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記念ショートストーリー
SS2−3 文庫1巻記念SS「女神からの贈り物~または、アレックスの勘違い(?)道中」
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不思議な少女に利き手の呪いを解かれた、その翌日。
寝室代わりのロフトから降りる時、一番に驚いたのは、左手の不快感が無い事だ。
いつもなら服を着替えるのにも一苦労のところ、今朝は何もかもがスムーズにいく。
顔を洗い、昨日の残りもののパンの実を腹におさめてから、左手を試すように動かす。
「握力は……落ちてないな。うーん、これは呪いのせいか、それともあの子の力か」
ついでに、軽く狩猟ナイフを握って振ってみる。利き手が戻ってきたとはいえ、一年も動かしていなかったのだ、しばらくは用心しながら鍛え直しだな。
──当たり前の事が当たり前に出来ない、そんな一年だった。
王都での騒動の結果、呪われた俺の腕。
おそらくは、魔法学校の先輩後輩の立場から、個人的に仲が良かった第一王子殿下の右腕などという、根も葉もない噂が立っていたが故の手違いだろうが、大がかりな呪いを掛けられてしまったのが事の始まりだ。
それで、苦手な権力争いから逃れられたはいいのだが、その代償は大きなものだった。
封じられたのは、よりにもよって利き手だしな。
「……ははっ、これもあの女の子のお陰だな」
狩猟ナイフをシースに納め、ぐっと左手を握った俺は、ふと恩人である少女の事を思い出す。
──それにしても、危険なダンジョンの中、彼女は一体何処に行ったのだろうか、と。
恩人の少女の姿を探すこと、半刻ほど。
少女は大樹の影、このダンジョンのボスであるシルバーウルフマザーの懐に抱かれるようにして休んでいた。
「そう言えば昨日、小屋を出ていく時に言ってたな……お母さんがどうとか」
なるほど、確かにお母さんだ、お母さん、だが。
シルバーウルフの幼体だけでなく、まさかダンジョンボスまで仲がいいとは思わないだろう、普通。物言いから、親御さんとはぐれたのかと思ったぞ。
まあ、俺も森での狩猟は長いから、シルバーウルフマザーとは知らぬ仲ではない──お互い、戦えば大怪我必至の為に、つかず離れずの距離を保っていた──が、それにしても、だ。
全く大物過ぎる彼女に声を掛けると、当たり前のようにマザーを「お母さん」 と呼び、その懐から出てくると俺に無邪気に話しかける。
「アレックスさん、腕が……!」
俺の利き手が動いているのを見て、彼女は驚きの声を上げた。そりゃそうだ、昨日は全く動く気配すらなかったものが動いているんだから。
俺は何だか楽しくなって、彼女の細腰を抱き上げるとくるくるとその場で回る。
「お嬢ちゃん、あんたのお陰だ」
「そんな、たまたま湿布がよく効いただけですよ……!」
あれだけ膨大な魔力を使っておいて、ずいぶんと謙虚なことだ。
そんな態度すらも好ましく、俺はこの小さな恩人に対してある確信を得ていた。
──彼女は、伝承の女神の薬師だ、と。
寝室代わりのロフトから降りる時、一番に驚いたのは、左手の不快感が無い事だ。
いつもなら服を着替えるのにも一苦労のところ、今朝は何もかもがスムーズにいく。
顔を洗い、昨日の残りもののパンの実を腹におさめてから、左手を試すように動かす。
「握力は……落ちてないな。うーん、これは呪いのせいか、それともあの子の力か」
ついでに、軽く狩猟ナイフを握って振ってみる。利き手が戻ってきたとはいえ、一年も動かしていなかったのだ、しばらくは用心しながら鍛え直しだな。
──当たり前の事が当たり前に出来ない、そんな一年だった。
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おそらくは、魔法学校の先輩後輩の立場から、個人的に仲が良かった第一王子殿下の右腕などという、根も葉もない噂が立っていたが故の手違いだろうが、大がかりな呪いを掛けられてしまったのが事の始まりだ。
それで、苦手な権力争いから逃れられたはいいのだが、その代償は大きなものだった。
封じられたのは、よりにもよって利き手だしな。
「……ははっ、これもあの女の子のお陰だな」
狩猟ナイフをシースに納め、ぐっと左手を握った俺は、ふと恩人である少女の事を思い出す。
──それにしても、危険なダンジョンの中、彼女は一体何処に行ったのだろうか、と。
恩人の少女の姿を探すこと、半刻ほど。
少女は大樹の影、このダンジョンのボスであるシルバーウルフマザーの懐に抱かれるようにして休んでいた。
「そう言えば昨日、小屋を出ていく時に言ってたな……お母さんがどうとか」
なるほど、確かにお母さんだ、お母さん、だが。
シルバーウルフの幼体だけでなく、まさかダンジョンボスまで仲がいいとは思わないだろう、普通。物言いから、親御さんとはぐれたのかと思ったぞ。
まあ、俺も森での狩猟は長いから、シルバーウルフマザーとは知らぬ仲ではない──お互い、戦えば大怪我必至の為に、つかず離れずの距離を保っていた──が、それにしても、だ。
全く大物過ぎる彼女に声を掛けると、当たり前のようにマザーを「お母さん」 と呼び、その懐から出てくると俺に無邪気に話しかける。
「アレックスさん、腕が……!」
俺の利き手が動いているのを見て、彼女は驚きの声を上げた。そりゃそうだ、昨日は全く動く気配すらなかったものが動いているんだから。
俺は何だか楽しくなって、彼女の細腰を抱き上げるとくるくるとその場で回る。
「お嬢ちゃん、あんたのお陰だ」
「そんな、たまたま湿布がよく効いただけですよ……!」
あれだけ膨大な魔力を使っておいて、ずいぶんと謙虚なことだ。
そんな態度すらも好ましく、俺はこの小さな恩人に対してある確信を得ていた。
──彼女は、伝承の女神の薬師だ、と。
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