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プロローグ 《魔術師と弟子》

第15話 思いもよらぬ遭遇

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「もういいよ!!俺一人で倒してみせる!!」
「ふん、勝手にしろ!!泣いて帰ってきても慰めてやらんからな!!」


子供のような口喧嘩しながらレノは外に出ると、山小屋の裏手にある倉庫を思い出す。こちらの倉庫には狩猟道具が保管されており、普段はタケルの許可なく立ち入ることは禁じられているが、怒ったレノは無断で倉庫に入ろうとした。


「へへ、こんな鍵なんて今の俺には簡単に開けられるもんね」


倉庫は錠がかけられているが、指先に魔力を集めてで鍵の形に変形させ、で鍵の形をした魔力を硬化させる。そうすることで本物の鍵とそっくりの魔力の鍵へと変貌させ、簡単に錠を開いた。

魔獣ボアの討伐に道具を使ってはならないと言われてないため、悪びれもせずに中に入ったレノは倉庫内の道具を見渡し、自分でも扱えそうな武器を探す。そして面白い物を発見した。


「これは……爺ちゃんがよく使う奴か」


レノは発見したのは狩猟の際にタケルがよく利用する「スリングショット」だった。レノが子供の頃によく遊んでいた「パチンコ」と似ているが、こちらは狩猟用にタケルが作り出した道具である。


「相手が小動物ならともかく、魔物相手に通じる武器じゃないか……待てよ?」


スリングショットを手にしたレノはある考えを抱き、ボアを倒す方法を思いつく――





――倉庫から出たレノは川原へと移動すると、柔魔を利用して実験を行う。まずは小さめの石を拾い上げた後、左手の人差し指と中指の先端に帯状の魔力を繋げる。その状態で小石を魔力の帯に括り付け、自分の手と魔力を利用した「スリングショット」を作り出す。


「よし、これなら……ふぎぎっ!!」


指が折れかねない勢いでレノはで作り上げた帯の魔力を引っ張り、狙いを定めて小石を発射した。ゴムのように伸びる柔魔の性質を利用し、小石を加速させて解き放つ。すると小石は予想以上の速度で放たれ、的にして狙った樹木に食い込む。


「うわっ、すげぇっ!?」


自分がした事とはいえ、樹木にめり込んだ小石を見て驚く。ほんの軽い気持ちで試しただけだが、ただの小石でこれだけの威力があるのならば実戦でも役立ちそうだった。柔魔を利用した新しい攻撃法を思いつき、ボアを確実に仕留める作戦をレノは考える。


「ボアを倒すとしたらもっとでかいのを用意しないと……それと柔魔を利用するのに丁度いい大きさの樹木も探さないとな」


ボアを倒すためにレノは作戦を考え、早速準備に取り掛かろうとした。だが、そんな彼は唐突に強い魔力を感じ取って振り返る。


「まさか!?」
「フゴォオオッ!!」


森の中からボアの鳴き声が響き渡り、樹木を薙ぎ倒しながらボアが川原に現れた。それを見てレノは驚き、まさかこんなにも早く遭遇するとは思わなかった。


(ボア!?どうしてここに……こいつ、まさか俺の臭いに勘付いてここまできたのか!?)


前回に逃げたレノの臭いを覚えていたのか、ボアは彼の臭いを感じ取って川原に乗り込んできたらしい。ボアの登場にレノは動揺するが、既にボアはレノを獲物として狙いを定めていた。


「フゴッ、フゴッ……!!」
「くそっ……やるしかないか!?」


ボアの魔力が急激に高まったのを感じ取ったレノは一角兎の戦闘を思い出し、案の定というべきか突進を仕掛けてきた。突進してきたボアに対してレノは両足に強化を発動させ、全力で跳躍を行う。


「おらぁっ!!」
「フゴォッ!?」


ボアの頭上を跳び越えて回避したレノは着地すると、慌ててボアは止まろうとしたがレノの背後に存在した岩に衝突する。普通の猪ならば気絶してもおかしくはないが、ボアの場合は岩を破壊した。


「フゴォッ……!!」
「ば、化物め……」


岩が壊れた際に舞い上がった土煙の中からボアは現れ、全く損傷《ダメージ》を受けていなかった。改めて自分がとんでもない敵と戦っていることを認識したレノは冷や汗を流す。

同じ魔物でもボアと一角兎では体格差も耐久力も膂力も大きな開きがあり、まともに戦ってはレノに勝ち目はない。だからこそボアを倒す作戦を実行する必要があり、レノはボアが破壊した岩の破片に視線を向ける。


(あれ、使えそうだな……問題はこいつをどうやって誘い込むかだ)


ボアは再びレノに突進の構えを取るが、それに対してレノは避ける準備を行う。正面衝突だけは絶対に避けなければならず、掠っただけでも命取りになりかねない。


(頼むから持ってくれよ、俺の足!!)


