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三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。

九話 現実、月曜日。昼休みの陰謀説の首謀者は私?(4)

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「そうそう、そう言えば、あれは十年前の事だったっけ?」

 語り尽くせないのか、まだまだ続く彼の話。
 生産ラインで最も若い職人である工場長、灰谷。彼は、パート達にとって大事な人なのだろう。誰もが、彼の豹変について困惑している様子だ。


(お、おかしいわ、ちょっと社長に嫌われてるヒントをと思ったら、私、とんでもない事を聞いちゃった気がする……)

 他人の恋愛ごとを興味本位で聞いた事もだが、社長に伊都が明確な敵として見られているという事が確定となってしまった。

 伊都は頭を抱えたいような気分であった。
(ど、どうしよう……こんな話、まさかサキさんに言えないし)
 何せ、伊都ですら想定出来ない所から出た話だ。
 事務所と工場、灰谷とは物理的に離れた区分の違う場所で働いていて、ごく最近まではお互い名前しか分からないぐらいに遠い人間だったのである。
 当然ながら豹変前の灰谷の性格も知らない。そんな遠い人から、筋違いに恨まれていると聞いて、ただただ驚いている。

(灰谷さんに睨まれれる理由は、何というか……お気の毒だなとは思うけれど、だからと言って私のせいにされても正直困るわ)
 サキが誰を好きになるのかなど、部下で年下の友人という頼りない繋がりの伊都が操れるものではない。確かに、出会いの切っ掛けぐらいは作っただろうが……。
 伊都は案外、本の虫の傾向があるのでポストに投げ込まれたフリーペーパーなども隅まできちんと読む。
 地元の新店舗などがあると、割合と早い段階で雰囲気などを確認しに行ったりするのだ……男性不振気味ゆえに、人が密集しているような人気店が苦手なのもあって。

(サキさんのご友人とはいえ、葉山さんでは処理に困るでしょうし、副社長はサキさんが家を出てから益々気落ちして、最近は言葉も少なく仕事だけして上がって行かれるし。一人で抱えているには重すぎるけれど、誰に話したらいいのかしら、これ……)
 意外に、相談が出来る相手が居ない事に気づいて、伊都は焦りを覚える。

(かと言って、奈々ちゃんだと社長と灰谷さんに真っ向から「伊都への逆恨みはよせ」 ってはっきり言っちゃいそうだしそれは揉め事に繋がる……本当、どうしよう。きっと私が、灰谷さんと話し合って誤解を解くべきなのよね、でも……)
 上背があり声の大きい若い男。灰谷は伊都の苦手な要素をすべて持つので、苦手中の苦手な人なのだ。

 さらには、伊都は彼に近づかない、否、近づけない理由があった。
(お医者様にも出来るだけ疲れないように、疲れたらすぐ休みなさい、と言われているのに、自分からストレス要素を増やすのは、いけない事のような……)

 もやもやとしながらも、不調を抱える伊都は自己解決へ踏み出せない。
 そんな状態で。
 心が助けを求めるのは、やはり彼であった。
(白銀さん、ジルバー、どうしよう……)


 楽しい筈の昼休憩が、とんでもない事を聞かされて。
 益々、伊都の神経は追いつめられていくのだった……。
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