上 下
34 / 69
外の世界へ

第34話 ニノの街

しおりを挟む
「――ここがニノか、イチノと比べて人は少ないんだね」
「……イチノは王国の一番端にある街、だから外国からの客もよく訪れるから観光客が多い。でも、この街も活気がある」
「ぷるるんっ♪」


ニノの街に到着したナオ達は宿屋を探す途中で観光を楽しみ、イチノよりも人気は少ないが過ごしやすさという点では勝っていた。イチノは何処に行っても人が多く、周囲に気を配って歩かないといけないので気が休まらなかった。

イチノよりも冒険者の数が多く、先日にイチノで出現したミノタウロスの討伐のためにニノから冒険者が派遣されたという話を聞いている。どうやらイチノよりもニノの冒険者の方が数も質も上回るらしく、立派な装備を身に着けた冒険者を道すがら見かけた。


「この街は武装している人が多いね。全員が冒険者なのかな?」
「……傭兵も混じっていると思う。最近は冒険者の方が人気があるけど、護衛の仕事なら傭兵の方が安上がりだと聞いてる」
「そういえばドルトンさんもそんな事を言ってたな」
「誰それ?」


商人のドルトンから聞いた話では商団が他の街に出向く際、護衛として冒険者か傭兵を雇う事は当たり前らしい。冒険者の場合は魔物が現れた時に対応できるが、傭兵は彼等と違って魔物退治を生業としているわけではないため、最近では冒険者の方が人気が高い。

世界各地で魔物が数を増やしている事もあって冒険者は頼られることが多く、近年は国の援助もあって冒険者ギルドも増えているらしい。


「冒険者か、俺も成人年齢を迎えたら入ってみようかな」
「ナオなら年齢に関係なく入れるはず。魔術師は年齢制限がなくなったと聞いてる」
「え、そうなの!?」


基本的には冒険者に就けるのは成人年齢を満たした者だけだが、魔術師の場合は特例として未成年でも加入できるという。子供でも魔法を扱えるだけで戦力となり、ナオがその気になれば冒険者にもなれる。


(冒険者か、子供の頃は憧れてたっけ)


わりと本気で冒険者になろうかと悩んでいると、街の広場に辿り着く。歩き疲れたのでナオは休憩を提案しようとした時、猫耳を生やした女の子が兵士に追いかけられる場面に遭遇した。


「こら、待ちなさい!!」
「盗んだ物を返せ!!」
「おい、そっちに周り込め!!」
「へへ、お前等なんかに捕まるかよ!!」


獣人族の女の子は捕まえようとしてくる兵士を躱し、彼女の動きを見てナオは驚く。女の子はまるで本物の猫のような身軽さで兵士の追跡を振り切る。


「悪いな、そこの兄ちゃんと姉ちゃん!!」
「うわっ!?」
「にゃっ!?」
「ぷるんっ!?」


女の子はナオとミズネの間を潜り抜けると、この際にスラミンが入ったカバンを奪い取る。鞄の中には先日のミノタウロスの討伐で得た大金も入っており、逃げようとする彼女にナオは慌てて追いかける。


「こ、こら待て!!泥棒!!」
「安心しなよ、後で返してやるって!!」
「……逃がさない」


鞄を抱えた状態で女の子は立ち去ろうとしたが、怒ったミズネは杖を構えると水球を作り出し、先日の盗賊を打ちのめした時のように「水の鞭」を放つ。


「アクアウィップ」
「うわっ!?」
「やった!!」


ミズネが繰り出した水の鞭が女の子の足を拘束し、彼女は逃げようとするが魔法で生み出されたは大人の男でも振り払えない。ナオは捕まえたと思ったが、女の子は気合を込めた表情を浮かべる。


「こんなもん!!」
「うわっ!?」
「おおっ……凄い」


女の子は足に力を込めると、血管が浮き上がって筋肉が膨張する。人間よりも運動能力に優れた獣人族の特性を生かし、全力で水鞭を振り払おうと跳躍した。

水鞭に足が絡まれた状態で少女は十メートルほど離れるが、ゴムのように伸びた水鞭は振り払えず、力を込めて前に進もうとするが離れる程に引き寄せる力が強まっていく。


「ふぎぎぎっ!?」
「えっと……捕まえていいのかな?」
「もうちょっと待って、そうすれば面白いのが見える」


街中にて少女がゴムのようにしなる水鞭に拘束された状態で足を引っ張る光景は異様であり、彼女を追いかけていた兵士や街の住民も固唾を飲んで見守る。やがて限界が来たのか少女は徐々に身体が引きずられていき、遂にはナオ達の元に引き寄せられる。


