上 下
29 / 41
森で出会った女の子

第27話 魔術師の色分け系統

しおりを挟む
「……君、魔術師でしょ?」
「えっ!?何で分かったの!?」
「魔力を感じ取れば分かる」
「魔力を感じ取るって……君も魔術師なの?」


コトミンはレノの言葉に頷き、彼女も魔力感知の技術を扱えるらしく、人間でありながら尋常ではない魔力を持つレノを魔術師だと見抜いた。


「赤毛熊から助けてくれてありがとう。でも、この森は本来は人間が入ることを禁止している。だから体調が戻ったら悪いけど出ていってほしい」
「赤毛熊?あの化物熊か……あいつ、何なんだ?」
「ここ最近、山や森の動物が数を減らしてる。きっとあの魔獣のせい……早いうちに始末しないと周辺一帯の動物が食いつくされる」
「あいつ、そんなにやばい奴だったのか……」


たった一匹の魔物のせいで生態系が狂わされており、そんな化物を相手にしていたと知ってレノはぞっとした。今回は運よく生き残れたが、もしも次に遭遇したら勝てる気がしない。


(何とか不意打ちで傷を与えることはできたけど、俺の技術が全部通用しなかった……くそっ、強くなったと思ったのに)


赤毛熊を相手にした時、レノの「魔盾」は呆気なく敗れた。もしも硬魔で防いでいなかったら確実に死んでおり、改めて魔物の恐ろしさを思い知らされる。


「助けてくれてありがとう。そういえばあのボアは?」
「あの子は私の家族、卵の時から育てたから人は襲わないから安心して」
「えっ!?ボアは卵生なの!?」
「基本的に魔物は卵から生まれる」


全ての魔物は卵から生まれることをレノは初めて知り、魔獣ボアも外見は猪と似ているが卵から生まれる。どうやらコトミンがボアの飼い主だったらしく、ボアがこの森にレノを連れてきたのも彼女に会わせるためだと判明した。


「あの子の背中の傷を治してくれたのは君でしょ?ここへ来た時に背中に治療した跡が残ってた」
「そうだけど……本当にあのボアを飼ってるの?」
「飼ってるんじゃない、あの子は私の家族同然。妹みたいなもの」
「妹!?あいつ雌だったのか……そういえば牙が小さかったな」


ボアの牙は槍の刃先のように独特な形をしているが、以前にレノが倒したボアは雄だったので牙も大きかった。しかし、コトミンが育てているボアは雌のために牙が雄よりも小さくてあまり目立っていない。

魔獣ではあるがコトミンが育てたボアは野生のボアと違って性格は穏やかであり、人間を襲うことはない。だからレノを襲うこともせずに彼を主人の元にまで連れてきてくれた。


「あの子は雑食だから何でも食べるけど、肉はあんまり好きじゃない。いつも植物ばかり食べているから安心して」
「なるほど、だけど俺と会った時は怪我をしてたけど、やっぱりあの怪我は……」
「……きっと赤毛熊にやられた。あの化物熊が現れる前はボア子を襲う動物なんていなかったのに」
「ボ、ボア子?」
「あの子の名前、可愛いでしょ?」


ボアの名前が「ボア子」だと判明し、コトミンのネーミングセンスにレノは何とも言えない表情を浮かべる。


「あのボア……いや、ボア子はどうして襲われたの?」
「赤毛熊に餌として狙われている。もう何度も襲われたけど、その度に私が治療してた。でも、最近は帰って来なかったら心配してた。ボア子を助けてくれてありがとう」


コトミンはボア子のことを大切に想っているらしく、彼女を助けてくれたレノにお礼を言う。ここまで魔物を大切にする人間(エルフだが)と出会ったのは初めてであり、レノは不思議な気分を抱く。


(今まで魔物は危険な奴ばかりだと思ってたけど、人間に懐く魔物もいるんだな。それにしても赤毛熊か……このまま放っておくとこの子とボア子が危険な目に遭いそうだ)


赤毛熊がいる限りはこの地域の森や山に暮らす生き物たちが危険に晒され、今回はレノがいたから助かったが、コトミンもボア子も危うく襲われるところだった。それを考えるとレノはこのまま去る気はなかった。


「あの化物……赤毛熊と言ったっけ?あいつを放っておくとどうなる?」
「……あなたのお陰でしばらくは大人しくしていると思う。でも、住処を知られた以上はまたここにやって来るかもしれない」
「またここに来るのか……よし、それなら俺に任せてよ」
「え?」


