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14章:楽しい? 王都観光です

161.試験が終わって……歌を聴きましょう

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「はあ~、試験が終わると開放感があるね」
 試験が終わって次の日。私はにこにこと笑顔を浮かべて朝ごはんを食べていた。
 今日はオババ様も起きてるみたい。
 ぽちも足元でサイコロカットの新鮮なお肉を食べてる。

「ベル、今日はどうするんだ?」
「うーん、折角王都に来たのにお勉強ばっかりだったし、観光でもしようかなって」
「そうか。なら、オレも付き合うよ」
「おや、お二人は観光ですか。ならば是非とも噴水広場に歌を聴きに来て下さい。この度新作を作りましてね」
「へえ、詩人さんの新作かぁ」

 そんな会話をしながら、フレッシュサラダの付いたシンプルながらも上質な朝ごはんを食べる。あー、このハーブソース真似したい。オイルとビネガーとお塩と……うーん、後でハーブ何を入れてるか聞いてみよう。
 今日はアレックスさんと詩人さんも居て、四人でのんびり食べてるとお茶が出て来る。ハーブティーもいいけど、紅茶も美味しいなぁ。

「それにしても……一ヶ月後かぁ」
「フン。どうせ貴族や豪商の倅達に先に役職を付ける為の措置じゃな。予め城やギルドの役職を縁故で埋めて、それから一般に、という訳だ」
「うわあ、生臭い……」

 オババ様の話に、私は思わず顔を顰めた。折角試験から解放されても、これだもんなぁ。
 はあ、階級社会ってやだ。
 一般枠である私達の試験の結果は一ヶ月後。郵送でどうにかならないかなぁなんて思ったけど、国家資格らしく簡易ながら授与式的なのがあるんだって。
 場所こそお貴族達と違い薬師ギルドの一室なんだけど、何でも、国のお偉い人が来るとかなんとか。まあどうせ、お城の地位を振られる一般人はいないからギルドでいいやって感じなんでしょうけど。扱いが雑だ。

 そんなこんなで、どうにも面倒だけど帰れないようだ。
 思わずため息をが出ちゃう。
 プロロッカの喫茶店には、せめてレシピとか、お店の春の飾り付けの指示なんかを送ろうと思う。
 うーん、春向きのレシピにディスプレイかぁ……。あ、そうだ。そういう材料も王都にはありそうだよね。お店のディスプレイ用素材とかアイディアとかも観光中に探してみよう。
 ああ、紅茶も仕入れられたらお茶の種類が広がるよね。それに王都にしかないお菓子の素材だってあるかも。そういうの探すのもいいじゃない?
 よし。お店の為になる事が出来るなら一ヶ月も無駄じゃないね。

 私は、お茶を飲みながらうーんと考える。

 そんな風に半ば自分に言い聞かせ、私は滞在中の予定を立てる。
 まずは大通りの専門店で布地を見たい。可愛いプリント柄の布を裁縫女子達に贈りたいし、お店を飾り付けるのにも使えたら華やぐと思うんだよね。
 食事処で王都の流行のメニューとかも見たいかな。そのうち、軽食系なんかも手を広げたいし、そういう時に使えそうなアイディアが欲しいんだよね。
 あ、そう言えば試験で知り合った二人から何か聞けないかな。ご実家の住所も聞いたから、お手紙送れば、今なら同じ状況で時間も空いてそうだし、嫌でなければ流行のお店の食べ歩きとかに誘ってみよう。
 それに、市民の住んでるエリアの朝市が見たいかな。新たな食材開拓の為に、是非とも何度か足を運びたい。
 
 ……おお、ちょっと考えただけでなかなかやる事一杯あるじゃない。
 これなら、一ヶ月なんてすぐに過ぎて行きそう。


 とはいえ、本格的に動くのは明日からにして。
 今日は、お誘いもあった事だし詩人さんの歌を噴水広場に聴きにいく。
 そういえば、噴水広場には、軽食のお店が出てるんだよね? 何かお店のテイクアウトに使えないかな。未だに席数足りずに帰る人もいるみたいだし。
 
 馬車をお願いし、のんびりぽくぽく広場へ向かえば、賑やかな場所に着く。
 今日もお留守番では可哀想だし、ぽちには契約獣だって分かるよう明るい色の大きな布を首に巻いて連れて来たよ。ぽちは人馴れしてるし、多少の混雑ぐらいでパニックにならないから平気でしょう。王都だからか、希少職と言われたテイマーが、契約獣をお散歩に連れてるのを馬車の窓から見たし。

