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外の世界へ
第59話 サンノ
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「さてと、そろそろ行きましょうか。こうしてのんびりするのも悪くないですけど、赤毛熊が追いかけてくるかもしれないですからね」
「え?でも、山から随分と離れたけど……」
「こんなところまで流石に追ってこないだろ~」
「いやいや、分からないっすよ。赤毛熊は執念深い性格してますからね、縄張りから抜け出して追いかけてくる可能性は十分にありますから」
「……確かに」
山から離れたとはいえ、赤毛熊が追いかけてこないとは言い切れず、ナオ達は狼車に乗り込む。用心のためにウルとスラミンに警戒を頼む。
「ウル君、もしも赤毛熊の臭いを感じたらすぐに教えてね。スラミンもあいつの気配を感じたら教えてくれる?」
「ウォンッ!!」
「ぷるぷるっ!!」
「おっ、良い返事っすね」
「え!?姉ちゃんは二人の言っている事が分かんのか?」
「いえ、全然……って、また姉ちゃんと言ったっすね!?あたしは男ですよ!!聞き分けのない子にはお仕置きっす!!」
「いてててっ!?み、耳は止めろよ!?」
自分をあくまでも女扱いするネココにエリオは怒った風に猫耳を軽く引っ張り、それを見てナオはネココの弱点が猫耳だと知る。その一方でミズネは山がある方向に視線を向け、警戒を怠らない。
「ナオ、もしもさっきの奴が追いかけてきたら……その時は戦わずに逃げた方がいいと思う」
「やっぱりそうだよね……」
「何だよ。兄ちゃんの魔法なら倒せるんじゃないのか?」
「う~ん、難しいとは思いますよ。兄貴の古代魔法は確かにすごいっすけど、赤毛熊相手には相性が悪いのは事実ですから」
これまで戦ってきた敵はナオの古代魔法を認識できず、不意打ちを受けて倒された場面が多い。しかし、今回の相手は全身に生えている体毛がまるでセンサーの如く攻撃を予知する。
エリオによればナオの古代魔法は目に見えずとも実体が存在するため、攻撃の直前に風の流れを掴めば何処から攻撃が来るのか予測できる。そのために赤毛熊に攻撃を充てるとしたら画面を拡大化させて避ける暇も与えずに攻撃を仕掛けるしかない。
(画面を大きくすればするほど操作が難しくなるんだよな)
ナオが「旋風」を繰り出す際、画面を縮小化させるのは回転率を高めるためである。画面が大きい状態だと操作が難しく、画面を回転させるのも時間が掛かってしまう。だから画面を回転させる際にナオは手元で縮小化させ、限界まで回転力を高めた状態で投げ込む攻撃を行ってきた。
(旋風なら当てることができれば倒せると思うけど、一度避けられると引き戻すのに時間が掛かるからな)
高速回転を加えた画面は細かな操作は行えず、攻撃が失敗した場合は手元に手繰り寄せるのに時間が掛かる。だからナオは攻撃の直後に魔法を解除し、再び魔法を再発動して攻撃を行う事が多い。この方法でミノタウロスを倒したこともあるが、赤毛熊には同じ手は通じない。
(画面を拡大化させたまま旋風を使えるようになれば倒せるかもしれないけど、今の俺の技術じゃ無理だよな)
旅の間も鍛錬を怠らず、魔力操作の修行は続けてきた。しかし、現時点のナオでは拡大化させた画面を高速回転させるほどの技術はなく、赤毛熊と遭遇した場合は今度も上手く逃げ延びれるかは分からない。
「う~ん……」
「兄ちゃん、何を唸ってんだ?もう街が見えてきたのに」
「え、嘘!?」
考え事をしている間にサンノの街に到着していたらしく、狼車は城壁の前まで辿り着いていた。城壁の上に居た警備兵は車を運ぶ白狼種の姿を見て驚き、慌てて弓矢を構えた。
「止まれ!!お前たちは何者だ!?」
「怪しい魔物に乗りおって!!」
「グルルルッ!!」
「誰が怪しいだ!!こんなに格好いい狼が悪者に見えるのかこら!?」
「ちょ、ネココちゃん落ち着いて!!」
自分たちに弓を構えてきた兵士にネココとウルは怒るが、慌ててエリオが宥める。ナオは狼車から降りて事情を話そうとした時、城門の方から別の兵士たちが駆けつけてきた。
「待て!!お前たち、この方たちは大丈夫だ!!もう通行料も支払われてる!!」
「え?どういう意味ですか?」
「……私達、ここに着いたばかりなのに?」
兵士の言葉にナオ達は呆気にとられ、初めて来た街なのにどうして通行料が支払われている事になっているのか不思議に思と、兵士は事情を説明してくれた。
「貴方達が来る前に我が街で商売を行っている商会の方々が返ってきたのです。ドルトンさんのお知り合いで間違いないですよね?」
「はい、そうですけど……」
「ドルトンさんから事情は既に伺っております。助けてもらったお礼にと皆様の通行許可証の発行は既に終わっております。この許可証がある限り、サンノの街は自由に出入りできるのでどうかお受け取りください」
「通行許可証?」
「大きな街では出入りするたびに通行料を支払う義務がある。でも、許可証があれば面倒な手続きもなしに自由に通ることが許される。その代わりに許可証の発行には相当なお金が掛かると聞いてるけど……」
「へえ~あのお爺さんも太っ腹ですね」
「ん?確かにちょっと太ってたけど、そんな悪口言うなよ」
「いや、今のは褒めたんすよ!!」
