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SP(息抜きサブストーリー集)

SP2 その狼は、ただ愛を欲しがる。(2)

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 だが、権利の主張をすれば兄が怒るのは見えている。
 ジルバーは群れの長として寛大で、餌も等分に分けるし、元の群れで新しいリーダーに殺されかけた時は逃がしてもくれた。恩のある存在で、これからも支えたいとも思う。
 だが、女が絡むとなると別の話。
(俺が見つけたんだ、俺のだ)
 そう、強く主張したい。

 そして、彼は魔女を睨みつけながら、思春期特有の我が儘さと理不尽さにて強く思う。
(俺が最初にマーキングしたのに、ジルバーに腹を見せる魔女が悪い)
 兄に直接言えないのは、単純に怖いからである。
 前にマーキングの真似事をしたら、急所を噛まれて巣を放り出されて大変な目に遭った。

 だが。
(番の相手は女が選べるんだから、魔女が俺を選べばいいだけじゃないか)
 最初に見つけたのだし、最初に助けたのだから。俺は権利があるというのが、彼の言い分である。
 
 だが、これもなかなかにおかしな主張である。
 彼は今まで、魔女に対し求婚らしい事をした試しがない。むしろ嫌がらせのみ。
 ジルバーに警戒されていて、彼のマーキングがされている魔女に本能的に手を出しづらいという点もあるが、それでも若い狼が単純に女性に嫌われる事しかしていないのは事実だ。

 それでいて、若い狼は魔女が彼を好意よりは嫌い成分が勝る心の配分であることを、理解していない。
 むしろ魔女は若い狼に対し、好き百パーセントだと、勝手に自惚れている。
 自意識過剰で自尊心が無駄に高い、思春期あるあるではあるが、この狼、なかなかの空回りぶりだ。
 
「うう、またあの子睨んでるわ……怖いなあ。嫌いなら嫌いで、放っておいて欲しいのだけれど」
 彼の理不尽さに、伊都はほとほと手を焼いていて、自然と距離を置かれている事にも気づいていない。
 今だって、いきなりうなり声を上げに睨んでくるものだから、魔女が怯えているのだけれど、彼はその事に気づこうとすらしない。
 こうして意地悪男子は、気弱な女子にどんどんと嫌がられ、好きの成分は目減りしていく。

 でも、そんな事を知らず。
(俺のものなのに、俺に尻尾を振らない魔女が悪い)

 自分は悪くない、魔女が悪いと。
 そう、若い狼は理不尽にも思いこんでいた。
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