レノの言葉にコトミンは呆気に取られるが、そんな彼女にレノは微笑む。


「助けてくれたお礼に俺があの化物を倒すよ」
「倒すって……どうやって?」
「まあ、まだ方法は思いつかないけど……でも、何とかしてみせる」


撃退には成功したがレノは赤毛熊のせいで死にかけたため、今の時点では赤毛熊に勝てない。だが、自分を助けてくれた女の子が困っているのに放っておくことなどできなかった――





――翌日の朝、レノはコトミンが作ってくれた薬草のスープを飲む。味はお世辞にも美味しいとは言えないが、折角作ってくれたので我慢して飲み込む。


「うげぇっ……苦い」
「頑張って全部飲んで……魔力暴走で消耗した体力を回復させるのはこれが一番」
「あれ?言われてみれば確かに身体が楽になったような……」


薬草のスープを全部飲むと、昨日の夜までは碌に動かせなかった身体も自由に動けるようになった。これならば魔操術も使えそうであり、試しにレノは両手を握りしめて硬魔を発動させる。


「うん、魔力も問題なく扱えるや」
「……そういえば気になっていたけど、レノは何色の魔術師?」
「え?何色って……」


コトミンの質問にレノは首を傾げ、彼女の言葉の意味が分からなかった。だが、少し前に吸血鬼がタケルのことを「無色の魔術師」と呼んでいたことを思い出す。タケルは異世界人なので彼の元々の魔力は「透明」だった。


「その色ってどういう意味?」
「……知らないの?魔術師は色で魔術系統を分けている」
「系統?」


レノの言葉にコトミンは驚き、彼女は魔術師が扱う魔法の系統によって「色分け」が行われていることを話す。


「例えば私のようなエルフは風属性の魔法の適性があるから自然と魔力の色は緑色になる。だから私は「緑色の魔術師」になる」
「緑色?他にも色があるの?」
「ある。火属性の魔法を得意とする魔術師は「赤色の魔術師」水属性の魔術師は「青色の魔術師」と呼ばれる。レノはどんな魔法が使えるの?」
「いや、俺は……」


コトミンの言葉にレノは自分が魔法を教わっていないことを思い出す。タケルは魔操術を極めてはいたが異世界人である彼には「魔法」は使えなかった。


(あのゴウカとかいう奴と戦っていた時に使っていた爺ちゃんの技も魔法じゃなかった……)


ゴウカとの戦いではタケルは自身の魔力のみで「八つ首の竜」を構成し、炎の巨人と化したゴウカを打ち破った。今のレノでは到底真似はできないが、何時の日かタケルのように「魔法」を使わずに戦える魔術師になりたいと考えた。

子供の頃のレノは魔術師に憧れてタケルに弟子入りした。しかし、今のレノにとってとはタケルただ一人で有り、彼のような魔術師を目指すのならば「魔法」を覚える必要もない。


「俺は……無色の魔術師を目指してるよ」
「……無色?」
「まあ、魔法は使えないってことなんだけどね」


レノの言葉にコトミンは不思議そうな表情を浮かべるが、そんな彼女に苦笑いを浮かべながらレノは手帳を開いた。タケルが最後に残してくれた手帳を確認し、赤毛熊を倒せる技がないのかを探す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【TS転生勇者のやり直し】『イデアの黙示録』~魔王を倒せなかったので2度目の人生はすべての選択肢を「逆」に生きて絶対に勇者にはなりません!~

夕姫
ファンタジー
【絶対に『勇者』にならないし、もう『魔王』とは戦わないんだから!】 かつて世界を救うために立ち上がった1人の男。名前はエルク=レヴェントン。勇者だ。  エルクは世界で唯一勇者の試練を乗り越え、レベルも最大の100。つまり人類史上最強の存在だったが魔王の力は強大だった。どうせ死ぬのなら最後に一矢報いてやりたい。その思いから最難関のダンジョンの遺物のアイテムを使う。  すると目の前にいた魔王は消え、そこには1人の女神が。 「ようこそいらっしゃいました私は女神リディアです」  女神リディアの話しなら『もう一度人生をやり直す』ことが出来ると言う。  そんなエルクは思う。『魔王を倒して世界を平和にする』ことがこんなに辛いなら、次の人生はすべての選択肢を逆に生き、このバッドエンドのフラグをすべて回避して人生を楽しむ。もう魔王とは戦いたくない!と  そしてエルクに最初の選択肢が告げられる…… 「性別を選んでください」  と。  しかしこの転生にはある秘密があって……  この物語は『魔王と戦う』『勇者になる』フラグをへし折りながら第2の人生を生き抜く転生ストーリーです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

処理中です...