ドルトンの計らいでナオ達は通行許可証を受け取り、この許可証がある限りはナオ達は通行料を気にせずに自由に街の出入りが可能となった。
「え?でも、山から随分と離れたけど……」
「こんなところまで流石に追ってこないだろ~」
「いやいや、分からないっすよ。赤毛熊は執念深い性格してますからね、縄張りから抜け出して追いかけてくる可能性は十分にありますから」
「……確かに」
山から離れたとはいえ、赤毛熊が追いかけてこないとは言い切れず、ナオ達は狼車に乗り込む。用心のためにウルとスラミンに警戒を頼む。
「ウル君、もしも赤毛熊の臭いを感じたらすぐに教えてね。スラミンもあいつの気配を感じたら教えてくれる?」
「ウォンッ!!」
「ぷるぷるっ!!」
「おっ、良い返事っすね」
「え!?姉ちゃんは二人の言っている事が分かんのか?」
「いえ、全然……って、また姉ちゃんと言ったっすね!?あたしは男ですよ!!聞き分けのない子にはお仕置きっす!!」
「いてててっ!?み、耳は止めろよ!?」
自分をあくまでも女扱いするネココにエリオは怒った風に猫耳を軽く引っ張り、それを見てナオはネココの弱点が猫耳だと知る。その一方でミズネは山がある方向に視線を向け、警戒を怠らない。
「ナオ、もしもさっきの奴が追いかけてきたら……その時は戦わずに逃げた方がいいと思う」
「やっぱりそうだよね……」
「何だよ。兄ちゃんの魔法なら倒せるんじゃないのか?」
「う~ん、難しいとは思いますよ。兄貴の古代魔法は確かにすごいっすけど、赤毛熊相手には相性が悪いのは事実ですから」
これまで戦ってきた敵はナオの古代魔法を認識できず、不意打ちを受けて倒された場面が多い。しかし、今回の相手は全身に生えている体毛がまるでセンサーの如く攻撃を予知する。
エリオによればナオの古代魔法は目に見えずとも実体が存在するため、攻撃の直前に風の流れを掴めば何処から攻撃が来るのか予測できる。そのために赤毛熊に攻撃を充てるとしたら画面を拡大化させて避ける暇も与えずに攻撃を仕掛けるしかない。
(画面を大きくすればするほど操作が難しくなるんだよな)
ナオが「旋風」を繰り出す際、画面を縮小化させるのは回転率を高めるためである。画面が大きい状態だと操作が難しく、画面を回転させるのも時間が掛かってしまう。だから画面を回転させる際にナオは手元で縮小化させ、限界まで回転力を高めた状態で投げ込む攻撃を行ってきた。
(旋風なら当てることができれば倒せると思うけど、一度避けられると引き戻すのに時間が掛かるからな)
高速回転を加えた画面は細かな操作は行えず、攻撃が失敗した場合は手元に手繰り寄せるのに時間が掛かる。だからナオは攻撃の直後に魔法を解除し、再び魔法を再発動して攻撃を行う事が多い。この方法でミノタウロスを倒したこともあるが、赤毛熊には同じ手は通じない。
(画面を拡大化させたまま旋風を使えるようになれば倒せるかもしれないけど、今の俺の技術じゃ無理だよな)
旅の間も鍛錬を怠らず、魔力操作の修行は続けてきた。しかし、現時点のナオでは拡大化させた画面を高速回転させるほどの技術はなく、赤毛熊と遭遇した場合は今度も上手く逃げ延びれるかは分からない。
「う~ん……」
「兄ちゃん、何を唸ってんだ?もう街が見えてきたのに」
「え、嘘!?」
考え事をしている間にサンノの街に到着していたらしく、狼車は城壁の前まで辿り着いていた。城壁の上に居た警備兵は車を運ぶ白狼種の姿を見て驚き、慌てて弓矢を構えた。
「止まれ!!お前たちは何者だ!?」
「怪しい魔物に乗りおって!!」
「グルルルッ!!」
「誰が怪しいだ!!こんなに格好いい狼が悪者に見えるのかこら!?」
「ちょ、ネココちゃん落ち着いて!!」
自分たちに弓を構えてきた兵士にネココとウルは怒るが、慌ててエリオが宥める。ナオは狼車から降りて事情を話そうとした時、城門の方から別の兵士たちが駆けつけてきた。
「待て!!お前たち、この方たちは大丈夫だ!!もう通行料も支払われてる!!」
「え?どういう意味ですか?」
「……私達、ここに着いたばかりなのに?」
兵士の言葉にナオ達は呆気にとられ、初めて来た街なのにどうして通行料が支払われている事になっているのか不思議に思と、兵士は事情を説明してくれた。
「貴方達が来る前に我が街で商売を行っている商会の方々が返ってきたのです。ドルトンさんのお知り合いで間違いないですよね?」
「はい、そうですけど……」
「ドルトンさんから事情は既に伺っております。助けてもらったお礼にと皆様の通行許可証の発行は既に終わっております。この許可証がある限り、サンノの街は自由に出入りできるのでどうかお受け取りください」
「通行許可証?」
「大きな街では出入りするたびに通行料を支払う義務がある。でも、許可証があれば面倒な手続きもなしに自由に通ることが許される。その代わりに許可証の発行には相当なお金が掛かると聞いてるけど……」
「へえ~あのお爺さんも太っ腹ですね」
「ん?確かにちょっと太ってたけど、そんな悪口言うなよ」
「いや、今のは褒めたんすよ!!」
ドルトンの計らいでナオ達は通行許可証を受け取り、この許可証がある限りはナオ達は通行料を気にせずに自由に街の出入りが可能となった。
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