上 下
18 / 19
二章:塔の姫、新しき出会いと共に

十八話:塔の姫、得意分野で早速活躍?

しおりを挟む
「冒険者ご登録のヒセラ様ー。登録証が出来上がりましたので受付カウンターまで受け取りに来て下さい」

カウンターからの呼び声に「はい」 と答えたアレハンドラ改めヒセラは、ちらりと連れの青年を見てから立ち上がる。
ディヤーブはそれに頷いて、ヒセラの後について受付カウンターまで向かった。

「はい。これが仮登録の木札です」

そう言って、受付嬢に登録証を笑顔で渡される。それはただの木を薄く切り出しただけの木の板にインクで名前とランクと所属ギルドを記した、まさしく「木札」  だ。
これでは偽造し放題ではと困惑したヒセラが問うと、

「冒険者ギルドという名前こそあるものの、低ランクの間は近隣でしか活動しない危険度の少ないものであることと、子供が小遣い稼ぎに登録するぐらいに依頼斡旋所として機能していることから、登録自体はとても簡単なのですよ」
「依頼、斡旋所……」
「ええ。ご近所の引っ越しの手伝い、お店の前庭の雑草抜きから、市場でお勤めの奥様の外出中の子守、今日のお夕飯のメインディッシュの材料、あるいは酒場の定番料理の材料や防具屋さんの皮革素材の定期納入まで、何でも募集できます! 字の読み書きも、あたし達受付の者が手伝いますので必須ではありません。そんな感じでお仕事は続々舞い込んできますので、冒険者は随時募集中なのですよー」

と、年若い受付嬢が笑顔で答える。
なる程、聞いた内容からすれば、仕事を始めたばかりの者でも出来そうな軽作業から、専門的なものまで幅広くあるようだ。ヒセラでも出来そうな内容もある。
ヒセラが胸に手を置きホッと息を吐いていると、そこに受付嬢が畳み掛けてくる。

「という訳でー。冒険者ギルドが求めるのは、お仕事を完遂できるか、の一点のみですし正式に冒険者に登録できるかもそこに掛かってますので、ご心配なく! です!」

にこにこ笑顔の受付嬢であるが、言っている事はなかなかに厳しい。

「……ご説明、ありがとうございます。大変よく分かりました。冒険者ギルドは実践的な組織なのですね」
「はいー!」

引きつりそうになる顔をやんわりとした笑みに隠してヒセラが謝意を表せば、笑顔の受付嬢は更に説明を続ける。

「ちなみにですが、依頼を三つ完遂するか、冒険者の評価に繋がるような素材を相当数納入した際に正式な登録証が発行されますので大事に持っていて下さいね。あ、ちなみに素材のみで正式登録できることは程んどありませんので、頑張ってお仕事してください‼︎」
「わ、分かりました。ご丁寧にありがとうございました」
「はいー。頑張って下さいね!」

受付嬢の激励を受けながら、ヒセラは再び素材買取カウンターに移動しようとし……。
慌てて後ろに控える連れの青年を振り返った。

「ディヤーブさん」
「はいよ。次は何処だ」
「素材を売りにもう一度素材買取カウンターに戻ります。同行をお願いしても?」
「よし。ちゃんと声掛けを忘れなかったな、偉いぞ。冒険者になるなら今後は見ず知らずの者と組むかもしれないし、オレで練習でもしとけ」

