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五章 毎日、毎日、貴方を好きになる。

二十六話 編み物魔女は、贈り物を編む(2)

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 実際、商業目的としてはとても使いやすいのだ。リッコの専属ニット作家という看板は。
 
 モデルのリッコ。
 彼女は、その個性的な性格と率直な物言いから、近年、ご意見番としてニュースやバラエティなどにも顔を出すようになっており、一般的にも認知度の高い人物だ。
 日々のファッションなどを上げる画像系SNSでは、ぐんぐんとそのフォロワー数を伸ばしている、時の人と言ってもいい。
 そんな人物との関係を暴かれ、業界で噂の「リッコの専属」 が伊都であると分かったら……今のようにのんびり準備などしていられなくなるのは確実だ。
 
 だが、必ずしも故郷ティエラナタル改造計画に関わる全員が、責任を持って機密情報を保持出来るかと言えば不安がある。
 ……愉快犯である松永も居ることであるし。
 店の改装も進み、教養講座の講師候補……つまりサキや鵜飼シェフの友人達、スポンサー等々、事業に部外者が多く関わってきた現状、全ての関係者に箝口令を布く事は難しい。
 
 そこで、リッコとの直接の関連性をあいまいなものにする為、暫定的に、SNSや雑誌で未公開の画像を中心にして作品集を作る形にしたのだ。
 編みに編んだは大物小物の数々。それは友情の継続の証でもあり、リッコと過ごした七年の重みである。ちなみに、一番面倒なのは写真へ付けるコメントを考える事であった。シュシュやピアスといった小物が大多数を占めるも、百点以上あるので。

(ここで一番痛かったのは、白銀さんにまたご助力いただくようになったことよね……)
 もくもくと編み進めながら、出てくるのはため息ばかり。

 故郷の改造計画に加わりたいと言い出した白銀は、このニット作品集的ブログにも関わる事となっている。
 伊都の機械オンチぶりは相変わらずで、異様に進みが遅い為に、二人目のブログ管理者の一人として写真を投げると大体のページを未公開で作成してくれており、後はコメント付けをするところまでをサポートしてくれているのだ。お陰でここのところ、伊都なりの爆速更新が保たれている。相変わらず、白銀のスマートなフォローが輝く場面と言えよう。

 第三には現在勤めている会社の事務の引き継ぎである。
 色々平行しつつの状況ゆえ、満足に当たれているかと言えば怪しい。
(奈々や葉山さんには随分と面倒を掛けているわ……ここは反省ね)
 手が疲れたので今度はブログの更新をしつつ、伊都はため息を吐く。

 多くのタスクを均一に捌けるような、伊都はそんなに器用さは伊都にはない。
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