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森で出会った女の子

第33話 魔操術「分離」

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――大樹の家に戻ったコトミンは家の奥にしまっておいた血晶を取り出す。割と雑に保管していたらしく、表面には埃が付いていた。


「……はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……何か汚れてるんだけど、もしかして要らなかった」
「そんなことはない。そのうちに使おうと思っていた……別に要らないから返すわけじゃない」
「本当に!?」


血晶を受け取ったレノは外にでると、ボア子が警戒した様子で伺う。魔物であるために赤毛熊の気配を放つ血晶を警戒しているらしく、彼女のためにも早々にレノは血晶を破壊することにした。


「よし、それじゃあ本当に壊すよ。後で返せと言われても返せないよ?」
「大丈夫……私には頼れる用心棒がいるから、そもそも魔除けなんていらない」
「フゴォッ!!」


コトミンの言葉にボア子は鼻を鳴らし、それを見てレノは笑みを浮かべた。改めて赤毛熊の血晶を手に持つと、まるで傍に赤毛熊がいるかのような存在感を感じ取る。


(見ているだけで不気味だな……さっさと壊すか)


レノは右手に魔刃を作り出し、血晶に目掛けて振り落とす。しかし、これまで破壊した血晶よりも頑丈なのかレノが繰り出した魔刃は弾かれてしまう。


「いてぇっ!?な、なんて硬さだ……そこらの岩よりも硬いぞ」
「大丈夫?」
「問題ない……よ~し、それならこいつはどうだ!!」


岩石並の硬さを誇る血晶に対してレノは魔刃の形状を変化させ、螺旋撃を繰り出す準備を行う。血晶の中心に狙いを定めて掌を構えると、高速回転させた螺旋刃を繰り出す。


「うおらぁっ!!」
「おおっ」
「フゴォッ!?」


螺旋刃が血晶を貫通した瞬間、魔力が滲みだしてレノの身体に取り込まれる。これまで破壊してきた血晶とは比べ物にならない量の魔力を吸収する。

魔力を全て取り込んだ途端、全身から魔力が溢れ出す。ボアの血晶を破壊した時よりも魔力が格段に増えており、今ならば何でもできそうな気さえしてきた。


(何だこの感覚……これが俺の魔力なのか!?)


自分の魔力が高まったことにレノは喜び、それを見たコトミンはレノに向けて掌を構えた。そして魔力を集中させて風の斬撃を放つ。


「スラッシュ」
「えっ……うわぁっ!?」
「フゴォッ!?」


いきなり攻撃を仕掛けてきたコトミンにレノは驚くが、即座に全身から溢れていた魔力を硬魔へと変化させた。その結果、コトミンが繰り出した三日月状の斬撃は打ち消され、それを見たコトミンは頷く。


「前よりも魔力は高まったけど、技術の方は変化していない。初心者の魔術師は魔力が一気に増えると魔力の調整が上手くできなくなる人もいるけど、レノは大丈夫みたいで良かった」
「だ、だからって魔法を撃つなよ!?もしも防いでなかったら死んでたぞ!!」
「大丈夫、手加減して放ったから当たっていたとしても死ぬことはない……多分」
「手加減の言葉の意味知ってる!?」
「フゴゴッ……」


レノはコトミンの不意打ちに激怒しながらも、今まで通りに魔力を操作できることを確認して安心する。そして改めて両手を構えて「魔球」を作り上げた。


「ふうっ……よし、問題なく作れるぞ」


魔力が格段に増えたせいか魔球を形成するのも以前と比べて早くなり、生み出した魔球を先ほどの仕返しとばかりにコトミンに投げ放つ。


「コトミン、パス!!」
「ぱす?」


タケルに拾われたばかりの頃、まだ遊び盛りだったレノは彼とキャッチボールを良くしていた。ボールの代わりに木の実を代用してお互いに投げ合っていたが、今回は魔球をコトミンに目掛けて放り込む。彼女はそれを両手で受け止めると、今までレノが作り出していた魔球と比べて込められている魔力の大きさに驚く。


