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五章 毎日、毎日、貴方を好きになる。
二話 頑固者には難しい問題
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熱が下がった伊都は、自然と目が覚めた。
いつもと同じ部屋。何の変哲もない日常の風景がそこにはある。
……だが。
すぐ側にある背中に伊都は驚愕し、がばりと勢いよく起きあがった。
「え?」
スーツ姿の彼が、伊都の部屋に居て。
「え?」
自分は昨日の部屋着のまま、ベッドで寝ていて。
「ええ?」
折角部屋に訪れてくれた、白銀の事を放って、今の今まで寝ていたのか、と。
伊都はベッドの上で呆然としていた。
ベッドのすぐ側のカーテンをめくれば、外は夕焼けに燃えている。時計の針を見ると六時。
(一日中、私寝ていたの……?)
「起きたのか」
伊都の声で気づいたのか、彼はローテーブルに向かって作業していた手を止めて、ベッドの方へと振り向く。
「す、済みません。お客様が来ているのに寝てたりして……」
伊都はベッドから抜け出し、カーペットの上へと正座して頭を下げた。
その顔は熱のせいでなく、羞恥の為に赤い。
「いや、熱が上がっていたんだ。むしろ寝てくれないと困る」
(あら?)
伊都は驚きに顔を上げた。
「しろがね、さん」
「何だ」
いつもの穏やかな笑顔もなく無表情で、僅かに眉を顰めるそれは、まるで夢の中の狼のようで。
「いえ、何でも……」
(ジルバーみたい、なんて言えないわ)
「どうした、まだふらつくのか。熱は」
さりげなく白銀の両手が伸び、頬を包まれたかと思えば彼の顔が近づいてくる。
思わず、伊都は目を瞑った。
「……ないな」
こつんと、額が合わさってすぐに去っていく。
(……な)
まるで当たり前のように。
彼は額で、熱を計った。
頬を包む大きな手は去らないで、真っ赤に染まった伊都の頬に触れたまま。
(なんなの、夢の続きなの?)
伊都は激しく動揺している。
伊都の知る、スーツの似合う都会的な男は、こんな接近なんてした事はなかった。
いつだって男性に怯える伊都の気持ちを汲んで、触れる時は一言声を掛け、最低限の接触で済ませてくれていた。
なのに、今は。
おそろしく整った顔でじっとこちらを見ながら、伊都の頬に触れている。
伊都は内心に悲鳴を上げていた。
「顔が赤い」
「は、恥ずかしいので……」
「気分はどうだ」
「あ、ぐっすり寝たので、大分楽になりました」
そうか、と言ってようやく彼は手を離してくれた。
ほっとして、大きく息をしていると、ふいに枕元のスマホが振動する。
「あ、済みません、取ります」
……画面を見ると、奈々からの連絡の催促が並んでいた。
(そういえば、朝、副社長に連絡したところで力尽きたんだった……)
大量のメッセージにめまいを覚えながら『ごめん、今まで寝ていた』 とメッセージを入れておく。
確認すると、葉山やサキからお見舞いのメッセージが入っている。それにも簡単に返事をして、一息つく。
伊都はスマホを握ったまま混乱していた。
(これは夢なの? 現実なの?)
いつもと同じ部屋。何の変哲もない日常の風景がそこにはある。
……だが。
すぐ側にある背中に伊都は驚愕し、がばりと勢いよく起きあがった。
「え?」
スーツ姿の彼が、伊都の部屋に居て。
「え?」
自分は昨日の部屋着のまま、ベッドで寝ていて。
「ええ?」
折角部屋に訪れてくれた、白銀の事を放って、今の今まで寝ていたのか、と。
伊都はベッドの上で呆然としていた。
ベッドのすぐ側のカーテンをめくれば、外は夕焼けに燃えている。時計の針を見ると六時。
(一日中、私寝ていたの……?)
「起きたのか」
伊都の声で気づいたのか、彼はローテーブルに向かって作業していた手を止めて、ベッドの方へと振り向く。
「す、済みません。お客様が来ているのに寝てたりして……」
伊都はベッドから抜け出し、カーペットの上へと正座して頭を下げた。
その顔は熱のせいでなく、羞恥の為に赤い。
「いや、熱が上がっていたんだ。むしろ寝てくれないと困る」
(あら?)
伊都は驚きに顔を上げた。
「しろがね、さん」
「何だ」
いつもの穏やかな笑顔もなく無表情で、僅かに眉を顰めるそれは、まるで夢の中の狼のようで。
「いえ、何でも……」
(ジルバーみたい、なんて言えないわ)
「どうした、まだふらつくのか。熱は」
さりげなく白銀の両手が伸び、頬を包まれたかと思えば彼の顔が近づいてくる。
思わず、伊都は目を瞑った。
「……ないな」
こつんと、額が合わさってすぐに去っていく。
(……な)
まるで当たり前のように。
彼は額で、熱を計った。
頬を包む大きな手は去らないで、真っ赤に染まった伊都の頬に触れたまま。
(なんなの、夢の続きなの?)
伊都は激しく動揺している。
伊都の知る、スーツの似合う都会的な男は、こんな接近なんてした事はなかった。
いつだって男性に怯える伊都の気持ちを汲んで、触れる時は一言声を掛け、最低限の接触で済ませてくれていた。
なのに、今は。
おそろしく整った顔でじっとこちらを見ながら、伊都の頬に触れている。
伊都は内心に悲鳴を上げていた。
「顔が赤い」
「は、恥ずかしいので……」
「気分はどうだ」
「あ、ぐっすり寝たので、大分楽になりました」
そうか、と言ってようやく彼は手を離してくれた。
ほっとして、大きく息をしていると、ふいに枕元のスマホが振動する。
「あ、済みません、取ります」
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大量のメッセージにめまいを覚えながら『ごめん、今まで寝ていた』 とメッセージを入れておく。
確認すると、葉山やサキからお見舞いのメッセージが入っている。それにも簡単に返事をして、一息つく。
伊都はスマホを握ったまま混乱していた。
(これは夢なの? 現実なの?)
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