていうかもうお泊まりとかした?』
 無邪気に聞いてくる奈々はきっと悪くない。彼女は裏表などない。ただただ正直なだけだ。だから今も興味で、それを聞いている。

「あ、あの……何で、同棲の事、知って」
 サキが電話を切ってから、ほんの十分程しか経っていないというのに、何なのだろうその、伝達の早さは。
『えっと、ほら私バイヤーとしてこっち来てるじゃない? 海外雑貨はサキさんがリード取ってやる事になってるし、だから、かなり頻繁にメッセージ送りあってるんだよね』
「……ええ」
『で、こっちで気になった雑貨の候補をね、ざっとサキさんに写真送ったりして紹介したんだ。その返事に、伊都が白銀さんと同棲って書かれてて、驚いて電話したの』
「そ、そう。お仕事大変ね……」
『いやー、それほどでも! えへへ、渡航目的がビジネスって言えるのいいねー』
「そうね……」
 半ば機械的に答えながら、奈々の朗らかな声を聞きつつ。

(サキさん……どうして海外に居る人にまで連絡するのよ。内緒って言わなかったのが悪かったの? 私のせいなの?)

 三人目の賛同票を得て、もう伊都の逃げ場は半ばふさがっている。
 伊都は、現代の情報速度と何処でもつながる利便性を、初めて憎んだ。
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