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第18話 魔盾の性質

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(嘘だろ!?結構強めに打ったのに……流石にゴブリンみたいに上手くはいかないか!!)


自分の攻撃が通じなかったことにレイトは冷や汗を流すが、このような状況に陥る事は想定済みだった。まだレイトの右手は反魔盾を展開しており、迫りくるオークに向けて構えた。


「プギィイイッ!!」
「来いっ!!」


自分の食事の邪魔をした人間にオークは怒り心頭であり、レイトを捕えようと腕を伸ばしながら突進してきた。それに対してレイトは反魔盾を展開した状態で待ち構え、冷静にオークの片腕に目掛けて放つ。


「おらぁっ!!」
「プギャッ!?」


オークが迫った瞬間、レイトは側面に回り込んでオークの左腕に目掛けて反魔盾を繰り出す。衝撃が跳ね返ったオークの左手が自分の顔面めり込む。


「フガァッ!?」
「まだまだ!!」


左腕を弾き飛ばしてオークを怯ませると、さらにレイトは肘の部分に反魔盾を叩き込み、さらに顔面に衝撃を受けたオークは地面に倒れこむ。その間にレイトは距離を取り、オークの様子を伺う。

顔面に二連発も衝撃を受けたオークは立ち上がろうとしたが、流石に自分の腕で殴られたら無事では済まなかったらしく、鼻血を吹き出していた。


「フガァッ!?」
「ふうっ、ふうっ……流石にしぶといな」
「プギィイイッ!!」


鼻血を流しながらもオークはレイトと向き直り、全身の毛を逆立たせて睨みつける。ボアにも劣らぬ迫力にレイトは後ずさるが、このまま逃げる事はできない。


(やっぱり俺の地力じゃこれが限界か。仕方ない……とっておきを使うか)


渾身のカウンターでもオークを倒すまでには至らず、自分の腕力では限界を感じたレイトは準備を行う。



――反魔盾は衝撃が強いほどに跳ね返すのに必要な魔力が大きくなるが、逆に言えば魔力の消費量を増やせば反発力を高める事ができる。その性質を利用すればレイトは相手が攻撃を仕掛けずとも反撃を繰り出すことができた。



反魔盾を縮小化させ、掌に収まるほどの大きさに変化させる。盾を小さくしたのは無駄な魔力の消費を抑えるためであり、オークに目掛けてレイトは突っ込む。


「うおりゃあっ!!」
「プギャッ!?」


まさか獲物レイトの方から接近してくるとは思わず、オークはレイトが繰り出した掌底を避けられずに腹部で受け止める。オークの腹部は肉体の中で最も防御力が高く、人間の力ではどうにもできない。しかし、レイトの掌には反魔盾が握りしめられていた。

反魔盾がオークの肥え太った腹に触れた瞬間、魔力を消費して反発力を高める。レイトの腕力だけではびくともしない巨体だろうと、魔法の力を最大限に高めれば吹き飛ばす事も不可能ではない。


「おらぁあああっ!!」
「ブフゥウウッ!?」


腹部に強烈な衝撃を受けたオークは吹き飛び、先ほど食べていた餌を吐き散らしながら倒れこむ。一方でレイトは右腕を抑え、頭痛と疲労が同時に襲い掛かる。


「はあっ、はあっ……さ、流石にきついな」


オークを吹き飛ばすだけの衝撃を生み出すためにレイトは相当な魔力を消費し、しばらく休まなければ動けそうになかった。その一方でオークは倒れたまま動かず、意識を完全に失っていた。止めを刺すには絶好の機会だが、レイトは疲れて動けそうにない。


(一発だけでこの有様か。でも、こんな化物を俺一人で倒せたんだよな)


防御魔法は攻撃を防ぐ事しかできないと思われがちだが、使い道によっては攻撃にも利用できる事は証明された。もっと魔法の腕を磨けばより強力な反撃を繰り出せると確信し、自分が魔法使いとして一歩成長したと実感した。だが、そんな事を考えているレイトの元に聞き覚えのある声が響く。


「くくく、まさかこんな形で再会できるとはな」
「っ!?」


声のした方向に振り返ると、前に街道で絡んできた赤竜に所属する冒険者の男が立っていた。男は地べたに座り込むレイトと彼が倒したオークに視線を向け、醜悪な笑みを浮かべた。


