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森で出会った女の子

最終話 旅の始まり

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「駄目だ!!このままだと全滅するぞ!?」
「そ、そうだ!!さっきの武器をまたリル様に渡せば……」
「駄目だ!!いくら切っても血晶を破壊しない限りはこいつは倒せない!!まずは血晶の位置を特定しないと……」


レノは魔力感知を発動させて血晶の位置を捉えようとするが、周囲から押し寄せる根のせいで身を守るのに精いっぱいだった。


「くそっ!!どうすれば……」
「リル様、私が囮になるのでどうか逃げてください!!」
「諦めるな!!何か手段はあるはずだ!!」


人面樹の繰り出す根っこに取り囲まれたレノ達は背中を合わせ、もう完全に逃げ場を失ってしまった。このままでは三人とも捕まってしまうが良案が思いつかない。


(くそっ!!どうすれば……待てよ?そういえば爺ちゃんが草を刈る時に使っていたあの技なら……)


山で暮らしていた時にタケルが利用していた技を思い出し、一か八か試すしかなかった。レノは右手に魔力を集中させると、硬魔を応用して円盤のような形をした魔力の塊を生み出す。その後に周端を尖らせることで「丸鋸」のように変形させた。

この技は元々はタケルが草木を狩るために生み出した技だが、相手が植物型の魔物ならば有効的だと考えてレノは繰り出す。丸鋸状の魔力の塊を高速回転させながら前方に繰り出す。


「爺ちゃんは名前なんて付けなかったけど……魔刃輪!!」
「うわっ!?」
「これは!?」
「ジュラァアアッ!?」


レノが繰り出した丸鋸状の魔刃は大量の根を一気に切断し、半分に切り裂かれた本体を更に真っ二つに切り裂く。するとレノ達を取り囲んでいた根が停止し、その隙を逃さずにレノは本体へ向かう。


「これで終わりだ!!」
「ジュラァッ!?」


走りながらレノは螺旋刃を手元に作り出し、本体の中に隠された血晶の位置を魔力感知で掴んで叩き込む。



――ジュラァアアアアッ!?



人面樹の断末魔の悲鳴が草原中に響き渡り、地中から出現していた全ての根は枯れて崩れ落ちる。血晶を破壊する際にレノは魔力を吸収するのも忘れず、赤毛熊ほどではないがそれなりの魔力を手に入れた。


「ふうっ、助かった……爺ちゃんのお陰だな」
「た、倒したのか?」
「助かった……これで二度も命を救われたね」


リルとチイは人面樹が死んだことを確認するとその場でへたり込み、レノも結構な魔力を消費したので地面に横たわる。最後の技は予想よりも魔力の消費が激しく、現時点では多用はできなかった。


(さっきのは螺旋弾よりもかなり魔力を使ったな。それに殺傷能力が高過ぎるから魔物以外の相手には絶対に使えないな)


魔刃輪は強力だが使い道を誤れば危険な技であり、今後はいざというとき以外は使用を禁じることにした。体力が戻るまでしばらくの間は休もうとした時、リルとチイが心配そうな顔を浮かべて地面に横たわっているレノを見下ろす。


「大丈夫か?どこか怪我をしていないか?」
「平気平気……ちょっと地面に叩きつけられたときは痛かったけど、怪我はしてないよ」
「お前のお陰で助かった。本当に礼を言うぞ」


二人が差し出した手を掴んでレノは起き上がると、リルとチイはお互いの顔を見合わせてレノの前に跪く。二人の行為にレノは驚くが、リルとチイは真剣な表情を浮かべてレノに頼み込む。


「レノ君、いやレノ殿……どうか私達の話を聞いてくれないか」
「今まで無礼な態度を取って申し訳ございませんでした!!」
「ちょ、ちょっと!?いきなりどうしたんだよ!!」


唐突に自分に跪いた二人にレノは戸惑うが、顔を上げたリルは驚くべき言葉を告げた。


「私の名前はフェン・リル……ケモノ王国の王女だ」
「えっ……王女!?」
「私の名前はワン・チイ、王女様の騎士です」
「騎士!?」


自分のことを王女と騎士と名乗る二人にレノは驚愕し、二人の口から更に衝撃の事実を伝えられた――





――今から16年前、ケモノ王国に3番目の王女が誕生した。それが「リル」であり、彼女には「サクラ」と「イレア」という名前の姉が二人居た。

ケモノ王国は代々女性が王を勤める習わしであり、今の女王が退位すれば第一王女のサクラが女王になるはずだった。しかし、サクラは一年前に大病を患い、現在も療養中である。もしも彼女が亡くなった場合、妹のイレアとリルのどちらかが国を継ぐ事になる。

