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三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。

八話 現実、月曜日。昼休みの陰謀説の首謀者は私?(3)

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 伊都はとても気まずい気分でいた。
(灰谷さん、そんなに長い間サキさんに恋煩いしていたんだ……)
 叶わない恋の辛さなら、よく分かる。それが毎日会う人で幼馴染みの女の子だったとしたら、想像も付かない程の苦しみもあっただろう。

 ふられて自棄になって、それなら当たられたとしても、仕方ないのかしら。
 そんな風に伊都が割り切ろうとした、その瞬間。

 誰かが、あっと声を上げた。
「ああ……もしかして」

「そう、もしかして、よ。これは偶々、偶々よ? 場内の清掃で遅くに残ってたせいで耳にしちゃった事なんだけれど……。『織部は計画的に、この会社を潰そうとしている。俺とサキ、愛する二人の中を間男を使って引き裂いてまで、俺の代でこの会社を終わらせようとしてるんだ』 なんて……社長にない事ない事吹き込んでるの、聞いちゃったのよ」

「え……?」
 今度こそ、伊都は完全に動きを止めた。
(わ、私が、会社を潰そうとしてる……?)
 何だろう、その、突拍子もない話は。

 ぷっと、誰かが吹き出す。
「ちょ……ちょっと大丈夫なの、何の陰謀説よ。あり得ない、あり得なさすぎるわ!」
 ぱたぱたと手を振って、笑いを逃がす彼女の横では深刻そうな顔で呟く人もいて。

「灰谷君、初恋に破れて……その、おかしくなっちゃったのかしらね? だって伊都ちゃん、この会社潰してもなんの旨味もないじゃない? サキちゃんならまだしも、赤の他人でしかないし」
 その対面には、うーんと腕組みしながら唸るパートさんの姿がある。

「っていうか、社長、それを本気にしたの? サキちゃん絶対に嫌いなタイプでしょ、灰谷君って」
「ああー、確かに! 目の前に居る時は尻尾振って犬みたいにふるまう癖に、人には次期社長だ、俺の女だって言い回る陰湿で姑息な所、大嫌いって本人に言っていたものね。過去、何回かサキちゃんがそう言ってるとこ見たことあるわ」
「産休に入る前だったか、結婚してもまだ俺の女なんて言いふらしてるから『そろそろ名誉毀損で訴えるわよ。弁護士通して接近禁止も出して貰うからね。言っとくけど、コレ脅しじゃないから』 って、サキちゃん灰谷君に全力でビンタしてたわよ……パーンッていい音鳴ってたから二度見しちゃったよ私」
「あの時は灰谷君が慌てて謝罪したんだったっけ? 結局、旦那の商売にも影響が出たからかサキちゃんの怒りが止まらず、ストーカー被害の届けを警察に出したんだっけ? 色々注意されたのもあってか、灰谷君もあの時は妄言も一時止まってたんだよねぇ……」
 とうとう妄言扱いされる灰谷である。

「最近の灰谷君は、全くどうしたのだか。昔は真面目な子だったのにねえ……サキちゃんが結婚してからだいぶ、おかしいよねあの子」
 やれやれと、やるせない表情で言うのは古参のパート。
「本当にねぇ。私らとしてもこのままじゃ困るわ。工場長として、しっかり上に立って貰えないとねぇ。最近は、何だか社長に似てやたら怒鳴るし、かと思ったら物陰で泣いてたりして……ちょっと精神的にも不安定っていうか」
「職人としては腕もいいし、前のようにニコニコして機嫌よく働いてくれるだけでいいんだけど」
「昔はねぇ、素直で明るい、いい子だったのにね……」

 しみじみと、パート達は灰谷青年の豹変ぶりを皆で語っている。
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