「うわぁっ!?」
「全くもう……鞄は返して貰うよ」
「ぷるるんっ!!」
「……お帰り」


鞄を取り戻すと中に隠れていたスラミンが嬉しそうにミズネの胸元に跳び込み、彼女はスラミンを抱き上げた。この時にミズネの意識が途切れたせいか少女を捕まえていた水鞭が消え去り、その一瞬の隙を逃さずに少女はナオの鞄を再び掴む。


「まだ返すと言ってないぞ!!」
「うわっ!?」
「あ、しまった……油断した」
「つ、捕まえろ!!」


再びナオの鞄を奪った少女は駆け出し、それを見た兵士が後を追いかけようとする。だが、ナオは少女に逃げられる前に手を伸ばして魔法を発動させた。


「ステータス!!」
「うぎゃっ!?」
「「「えっ!?」」」


少女が逃げる方向にステータス画面を移動させ、彼女は目に見えない画面に衝突して倒れた。全速力で駆け抜けていたのが仇となり、少女は目を回して意識を失う。それを見た兵士達は戸惑うが、慌てて少女を確保した――





――兵士が取り戻した鞄を返して貰った後、ナオ達は彼等から詳しい話を聞く。少女はこの街でも有名なスリであり、最近になって盗みを働くようになったらしい。兵士は何度も捕まえようとしたが失敗し、今回はナオ達のお陰で捕まえられた事に感謝した。


「本当にありがとうございます魔術師殿!!御二人共こんなにお若いのに魔法が扱えるとは大したものですな!!」
「はあっ……それよりもあの女の子はどうなるんですか?」
「子供とはいえ、今まで悪質なスリを行っていた以上、相応の罰を与えるつもりです。恐らくは奴隷堕ちでしょう」
「奴隷!?」
「おや、知らないのですか?この国では重犯罪を犯した人間は子供であろうと奴隷として扱われるのです」


ナオの暮していた村では奴隷などいなかったが、大きな街などでは奴隷は当たり前のように存在する。犯罪を犯した人間は奴隷に落とされて厳しい人生を送る事は決まっており、いくら子供であろうと犯罪を繰り返した者を許すわけにはいかない。


「くそっ、離せよ!!このロリコン!!」
「誰がロリコンだ!?いいから大人しくしろ!!」
「隊長!!早くこいつを屯所まで連行しましょう!!」
「ああ、分かっている。ではご協力感謝します!!」
「あ、あの……ちょっとその子と話をできませんか?」


兵士達は少女を連れ去ろうとするが、ナオは彼女が罰を受ける前に話を聞いておきたかった。兵士に拘束された少女の元に近づき、どうしてこんな真似をしたのか問い質す。


「君、どうしてスリなんてしたの?」
「……金が必要なんだよ。あたしの家族を助けるためにさ」
「病気?」
「嘘を吐くな!!お前の身元は判明している!!他の街の孤児院から脱走した子供だろう!!赤ん坊の頃に捨てられたと報告は受けている!!」
「孤児院の人間はもうお前とは関りはないとも聞いているぞ!!」
「うるさいな!!血は繋がってなくても家族いるんだよ!!」


少女の言い訳に兵士は否定するが、何故かナオは彼女が嘘を吐いてるようには思えなかった。彼女が言う家族が何者なのかは気になったが、兵士はそれ以上の質問をする前に連行しようとした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

英雄転生~今世こそのんびり旅?~

ぽぽねこ
ファンタジー
魔王の手によって蝕まれていた世界を救いだした“英雄”は“魔王”との戦いで相討ちに終わってしまう。 だが更なる高みの『異界』に行く為に力を振り絞って己の身に〈転生〉の魔法を掛けて息絶えた。 数百年が経ったある日“英雄”は田舎で暮らす家庭に生まれる。 世界の変化に驚きつつ、前世では出来なかった自由な旅をしたいと夢を見る。 だが元英雄だけあり力がそのままどころか更に規格外の力が宿っていた。 魔法学園でもその力に注目を置かれ、現代の“英雄”の父親にも幼いにも関わらず勝利してしまう程に。 彼は元“英雄”だと果たしてバレずに旅を満喫できるのだろうか……。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 不定期更新になるかもしれませんが、お気に入りにして頂けると嬉しいです。 コメントもお待ちしています。 作者の都合により更新できる時間がなかったので打ちきりになります。ごめんなさい。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

サフォネリアの咲く頃

水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。 人と人ではないものたちが存在する世界。 若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。 それは天使にあるまじき災いの色だった…。 ※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も? ※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。  https://www.pixiv.net/users/50469933

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

精霊のジレンマ

さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。 そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。 自分の存在とは何なんだ? 主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。 小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

処理中です...