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14章:楽しい? 王都観光です

165.また子供扱いなのですか。

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 不機嫌な人達を相手にしてても話にならないだろうと、とりあえず部屋を出た。
 まあ、午後は保存食作りって決めたから、場所貸して貰えるか誰かに聞かないとね。ええと、何処に行けば厨房借りられるかな。
 ぽちを連れて廊下に出た私は、三階にあるカウンターに詰めてるコンシェルジュっぽい人に話を聞いてみる事にした。

「保存食の調理をしたい、ですか……」
 スイートルームに泊まってる客のリクエストにしては珍妙な内容だったか、如何にもやり手のホテルマンって感じの初老の男性は面食らった顔をした。
 いやはい、唐突で申し訳ありませんね。
「はい。何処に行けば料理出来るでしょうか?」
「……少々、お待ち頂けますか。厨房に聞いて参りますので」

 流石は老舗ホテル。いきなりのリクエストに誠実に答えようとしてくれるとは。
 なんて感心してると、もう一人いたフロア係っぽい男性が、お客を立たせて居るのも何かと思ったのか、一階の談話室のソファに案内された。
 お茶まで出してくれるとか、至れりつくせりだねぇ。まあ、それだけのお金は払ってるんですけど。

 のんびりと紅茶を飲んでると、きびきびした動きでコンシェルジュさんがこちらに歩いて来て。
「厨房の責任者に聞いてまいりましたが、空き時間の間なら利用出来るとの事です。生憎、厨房が夕食の準備をするまでの数時間のみとなりますが……」
「いえいえ、充分です。わざわざ確認頂いて有難うございます」
 ぺこりと私が頭を下げると、初老のコンシェルジュさんはふっと笑みを浮かべて「お役に立てましたようで何よりです」 と一礼する。うーん、出来る男って感じ。

 時間がくるまで部屋でぽちをもふもふしたりしながらのんびり過ごして、いざ厨房へ。
「コックさん達が気にするかも知れないから、ぽちはお留守番ね。あ、お庭の散歩なら行ってきていいよ」
「くーん」
 構ってー、と言うぽちに後ろ髪を引かれつつも、数時間しか取れてないから急いで行こう。
 あ、ちゃんと汚れてもいいようエプロン持って、服もよそ行き用でなく普段着用のシンプルな服を着てるよ。


 厨房は一階のホールに併設された談話室から見て、奥の方にあった。
 そこは完全にスタッフのみが働いてる場所で、今は休憩の時間なのか、人気は極端に少ない。
 何となく気後れしながらも廊下を進んで行くと、入り口から見てすぐの所は配膳室があり、大きな棚には食器やシルバー等が整頓されて並べられている。各階の客室に配膳する為か、小型の昇降機が付けられていた。うーん機能的。
 そんな配膳室を横目に進んで行くと、大きな厨房が見えた。
 奥の壁には大きな冷蔵庫がずらりと並び、その手前には使い勝手が良さそうな大型作業台、横の壁には魔法道具のコンロや水道の装置が何台も並んでる。
 右手には観音開きの大扉があるけど、あれは食材搬入用の扉かな。

 なんて、キョロキョロと見回してると、指揮官特有の声量大きめな嗄れ声が思ったより近くから聞こえてきて、私は思わず「ひっ」 と声を上げた。
「三階のお客様が厨房を使われると聞いて緊張していたら、随分とこれはまた若いのが来たな。お嬢ちゃんは魔法騎士様の召使いか何かか? 正直、勝手の分からない子供に厨房を玩具にされたくないんだがなぁ……」
 厨房の責任者だというコックコートのようなものを着たおじさんが、ジロジロと不躾にこちらを見ながらそうぼやく。

 あー、驚いた。胸元を押さえつつ、私は責任者の人の顔を見上げる。
 僅かに青みがかった茶色の髪に無精髭を生やした四角い顔のおじさんは、不審そうな顔つきで私を見てる。
 あー、うん。これはよくあるパターンだね。また子供に見られてるみたいだ。で、子供に料理なんか出来ないだろうと思ってる、と。

「えーと……一応これでも彼の後見を受けた者です。あと、一応地上の冒険者ギルドでは職員として料理を提供している立場でして。皆様の仕事場を荒らさないよう綺麗に使いますので、数時間ですが宜しくお願いします」
 ぺこりと頭を下げたらぎょっとされた。
「何っ!? ギルド職員で、魔法騎士様の後見を貰ってる……って、あんたが、いや貴女が噂のAランク冒険者、ですか」
 まあ、疑われるのも慣れてきたけどねー、数時間しかないからこちらも急いでいる訳で。
「はいこちらギルドのカードです、本物ですよ。という訳で、端っこ使わせて頂きますね。あ、少し食材分けて頂けると有難いんですが」

 カードを見せたら効果は覿面。呆然として突っ立っているおじさんを横目に、私はさっさと魔法袋から食材を出して料理を始める。
「まずは、ザワークラウトもどきかなぁ……。ピクルスも幾つか漬けたいけど、そもそも野菜を買い足さないと素材が足りない」
 旅の間に消費してしまった酢漬けの空き瓶を出したら、寸胴を借りてぐらぐらと煮沸消毒。
 その間にザクザクと赤キャベツっぽい葉野菜をザクザク千切りに切っておいて。砂糖と酢と、クローブ、ディル、ローリエの葉、からし菜の種、つまりはマスタードシードなどを入れてピクルス液を作って煮沸消毒した瓶にキャベツを詰め、ピクルス液を入れて……。
 途中で買ってきた食材の残りしかないから、うーん、余り野菜類はないなぁ。根菜類漬けとくか。
 なんて感じで自由にやってたら、呆然としてた無精髭のおじさんがようやく復帰して声を掛けてきた。

「食材、いるんだろう。何が欲しいんだ」
「そうですねぇ、酢漬け作りたいので端材でいいんで野菜と、ベーコンやソーセージを作りたいのでお肉でしょうか。あと、残り物でいいからフルーツがあると嬉しいです。砂糖漬けにしたりドライフルーツ作りますので」
「……そうか。なら、いつも大目に頼んでいるからな、そこから出そう」
「あ、お金は」
「いらん」

 口数少なく言って、でも希望通りの食材を出してくれた無精髭さん。
 ええっと、うん、有難いからこのまま頂いて作業しちゃおう。時間が押したら明日も厨房使わせて貰おうかなー。お肉の処理まで時間あるのか分からないし。
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