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SP(息抜きサブストーリー集)
SP1 仔狼だって、押し倒したい。(1)
しおりを挟むその日は、よく晴れた日であった。
仔狼ギャンも、お散歩がてらの狩りに出掛けたいところであるが……。
「チックショウ。なんでおいらケガなんかしちまったんだ」
窮鼠猫を噛むではないが、うっかりとノネズミに噛まれて痛む前脚をぺろぺろと舐め、彼はため息を吐いた。
けが人は大人しくしていろと、引率役の若い狼に言われ、今日は一人お留守番と、そんな訳である。
「そう落ち込むものではないわ、皆、貴方を心配しているのよ?」
落ち込むというか、ふてくされた彼に魔女が声を掛ける。
彼女は、素焼きの壷が入った籠を持って、ギャンの座る暖炉の前の大きなラグが敷かれた場所へと向かってくる。
手製のルームシューズを履いた彼女の足音は小さく、しきりにぐるぐると喉を鳴らしぼやいていたので聞き落としたらしい。
「でもなあ……」
彼はぐるると喉を鳴らし、ラグの上に顔を伏せた。
分かっているのだ、そんな事は。
焦ったところで一朝一夕に、狩りの腕が上がる訳でも、身体が大きくなる訳でもない。
育ち盛りの彼は、最近は随分と狩りの腕も上がってきた。
しかし、身体の大きさはまだまだ他と比べて小さくて、大物の狩りにはついていけない事も多い。
そんな彼の真骨頂は、その素早い身のこなし。
集団で狩りをする狼だからこそ、身体の小さな彼でも役立てる場面があり、斥候としての役目も期待されていて。
群れの為に役立てるのだと、そう意気込んでいた先の事だから、自分への失望も大きい。
「たかがノネズミにやられるなんて、格好わりぃじゃねぇか……」
ぼそりと彼は小さく呟いた。
そうして、恥ずかしさやら自己嫌悪に悩まされていると。
「怪我したのは何処なの? 化膿したら大変だし、薬を塗りましょうか」
ラグへ腰を落とした伊都が、すぐ側から聞いてくるではないか。
「ゲッ、薬かよ」
彼はサッと怪我した前脚を隠そうとする。
が、相手も負けていない。
「あら、そうはいかないわよ。これは群れのリーダーの言いつけですからね」
と、普段の鈍さは何処にいったのかと言うように、魔女は素早くギャンの前脚を掴んでくるではないか。
「うわっ、いてぇっ!」
「ほら、やっぱり痛いのでしょ。ああ、傷はそう深くはないようね。これなら、薬を塗ればすぐによくなるわ」
深かったらどうしようかと思ったわ、そう言って、伊都はほっと息を吐いた。
「アルコールで傷口を洗うわね。しみると思うけど、我慢して頂戴」
伊都は古布を前脚の下に置くと、ジルバーの晩酌用にと分けて貰っていたスピリタスの壷をあけ、そっと傷口に掛ける。
「いてえっ」
アルコール特有のくらっとくる強い臭いがしたかと思えば、傷口にしみるものを掛けられてギャンは暴れる。
だが、幾ら華奢ななりとはいえ成人女性の全体重を掛けられてしまえば、小柄な彼は抜け出す事ができない。
「はい、もうおしまいよ。後は薬を塗って、包帯を巻いておきましょうね」
それは、一瞬の事だったのだろう。
頭を撫でられ、柔らかい身体が離れていったと思った時にはもう、傷口は綺麗に洗われていて。
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