「こいつは最高だ!!まさかお前みたいなガキがオークを仕留めるとはな!!」
「あんた、まさかずっと見てたのか?」
「ああ、お前の後をずっと付けてたからな。全く気付いていなかっただろ?」
「くっ!!」


男の言葉にレイトは自分が油断していた事に恥をかく。この試験では他の冒険者は競争相手でもあり、ましてや単独行動する自分は他に頼れる仲間がいない事を忘れていた。

仮にレイトが他の冒険者と行動を共にしていたら流石の男も尾行は断念していた。しかし、黒虎からの冒険者が一名だけだと知った男はレイトの後を辿り、先日の恨みを晴らそうと考えていたのだが、まさかオークを仕留めるとは思わなかった。男は獲物を奪えるだけでなく、レイトに復讐する絶好の機会を得た。


「別の他の冒険者から獲物を奪うなという規則ルールはなかったよな。お前のお陰で特別報酬も手に入れられそうだ」
「ふざけんなっ!!それ以上に近づいたらただじゃおかないぞ!!」
「ふんっ!!そんな有様で何ができるってんだよ!?」


レイトは立つことさえもままならず、そんな彼を無視して男は倒れているオークの元に向かい、止めを刺して素材を奪おうとした。だが、レイトは男に獲物を奪われるぐらいならばと右手を構えた。


「それ以上に近づいたら攻撃するぞ!!」
「やるってのか!?上等だ、ぶっ殺してやる!!」


男はレイトの言葉に慌てて剣を抜いて構え、二人は睨みあったまま動けない。レイトは大分体力を消費しているが、このまま獲物を奪われるぐらいならば意地でも戦うつもりだった。


(絶対にこんな奴に渡してたまるか!!)


右手を構えて呪文を唱えようとした時、男の後方から大きな影が差す。それを見てレイトは目を見開き、男は急に暗くなったことに疑問を抱いて振り返る。


「な、何だ?」
「馬鹿、振り向くな!!」


男は振り返った瞬間、視界に映し出されたのは全身が赤毛に覆われた巨大熊が立ち尽くしていた。オークよりも一回りは大きく、異様に長い牙と爪は刃物のように研ぎ澄まされており、巨大熊は血走った目で男を見下ろす。あまりの迫力に男の悲鳴が森中に響き渡った。


「ひ、ひぃいいいっ!?」
「ウガァアアアッ!!」
「逃げろ!!殺されるぞ!?」


巨大熊の迫力に腰を抜かした男は地面にへたり込み、恐怖のあまりに身体が震えて動けない。レイトは男を助けようとしたが、巨大熊は腕を振りかざして男の頭を叩き潰す。

断末魔の悲鳴を上げる暇もなく男は死亡し、地面に大量の血が飛び散る。頭を潰された肉体はしばらく痙攣した後に動かなくなり、その光景を見たレイトは顔色を真っ青に染めた。


(し、死んだ……人が、死んだ)


憎き相手とはいえ、人が死ぬ瞬間を初めて見たレイトは身体の震えが止まらない。今すぐに逃げなければ殺される事は理解しているが、巨大熊の圧倒的な威圧感に身体が言う事を聞いてくれない。


(に、逃げなきゃ……でも、どうやって!?)


必死に身体を動かそうとするが上手く動けず、その間にも巨大熊は男の死体を振り払ってレイトの元に近づく。それを見てレイトは腰に差している短剣を思い出し、どうにか刃を抜いて自分の左手に突き刺す。


「がああっ!!」
「ウガァッ!?」


自分で肉体を傷つけたレイトを見て巨大熊は戸惑い、その一方で左手の痛みで正気を取り戻したレイトは立ち上がる。痛覚で恐怖を振り払うと、改めてレイトは周囲を見渡して役立ちそうな物を探す。


(考えろ考えろ考えろ!!この化物の注意を反らす方法は……あれだ!!)


レイトが目をつけたのは餌箱であり、中身はオークをおびき寄せるために大量の食材の残骸が入っていた。巨大熊も餌に釣られてやってきたのは間違いなく、レイトは餌箱を蹴りつけて中身を散布した。


「これでも食ってろ!!」
「ガウッ!?」


地面に散らばった食材を見て巨大熊の注意がレイトから逸れると、その隙を逃さずにレイトはゆっくりと後ずさり、ある程度距離を離すと全速力で逃げ出す。オークの素材を回収する暇などなく、森の中を駆け抜けた――
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