笑みを浮かべる青年の目は、弟妹達に向けるそれと同じで暖かい。

「はい」

ディヤーブの言葉に安堵したヒセラはあどけない笑みを浮かべ、いそいそ移動を始めた。
その背を追うディヤーブは一人ごちる。

「ああ、こりゃ確かに周りが放っておけないわ……お姫様の癖に全然擦れてないし、てんで可愛いでやんの。あーあ、仕事に情が絡むのは好きじゃないんだがなぁ」

オレは子供に弱いんだよ……そうぼやきながらも、彼の口元には自然と笑みが浮かんでいた。


 再び素材買取カウンターに戻ったヒセラを待っていたのは、先程担当してくれた少年だった。

「あ、お帰りなさい。無事登録できました?」

ぱっと明るい笑顔で迎えてくれた少年に微笑み返し、ヒセラは出来上がったばかりの木札をカウンターに置いた。

「はい。これが私の仮登録証となります。それでは、素材の買取、お願いしますね」

これが冒険者の初仕事と思うと、少しばかり落ち着かない心地になるヒセラである。

「はーい。ではお預かりします……ヒセラさん、でいいのかな。では、先程の続きといきましょうか」
「はい。ではざっくりとした分け方で申し訳ありませんが……」

早速と木札を受け取り手元の羊皮紙にメモする少年を前に、ヒセラは腰の皮製ポーチから次々と素材を取り出す。

「まずは薬草類ですね。ミント、カモミール、カレンデュラが各ひと束ずつに、実の類はアケビ、クコの実、サルナシの実が小籠に一盛りずつ……あとは少量となりますが……」
「え、あ、またすごい量が。ちょっとヒセラさん、ちょっと、メモが追いつかないのでゆっくりお願いできます?」

ヒセラが次々と出していくと、また少年が焦りはじめる。

「はい? あ、すみません。もう一度出し直しますね」
「お願いします……」

そんな二度目のやりとりに、カウンター裏のギルド職員が肩を竦める。
ヒセラが一つずつカウンターに出し直し、少年が必死に素材の状態や量などを確認することしばし。

「え……ちょっと待って下さい。薬師の定期依頼の薬草や張り出し依頼の木の実とかもありますし、これだけあれば、もしかしたら今日中に正式登録できちゃうかもですね。なるほど、職能欄の植物の研究というのも冗談ではないというか」
「あら」

メモを眺めながらの少年の呟きに、ヒセラは口元を押さえつつ当然といった顔でそれを受ける。

理由は簡単だ。
彼女は植物研究者としてこの四年間、王都の秘密の計画に参画していた。
飛び地ではあるが、王家のが子爵より借り受けた土地で運営されている試験場は常に厳重な守りで固められていた。
領主であるクエヴァ子爵ですら手出し厳禁の存在であったので、まあそこに誰が勤めていたのかなど誰も知りようもない。
それだけでなく、仕事仲間である第一王子が、幼年の娘の境遇を哀れんでか、優秀な教師として、宮廷勤めの薬師を彼女の職場である農業試験場に派遣していたのである。
塔暮らしの四年間、みっちりと植物の優秀な教師に付き研究に従事していた彼女としては、植物の摘み取りや保管の仕方などは得意とするところではあった。
塔の引きこもり姫なのに妙に体力がある理由も、師匠の薬師と共に山歩きする事で培ったものである。

「へえ……即日に正式登録とは、そりゃ珍しい事もあるもんだ。どんなに量を納めても三つの依頼相当数に適合なんてしないもんだが」

ヒセラの後ろで買取を眺めていたディヤーブも、思わず感心の言葉を漏らす。

「ですよねえ、素材納品のみで正式登録なんて相当に珍しいです。ヒセラさんは運がいいのかも知れませんね? でも、素材の摘み取り方も的確ですし、これを依頼に回さないっていうのもギルド的に勿体ないんですよねぇ。特にうちの常連の薬師さんはすっごく素材の状態に厳しくてですね……是非とも依頼に回して欲しい!」

ディヤーブの言葉に何度も頷く少年は、熱意のこもった声で力説する。

「うぅん……あ、ちょっと自分だけだと不安なんで上に相談してきますね。椅子にでも座って待ってて下さい」
「はい。ではお待ちしています」

慌てた様子の少年が、カウンター裏の壁の後ろに走り込んでしばし。
二杯目の果実薄めエールを飲んでいると、少年が年嵩の女性を連れて帰ってきた。

「ヒセラさーん。うちの副ギルド長がお話があるそうでーす」
「はい……はい? 副、ギルド長?」

突然の幹部の登場に、ヒセラは首を傾げ、ディヤーブは頭痛を堪えるよう額を押さえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...