両足に再び強化を発動させ、ボアが突進を仕掛けてきた瞬間にレノは跳躍を行う。


「フゴォオオッ!!」
「おらぁあああっ!!」


レノがボアの頭上を再び跳び越えると、破壊した岩の近くに降り立つ。そして岩の破片の中から適当な大きさの物を探し出し、それを手にして一旦離れようとした。


「よし、これなら……うわっ!?」
「フゴォオオオッ!!」


破片を拾い上げたレノは一旦離れようとしたが、先ほど躱したはずのボアが正面から迫る光景を見て驚く。ボアの突進は急停止できないため、一度回避すればボアが体勢を整えるまで時間が掛かると思い込んでいた。

しかし、ボアは二度目の突進では急停止せずに方向転換を行う。敢えて一旦離れることで助走距離を得ると、先ほどよりも凄まじい速度で突っ込む。それを見てレノは三度目の強化を行う。


「くそぉっ!?」
「フゴォオッ!!」


またもやボアの頭上を跳び越えてレノは回避したが、度重なる強化の師匠で両足の筋肉に大きな負担が掛かる。魔力もかなり消耗し、さらに今回は岩の破片を抱えての跳躍だったので着地の際に体勢を崩しそうになる。


「うわわっ!?」


危うくこけそうになるがどうにか踏ん張ると、ボアが戻ってくる前にレノは駆け出す。向かう先は森の中であり、それを目撃したボアはレノが逃げ出そうとしていると判断して突っ込む。


「フゴォオオッ!!」
「……そうだ、こっちに来い!!」


後方から聞こえてくるボアの鳴き声を聞いてレノは笑みを浮かべ、片手で岩を抱えながらもう片方の手を上に伸ばす。形状変化の技術を利用してレノは魔力を細長く伸ばして樹木の枝に括り付けると、魔力を引き寄せて上昇する。


「あ~ああ~!!」
「フゴォッ!?」


ジャングルの王者になった気分で後方から迫っていたボアの突進を回避すると、再び地面に降り立つ。着地の際にまたもや強化を使用して魔力を消耗し、もう足も限界だった。それでもレノは根性で動く。


(あと少しだ!!持ってくれよ!!)


最後の力を振り絞ってレノは両手を左右に伸ばすと、二つの樹木に自分の魔力を帯状に伸ばして括り付ける。樹木と柔魔の魔力を利用した巨大な「スリングショット」を作り出し、抱えていた岩を引き寄せる。

何度も攻撃を躱されて怒ったボアは樹木を薙ぎ倒しながら方向転換を行い、真正面からレノに目掛けて突っ込む。今まで一番の移動速度であり、直撃すれば自分の身体は原型も留めないほどに潰されると確信する。それでもレノは逃げずに岩を持ち上げ、限界まで柔魔で作り上げた魔力の帯を引っ張った。


「喰らえ化物ぉっ!!」
「フゴォオオッ――!?」


ボアの顔面に目掛けてレノは岩を放つと、大砲の砲弾の如く加速した岩はボアの顔面に衝突した。ボア自身が最大限に加速した状態で突っ込んでいたため、カウンターの要領で威力は倍増する。

岩は衝突した際に粉々に砕け散るが、ボアの頭部に強烈な衝撃を与えた。そしてボアの突進の勢いが止まり、レノの目前でボアは地面に倒れ込む。その光景を見てレノは唖然とするが、ボアは目元から血を流して痙攣する。それを見てレノは両膝を付いた。


「死んだ、のか?」
「……フゴォッ!!」
「うわぁっ!?」


事切れたと思われたボアはレノの言葉を耳にして鳴き声を上げる。まだ生きているのかとレノは驚くが、眉間から大量の血を滲ませたボアは立ち上がるのも精いっぱいといった様子だった。


「フゴッ、フゴォッ……」
「……凄いな、お前」


先の攻撃で頭部に甚大な損傷を受けながらもボアは起き上がり、その様子を見てレノは素直に感心した。これほどまでの怪我を負いながらも戦意を衰えないボアにレノは自分も限界を超えて戦う覚悟を決める。


(もう立っているのも精いっぱいだってのに……やるしかないか)


震える足を両手で抑えながらレノは立ち上がり、止めの一撃を繰り出すために拳を構える。タケルからは注意されていたが、レノは硬魔と強化を発動させてボアの顔面に殴りつけた。


「うおおおおおっ!!」
「ッ――――!!」


森の中にボアの断末魔の悲鳴が響き渡り、巨体が地面に沈む。その光景をレノは見下ろすと、膝を付いてしまう。


「はあっ、はあっ……流石に、死ぬかと思った」


全身から汗が泊まらず、殆どの魔力を使い果たして意識を保つのがやっとだった。だが、まだやるべきことが残っており、魔力感知を発動させる。

ボアは一見は死んでいるようにみえるが、タケルの話によれば血晶を破壊しない限りは魔物を完全に殺すことはできない。だからレノは魔力を探ってボアの血晶の位置を探る。最後の力を振り絞ってレノは額の傷口に手を伸ばすと、ボアの体内から血晶を引き抜く。


「貰うぞ、お前の生命《いのち》」


血塗れの手でレノは血晶を握りしめ、残り少ない魔力で強化を発動させて血晶を握り潰す。一角兎の何倍もの大きさを誇る血晶が砕けた瞬間、レノの身体に魔力が流れ込む。


「がはぁっ!?」


一角兎の時とは比較にならない魔力がレノの体内に流れ込み、怪我の痛みと疲労が吹き飛ぶ。何とも言えない高揚感にレノは戸惑い、雄叫びを上げる。


「うおおおおおおっ!!」


山の中にレノの咆哮が響き渡り、木々に留まっていた鳥達が逃げ出した――
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