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四章 冷たい部屋からの救出
十八話 繋がる線と、繋がる糸と(2)
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が、機械オンチの真骨頂がここから始まる。
「ここと、ここ。プリントしておこう……」
アナログ嗜好な伊都は、画面で読んだだけは落ち着かず、記事をプリントして、ファイリングして、それを眺めたりメモを書き込みながら作業をするのだ。
──マルチウインドウという方向に意識が向かわない辺りは、ある意味スマホ世代な感覚なのかも知れない。
「今日は、ブログ開設と、テスト投稿まで頑張ろうっと……」
今プリントアウトしたばかりの記事に日付を書いた付箋を貼り込み、伊都は講座の通りにおすすめブログレンタルサービスを選び、手順を追っておそるおそると会員登録し、テスト投稿を済ませる。
「すごい時間は掛かったけど、どうにか、上手くいったかも」
一応ノートパソコンをくれた友人に、ブログを開設しますとスマホのメッセージアプリで一報入れたところ、即座に、名前や年齢、働いている場所など個人情報を漏らさないようにと、くどい程に念を押すメッセージが届いた。その事を意識しつつ、名前の読みをもじって、ニックネームを「Yarn」 読みはヤーン……縒りを掛けた糸の意……と付けた。ブログ名は、Yarnのブログとしておく。
これでいいかな、とブログを始めた事を知らせるべく、友人に連絡を取った。
『ふーん、ヤーン、ね。伊都にしては洒落てる』
と言われた。どういう意味だろうか。
またメッセージの着信の音がする。伊都はスマホの画面を見る。
『とりあえず、そのURL送って。見るから』
このノートパソコンをくれた友人は、田舎に戻って二年程、伊都が実家で引きこもっていた時代に、伊都をずっと遠くから支えてくれていた親友である。ちなみに素っ気ないにも程があるメッセージの主でもあるが、女性だ。
学生時代、雑誌の読者モデルの頃の彼女にニット作品のモデルとして学内の発表会でステージを歩いて貰った事から繋がりを持ったので、十八の頃から……七、八年程の付き合いになるだろうか。
スレンダーで長身、ユニセックスな魅力が受けている美貌の友人は、滅多に笑わないモデルとしても有名である。
とにかく押しが強く、引きこもり時代にも家へ押し掛けては「これ作って」 と言って、化粧ポーチにシュシュにヘアバンドにアクセのモチーフ、チュニックやセーター等編めるものなら何でも頼んできて、引きこもりの伊都へ関わり続けた。
彼女はそれを「変なアレンジしない、自分のテクニックを押しつけない、自分の注文通りに忠実に作る作家は伊都しかいない。テクニックが勝ると、大体がよかれと思ってへんなアレンジをしてきたり、素人考えと全く要らないご親切を寄越してくるからね……ありがた迷惑なんだ」 とクールに言ったが、思えばそれは彼女なりの照れ隠しだったのだろう。
「ここと、ここ。プリントしておこう……」
アナログ嗜好な伊都は、画面で読んだだけは落ち着かず、記事をプリントして、ファイリングして、それを眺めたりメモを書き込みながら作業をするのだ。
──マルチウインドウという方向に意識が向かわない辺りは、ある意味スマホ世代な感覚なのかも知れない。
「今日は、ブログ開設と、テスト投稿まで頑張ろうっと……」
今プリントアウトしたばかりの記事に日付を書いた付箋を貼り込み、伊都は講座の通りにおすすめブログレンタルサービスを選び、手順を追っておそるおそると会員登録し、テスト投稿を済ませる。
「すごい時間は掛かったけど、どうにか、上手くいったかも」
一応ノートパソコンをくれた友人に、ブログを開設しますとスマホのメッセージアプリで一報入れたところ、即座に、名前や年齢、働いている場所など個人情報を漏らさないようにと、くどい程に念を押すメッセージが届いた。その事を意識しつつ、名前の読みをもじって、ニックネームを「Yarn」 読みはヤーン……縒りを掛けた糸の意……と付けた。ブログ名は、Yarnのブログとしておく。
これでいいかな、とブログを始めた事を知らせるべく、友人に連絡を取った。
『ふーん、ヤーン、ね。伊都にしては洒落てる』
と言われた。どういう意味だろうか。
またメッセージの着信の音がする。伊都はスマホの画面を見る。
『とりあえず、そのURL送って。見るから』
このノートパソコンをくれた友人は、田舎に戻って二年程、伊都が実家で引きこもっていた時代に、伊都をずっと遠くから支えてくれていた親友である。ちなみに素っ気ないにも程があるメッセージの主でもあるが、女性だ。
学生時代、雑誌の読者モデルの頃の彼女にニット作品のモデルとして学内の発表会でステージを歩いて貰った事から繋がりを持ったので、十八の頃から……七、八年程の付き合いになるだろうか。
スレンダーで長身、ユニセックスな魅力が受けている美貌の友人は、滅多に笑わないモデルとしても有名である。
とにかく押しが強く、引きこもり時代にも家へ押し掛けては「これ作って」 と言って、化粧ポーチにシュシュにヘアバンドにアクセのモチーフ、チュニックやセーター等編めるものなら何でも頼んできて、引きこもりの伊都へ関わり続けた。
彼女はそれを「変なアレンジしない、自分のテクニックを押しつけない、自分の注文通りに忠実に作る作家は伊都しかいない。テクニックが勝ると、大体がよかれと思ってへんなアレンジをしてきたり、素人考えと全く要らないご親切を寄越してくるからね……ありがた迷惑なんだ」 とクールに言ったが、思えばそれは彼女なりの照れ隠しだったのだろう。
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