サクラが病に侵された途端に第二王女のイレアは自分こそが女王に相応しいと主張し、有力貴族を味方に付けていく。しかし、女王はサクラが急な病に侵された原因はイレアの仕業ではないかと考えていた。

秘密裏に調査した結果、サクラは病を患う前にイレアと接触していたことが判明した。もしかしたらイレアがサクラに毒を仕込み、彼女を暗殺しようとしたのではないかと女王は疑う。しかし、イレアがサクラに毒を仕込んだ明確な証拠は手に入らず、既にイレアが多数の貴族を味方に付けていたので女王でもどうしようもできなかった。

このままではイレアに国を乗っ取られると判断した女王は、一番下の娘のリルに女王を継ぐ者だけが許されるペンダントを渡す。もしも自分やサクラに何かあった場合、ペンダントを所持していればリルは正当な女王の跡継ぎとして認められる。

そして今から一か月前にサクラが治療も虚しく命を落とし、それを見計らったようにイレアは女王に自分を次期女王と認めるように迫る。しかし、女王は自分の継承者は「リル」と宣言した。それを聞いて激怒したイレアは女王を無理やりに監禁し、そして自分から女王の座を奪おうとするリルの命を狙う。

しかし、女王はリルの命が狙われることを想定し、事前に彼女をケモノ王国とは同盟国であるヒトノ帝国に送り込む。国内に残ればイレアに従う者達に命を狙われる可能性もあるが、他国ならばイレアも簡単には手を出せない。

ケモノ王国と女王とヒトノ帝国の皇帝は盟友であり、リルは帝国の皇帝を頼れば必ず力になると女王から聞かされていた。だから彼女は護衛の騎士と共にヒトノ帝国に向かったが、その途中でイレアがけしかけた刺客に命を狙われる。

どうにか刺客から逃れてヒトノ帝国の領地に辿り着けたが、リルの傍にはチイ以外の騎士の姿はなかった。他の騎士は全員が犠牲となってしまい、彼等のためにもリルはヒトノ帝国の皇帝と謁見し、女王から渡された書状を渡して帝国の力を借り、祖国を牛耳るイレアから国を取り戻すための旅をしていることをレノに伝える。


「これが私の正体だ。驚かせてしまったかな?」
「そ、そうだったのか……でも、どうして俺に教えてくれたんですか?」
「君が信用できる人物と見込んでの事だ。それと君にお願いしたいことがある」
「お願い?」


リルの言葉にレノは不思議に思うと、彼女は深々と頭を下げて頼み込む。


「どうか私達の旅に同行してほしい。君のように強い魔術師が傍にいると心強いんだ」
「お願いします!!レノ殿、どうか我等に力を貸してくれ!!」
「ええっ!?」


思いもよらぬ提案にレノは度肝を抜かし、いきなり護衛と言われても返答に困る。しかし、リルとチイは真剣な表情で頼み込む。


「君と出会った時、そしてさっきの人面樹との戦いで気づいたんだ。私達だけで旅を続けるのは厳しい。ここに来るまでも大勢の味方を失った……今の私達に必要なのは信頼できる強い味方なんだ」
「今まで失礼なことを言ったことは謝ります!!どうかリル様にお力を貸してください!!」
「ちょ、ちょっと!!頭を上げて下さいよ!!」


土下座で謝罪をするチイにレノは慌てて頭を上げさせようとするが、リルは荷物から大量の金貨が入った袋を取り出して差し出す。


「勿論、ただで護衛してくれとは言わない!!護衛を引き受けてくれるなら報酬も支払うし、旅費も支払う!!」
「えっ!?マジで!?」
「マジだ!!」


大量の金貨を見せつけられてレノは冷や汗を流し、こんな大金を目にしたのは生まれて初めてだった。


(こんな大金見たことないぞ……そういえば爺ちゃんが昔こんな事を言っていたな。情けは人の為ならず、だったっけ?それとも旅は道連れ世は情け、だっけ?)


リルとチイの命を救ったのはレノであり、タケルの言葉を思い出したレノは二人の旅に付き合うことにした。


「分かったよ。なら、王都まで一緒に旅させてもらいますよ」
「本当か!?」
「あ、ありがとうございます!!お礼にモフモフしていいですよ!!」
「モフモフ……?」


コトミンと別れたばかりだというのにレノは妙な女の子二人と出会い、悲しみが失せてしまった。これから三人の長く険しい旅が始まる――





※悲しい終わり方は嫌だったので今回の終わり方にしました。今度こそ最終回とさせていただきます。
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