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SP(息抜きサブストーリー集)
SP2 その狼は、ただ愛を欲しがる。(5)
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━━そして彼は、その怒りを爆発させた。
そこは岩山の巣穴の中だ。
場所は、魔女とジルバーの寝るベッド。ベッドにあるのだから、きっとそれは夜のことで。
彼女を裸に剥く。泣いてわめいて許しを乞うても、もう許さない。
「遅いんだよ、もう何もかも」
彼はその手で彼女に触れた。
「……手?」
一度だって狼から人型になろうなどと思った事もないのに、不思議な事だ。彼は確かに、その手で彼女に触れていた。
考えてみれば、そうだ。
彼は魔女がジルバーに抱かれている姿しか知らない。彼女にしか欲情した事もない彼は、獣の姿で彼女を抱く自分というのもまたイメージしづらかった。
だがよく出来たもので、その身体は柔い皮膚など晒さずに済むようになっている。顔に触れれば狼の顔が、手足にもいつものふさふさとした被毛があるから、彼は安心して、はらはらと涙を流し、ぱくぱくと唇を動かす彼女を組み敷いた。
「どうして、受け入れないんだよ、俺の……」
なぜだろうか。
ここでは彼の思いのままになる筈なのに、何故か彼女はちっとも彼の言うことを聞かない。
「俺のモノなのにっ!」
声なき悲鳴が上がる。
彼女を抱いている筈なのに、心地よさよりも空しさが勝る。
「くそっ」
彼は何度も叫んだ。
「くそっ」
ままならない現実に、ままならない夢想に、空しさを叫んだ。
「くそっ、くそっ、何でだよ!!」
そして彼は……。
……そこで、目が覚めた。ぱちりと目を開ける。
「……くっそ、最悪だ」
狼の大事なところは普段外に出ていない。それが露出するのは、雌に子種を与える時のみだ。
だから、現実の彼は起きた時粗相をしているという事はなかったのだが……。
(あんな夢見るとか、どんだけ俺は魔女が好きなんだよ……)
空しい、ひたすらに空しい。
暖炉の前、いつもの場所で彼は独りで寝ていた。その事実が、空しいのだ。
そんな時の事だ。
「あら珍しいわね、こんな時間まで寝ているなんて」
魔女が、珍しく彼女の方から声を掛けてきた。
「あんた、友達の所に行ってたんじゃなかったのか?」
若い狼が、怖がられている事も忘れて思わず聞くと。
「早朝に連れ戻さ……んんっ、ジルバーが迎えに来てくれたのよ」
と、魔女がいつもの調子で返してくる。
その表情は微妙に固く、声だって柔らかさはないどこか突き放したものである。それでも、昨日の今日で話せるだけで十分だ。
彼の尻尾はゆるく揺れた。
けれど、その距離が問題だ。若い狼がひとっ飛びには近づけない程度に、十分に離れた位置に彼女は立っている。
(用心深いことで)
彼は鼻面にしわを浮かべ、ぐるると喉を鳴らす。
それに気づけば不機嫌さが増してくる。
「何だよ、何か用か」
ムカムカする胸にそっけなく言えば、彼女は困ったように笑う。見るからにして曇った笑みは、若い狼には腹の立つもので。
「あのね、その」
怯えを浮かべておどおどと言うから、更に腹が立って。
「……チッ」
彼が舌打ちするのも、仕方ないというものだろう。
だが、その口から昨日のような暴言は飛び出さない。
そんな彼女の後ろには、巨大な狼姿の兄……ジルバーが睨みを効かせているからだ。彼は、失言ばかりして愛する魔女を怯えさせる弟を監視しているようだった。
(チビどもめ、何か言ったな)
体長二メートルを越す迫力ある姿には、流石に強心臓の持ち主の若い狼も食って掛かれる勇気はなく。
なので、多くは語らず、短いセンテンスでやり取りするにとどめたのである。
そこは岩山の巣穴の中だ。
場所は、魔女とジルバーの寝るベッド。ベッドにあるのだから、きっとそれは夜のことで。
彼女を裸に剥く。泣いてわめいて許しを乞うても、もう許さない。
「遅いんだよ、もう何もかも」
彼はその手で彼女に触れた。
「……手?」
一度だって狼から人型になろうなどと思った事もないのに、不思議な事だ。彼は確かに、その手で彼女に触れていた。
考えてみれば、そうだ。
彼は魔女がジルバーに抱かれている姿しか知らない。彼女にしか欲情した事もない彼は、獣の姿で彼女を抱く自分というのもまたイメージしづらかった。
だがよく出来たもので、その身体は柔い皮膚など晒さずに済むようになっている。顔に触れれば狼の顔が、手足にもいつものふさふさとした被毛があるから、彼は安心して、はらはらと涙を流し、ぱくぱくと唇を動かす彼女を組み敷いた。
「どうして、受け入れないんだよ、俺の……」
なぜだろうか。
ここでは彼の思いのままになる筈なのに、何故か彼女はちっとも彼の言うことを聞かない。
「俺のモノなのにっ!」
声なき悲鳴が上がる。
彼女を抱いている筈なのに、心地よさよりも空しさが勝る。
「くそっ」
彼は何度も叫んだ。
「くそっ」
ままならない現実に、ままならない夢想に、空しさを叫んだ。
「くそっ、くそっ、何でだよ!!」
そして彼は……。
……そこで、目が覚めた。ぱちりと目を開ける。
「……くっそ、最悪だ」
狼の大事なところは普段外に出ていない。それが露出するのは、雌に子種を与える時のみだ。
だから、現実の彼は起きた時粗相をしているという事はなかったのだが……。
(あんな夢見るとか、どんだけ俺は魔女が好きなんだよ……)
空しい、ひたすらに空しい。
暖炉の前、いつもの場所で彼は独りで寝ていた。その事実が、空しいのだ。
そんな時の事だ。
「あら珍しいわね、こんな時間まで寝ているなんて」
魔女が、珍しく彼女の方から声を掛けてきた。
「あんた、友達の所に行ってたんじゃなかったのか?」
若い狼が、怖がられている事も忘れて思わず聞くと。
「早朝に連れ戻さ……んんっ、ジルバーが迎えに来てくれたのよ」
と、魔女がいつもの調子で返してくる。
その表情は微妙に固く、声だって柔らかさはないどこか突き放したものである。それでも、昨日の今日で話せるだけで十分だ。
彼の尻尾はゆるく揺れた。
けれど、その距離が問題だ。若い狼がひとっ飛びには近づけない程度に、十分に離れた位置に彼女は立っている。
(用心深いことで)
彼は鼻面にしわを浮かべ、ぐるると喉を鳴らす。
それに気づけば不機嫌さが増してくる。
「何だよ、何か用か」
ムカムカする胸にそっけなく言えば、彼女は困ったように笑う。見るからにして曇った笑みは、若い狼には腹の立つもので。
「あのね、その」
怯えを浮かべておどおどと言うから、更に腹が立って。
「……チッ」
彼が舌打ちするのも、仕方ないというものだろう。
だが、その口から昨日のような暴言は飛び出さない。
そんな彼女の後ろには、巨大な狼姿の兄……ジルバーが睨みを効かせているからだ。彼は、失言ばかりして愛する魔女を怯えさせる弟を監視しているようだった。
(チビどもめ、何か言ったな)
体長二メートルを越す迫力ある姿には、流石に強心臓の持ち主の若い狼も食って掛かれる勇気はなく。
なので、多くは語らず、短いセンテンスでやり取りするにとどめたのである。
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