 いざ着いてみると、その人並みにちょっとだけ圧倒された。
 煉瓦が噴水を囲むよう円形に敷かれた広場には、人々が集う。それぞれ、手には軽食を持ったり飲み物の入ったカップを持って、ベンチで休んだり木陰でくつろいだり。
 あっちの、芝の上で寝転んでる姿なんて、海外旅行の番組とかで見た、公園で日光浴してる人達みたいだ。まあ、流石に文化の違いか、タンクトップにホットパンツまでは行かないけど。

「王都って、こんなに人がいるんだ……」
「まあ、年々過密化してると言うしな。庶民の朝市なんか、こんなもんじゃないぞ」
 私が唖然と口を開けると、アレックスさんは軽く肩を竦めた。
 広場は過密とまでは言わないけど、本当に人で一杯。
 地上より一層カラフルなスカートを履いた女性や、小ざっぱりした服の男性が皆楽しそうに笑いながら噴水広場を闊歩している。
 試験で知り合った二人にお誘いのお手紙を書いてから来たので、お昼ちょっと前だからか、噴水広場を囲むようにして設営されてる簡易テント風の軽食売り場は大賑わいだ。

「そろそろお昼だし、アレックスさんも何か摘む?」
 お肉の焼ける匂いとか、屋台って何であんなに魅力的に感じるんだろうね。
 思わず鼻をすんすんさせながらそう聞くと、アレックスさんは私を見て笑った。
「そうだなぁ、そろそろ小腹が減って来たし。ぽちも味付きでない肉摘むか」
「わんっ」
 大好きなアレックスさんと一緒だからか、尻尾ふりふりしてぽちも随分はしゃいでる。
 うーん、段々楽しくなって来たね。

 お昼はホットドック的なハーブの効いた腸詰め肉をナンっぽい薄焼きパンに挟んだものと、羊肉っぽいお肉の串焼き、それにエールを果実で割ったいつものジュースでお腹を膨らませた。
 うん、シンプルだけど美味しい。
 ぽちは素焼きした串焼きの串を外してあげたら、すっごい喜んで食べてたよ。
 ホットドック的なものの乗ってた樹脂製のお皿をお店に返しつつ、ちょっとアレンジを考えてしまう。私ならホットドックにはお野菜の緑を足して、ケチャップを添えるな。茶色いだけだと味は良くても見た目が寂しいっていうか……。
 ああ、ケチャップ……トマト的なものが市場にあれば買って行って作ってもいいかも知れないなあ。
 まだまだ試してない料理もあるし、うん、屋台巡りも滞在中にしないとね。

 で、お腹がいっぱいになったところで風に乗って聞こえてきたのは張りのある美しい声。
「あ、詩人さんだ」
「聞いていくか?」
 アレックスさんは微妙に乗り気でなさそうだけど、折角だからと私は頷く。

 近づいていくと、そこには人だかりが出来ていた。さすがは人気詩人。
 彼は、アレックスさんの鮮烈なメタリックグリーンの髪を見て私達の到着を察したから、急に間奏的な音を鳴らすと「次は、新曲となります」 と言ってお客を湧かせた。

 ピィン、と一音鳴らしてから、彼はゆったりした伴奏と共に声を響かせた。
 
 それは、幼子が女神の使役とも言われる銀の狼を連れて地上を彷徨う話。
 地上は荒れていて、人々には余裕がなく、だから少女は何度も危機に遭った。
 悪い男に拐かされそうになった。
 狼と引き離されそうになった。
 それでも、少女と銀狼は一緒に居たい一心で、必死に理不尽と戦う。
 そして少女と銀狼は、旅の途中である英雄と出会った……。
 
「続きは、また今後」
 今日も深く帽子を被った彼は、にっこりと笑うと楽器を仕舞う袋をさりげなく示す。人々は喜んでそこにお金を投げ入れていた。
 
 ……って、どう聞いてもあれ、私の歌だよね?
 何でギョブの話とか、シルケ様の事とか知ってるの? いつそんな話を仕入れたの? 怖い。
 流石はこの世界の記者、と褒めるべきなんだろうか……。
 
「チッ、さり気無くオレまで巻き込みやがって」
 ああ、何だか二番が出来たらまたアレックスさんヒーロー的に持ち上げられそうでしたね。
 うーん、とはいえ取材もしっかり、歌声も素晴らしいもので。
 私も投げ銭するべきだろうかと考えながら、私は恥ずかしさに熱を持った頰を押さえた。
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