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七章 間章 目を覚ませば、そこは見慣れた。

7ーex.間章 銀狼は奔走す(2)

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「この企画には何百人、いや下準備からしたらもっと多いかな。ともかく凄い人数が関わって、君が采配を振るってる。君の仕事はさ、地味だけど尤も重要な役目だよ? 全体理解してる君が抜けたら、これまでの準備が滅茶苦茶になっちゃうでしょ」
「ですが」
「はいはい。愛する織部ちゃんが苦しんでるのにねぇ、可愛そうでちゅねー、で? 側に行ってもせいぜい寝顔を見るだけなのに、仕事放って行くの? 駄目な男だねぇ、白銀君は」

 茶化したように言う松永。だが、そう言われれば白銀も言葉がない。

「…………」

 悔しげに沈黙する白銀に、松永はニヤリと悪い笑みを浮かべて言う。

「せめて、俺や同僚にでも仕事引き継いでから行きなさいよ。資料渡して、ざっとでも説明しなさい。それで数時間はこの場を保たせてやるから」
「……松永さん」
「え、何その意外って顔。やだなぁ、僕だって部下は可愛いんだから、意地悪なんてしないって。特に、君は優秀だしねぇ、長く勤めて欲しいからさ! だからまあ、さっさと引継ぎして数時間程顔出して、それから今日明日と乗り切ってから、まあイチャイチャするなりしなさいよ」

 で、資料は? と、ニヤニヤ顔で空いた手を出す上司の老獪さは本物で、若造の白銀など結局、彼に踊らされるばかりである。


 立ち話も何だからと移動した展示場の喫茶スペースで、彼と上司は簡単な引継を行う。
 その際、サキ辺りにでも聞いたのか、恋人の事をさらりと教えてくれた。

「織部ちゃんは、歩道橋から落ちて直ぐに商店街の人に助けられたってさ。すぐに病院に運ばれたって言うし、そう重傷でもないんじゃないかな。犯人だって、あんな目立ちやすい場所で襲ったんだから、直ぐに見つかるよ」
「そう、ですか」
「あーあ、その全身でほっとしたーって感じ、本当にあの地味な子の事好きなんだねぇ、君。押し出しいいし、外面作るのも上手いのに、何だってあんなモッサイの……あ、あの、ただの感想だから、ね?」
 要らぬ事を言う上司に彼が静かに微笑んで見せると、何を感じたのか、松永はびくりと飛び上がってからしどろもどろに言い訳する。

 彼がわざとのように笑みを深めると、ものすごい焦り顔で視線がうろつきだす。

「ひ、引継も終わったし、早く織部ちゃんの所に行ってあげたらいいんじゃないかな……!」
「では、キーを返して頂けますか」
「ああ、そうだったそうだった。車のキーも返したよ、問題ないね!? じゃあ、僕は行くから!」
 彼に押しつけるようにして車のキーを戻した松永は、常にない程の勢いで席を立ち上がりそそくさと現場へ走っていった。
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