「これは中々の魔力……でも、こんなに魔力を使って大丈夫?」
「平気だよ、今ならいくらでも作れそうだよ」
「……それは良かった」


赤毛熊の血晶を破壊しただけでレノは以前と比べて倍以上の魔力を手に入れた。この結果はコトミンも予想外であり、彼女はレノの魔力のの高さに驚く。


(いくら赤毛熊の血晶だからってこんなに魔力が伸びるのは普通じゃない)


コトミンも血晶を破壊した事は何度かあるが、レノのように魔力が格段に伸びたことは一度もない。エルフと人間では魔力の吸収率に違いがあるのか、あるいはレノ自身がなのかもしれない。


「もしかしてレノは魔術師の家系なの?」
「え?いや、それはないよ。俺が魔法を習ったのは師匠に教えてもらっただけで父ちゃんも母ちゃんも普通の人間だよ」
「……そう」


レノの記憶の限りでは祖父母も両親も普通の人間であり、自分が魔術師の家系など聞いたこともない。その話を聞いてコトミンは不思議そうに首を傾げるが、理由はどうあれ魔力が増えたことでレノは本格的に修行に集中できる。


「よ~し、明日から頑張るぞ!!」
「……なら、景気づけに薬草スープを作ってあげる」
「いや、それはちょっと……」
「フゴゴッ……」


コトミンの言葉にレノは火や水を浴びせられたようにテンションが低くなり、体力回復の効果があると分かっていてもコトミンの薬草スープはできれば口にしたくなかった――





――それから更に数か月の時が過ぎ、レノは15才の誕生日を迎えた。旅に出る前と比べて身体つきもたくましくなり、更に魔操術も一層に磨きが掛かっていた。


「レノ、準備はいい?」
「何時でもいいよ」


コトミンはレノに目隠しを施すと、彼女は足音を立てないように気を付けながら後方へ移動を行う。そして彼女はレノに掌を構えると魔法を放つ。


「スラッシュ!!」
「そこかっ!?」


後方から強い魔力を感じ取ったレノは振り返りながら右手を構えると、コトミンが繰り出した風の斬撃を硬魔で受け止めた。この時に斬撃を受け止めた右手以外は魔力を纏わず、無駄な魔力の消費を抑えて攻撃を弾く。

視界が封じられてしかも背後からの攻撃にも瞬時に対応したレノにコトミンは感心し、前よりも魔力感知の技術と直感に磨きが掛かっていた。レノは目隠しを取ると冷や汗を流しながらコトミンに尋ねる。


「今の……本気で魔法を撃っただろ?いつもよりも魔力がこもっていたよ」
「……ぷいっ」
「こらっ!!可愛く顔反らすなっ!?」


もしも防御が間に合っていなかったらレノは今頃は大怪我を負っており、そんな危険な攻撃を仕掛けたコトミンに憤る。だが、はここまでであり、彼女はレノに修行の成果を試すように促す。


「レノ……そろそろ完成した?」
「……ああ、問題ないよ」


コトミンの言葉にレノは笑みを浮かべ、自分が立っている位置から10メートル以上は離れた岩に視線を向けた。レノは自分の右手を見つめると、覚悟を決めたように掌を構える。


「先生、よく見ておいてよ……これで修行は終わりだ」
「分かった。見守ってる」


レノの言葉にコトミンは頷き、彼の後ろに下がって見守る。これまでの修業を思い出しながらレノは右手に魔力を集中させ、今までの技術の集大成ともいえる技を繰り出す。



「――螺旋弾!!」



一瞬の間にレノは掌の中に螺旋刃を作り出し、高速回転を加えた状態でする。これまでは接近戦でしか使えなかった「螺旋撃」を分離の技術を利用して遠距離から攻撃を繰り出す。

手元から離れた螺旋刃はの如く回転しながら加速し、十メートルは離れた岩石に衝突して貫通した。それを見てコトミンは目を見開き、レノは拳を握りしめて天に突き出す。


「おっしゃああっ!!遂に完成したぞ!!」
「……凄い」


タケルの手帳に記されていた「螺旋撃」は接近戦専用の攻撃法だが、レノはそれを改良して遠距離攻撃もできるようになった。タケルの残した技をただ習得するだけではなく、改良を加えて新しい技を生み出した。
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