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第23話 夜の狩り

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――14才になったレノは2年前と比べても格段に弓の腕前が上達した。アルから毎日厳しい訓練を課せられたお陰で肉体もたくましく成長し、体力も子供の頃と比べ物にならないほどに身に着けた。

夜の森の中を駆け抜けながらレノは獲物を探し、夜明けまでにアルからの課題を済ませるつもりだった。だが、いくら満月といっても昼間と比べて暗いので獲物は簡単に見つからない。


「ここにもいないか……仕方ない、魔力感知を試すか」


闇雲に探し回ってもゴブリンは見つからないと判断したレノは目を閉じると、一瞬で魔力感知を発動する。子供の頃は魔力を探るために集中力を高めるまでに時間が掛かったが、この2年の間に魔力感知の技術も向上していた。

今のレノならば目を閉じて意識を集中させるだけで魔力感知を瞬時に発動できるようになり、魔物は普通の生物よりも魔力を有しているので見つけやすく、レノが感知できる範囲内にゴブリンが居れば一瞬で見つけられる。


(見つけた。ここから北の方角にゴブリンが3匹いるな……距離は100メートルぐらいか)


子供の頃よりもレノの魔力が探知できる距離は大幅に伸びており、現在は何百メートルも離れてる相手の位置を掴むこともできる。位置を確認するとレノは迅速に行動に移り、ゴブリンの元へ向かう。


(よし、見つけた!!まだこっちには気づいてないな……)


魔力を感知した場所の近くに辿り着くと、レノの視界には猪の死骸を貪るゴブリンの姿を目撃した。どうやら三匹がかりで猪を捕まえて殺したらしく、ゴブリンの足元には血が滲んだ石槍が転がっていた。


「ギギィッ!!」
「ギィアッ!!」
「ギャウッ!?」


三匹のゴブリンは我先にと猪の死骸に夢中に食らいつき、他の仲間など気にも留めずに肉に喰らいつく。その光景を見てレノは好機だと判断し、食べることに夢中で周囲への警戒心が薄れている今が狙い時だった。

アルから借りた弓を取り出してレノは矢を番えると、一番狙いやすい位置にいるゴブリンに狙いを定めた。この時にレノは強化術を発動させる動作《タイミング》に気を配る。


(一発撃ったら気付かれる……なら逃げる前に止めを刺す!!)


レノが強化術を発動すれば確実にゴブリンに気づかれる。魔物は普通の生物よりも魔力に敏感のため、もしもレノが魔力を高めたらすぐに気づかれてしまう。だが、それを承知でレノは強化術を発動させた。


(逃げる暇は与えない!!)


強化術を発動した瞬間にレノは矢を放ち、猪の死骸に夢中に食らいついていたゴブリン達は彼の魔力を感じ取って目を見開く。慌てて魔力を感知した方向に顔を向けるが、既にレノが放った矢はゴブリンの1匹に的中した。


「アガァッ!?」
「「ギィッ……!?」」


側頭部を矢で貫かれたゴブリンは絶命して地面に倒れ込み、夢中に死骸に喰らいついていた他のゴブリンは慌てて死骸から離れて周囲を見渡す。だが、どういうことか先ほど感じた強い魔力が一瞬にして消えてしまった。

仲間のゴブリンの死骸を見て攻撃されたのは間違いないのだが、どういうわけか攻撃を仕掛けた存在の居場所が分からない。ゴブリンは魔物の中では力は弱いが魔力を感知する能力に優れており、それだけに攻撃を仕掛けたはずの敵の魔力が消えたことに困惑する。


(まずは1匹……そしてこれで2匹目だ!!)


魔力を消しながらレノは場所を移動し、別の位置から矢を放つ。二体目のゴブリンは後頭部を貫かれ、口元から矢が飛び出す。


「アガァッ!?」
「ギ、ギィイッ!?」


瞬く間に仲間がやられたのをみて最後の1匹は悲鳴をあげて逃げようとするが、それをレノは逃すはずがない。背中を見せたゴブリンに対して弓を構え、足元に目掛けて放つ。


「最後!!」
「ギィアアアッ!?」


走っている最中に足を矢で貫かれたゴブリンは転倒し、それを見たレノは急いでゴブリンの元へ向かう。片足を負傷したゴブリンはまともに動くこともできず、その隙にレノは予備の矢を取り出す。

矢を握りしめた状態でレノはゴブリンの元へ向かうと、頭部に目掛けて矢を振り下ろす。強化術を発動させた状態で突き刺された矢はゴブリンの頭を貫いて絶命させた。最後の1匹を仕留めたレノはゴブリンに突き刺さった矢の回収を行う。


「これで3匹、残りは7匹か」


アルから渡された矢は10本だけだが、撃ち込んだ矢も回収すれば再利用できる。但し、何度も使用した矢は壊れやすいので気を付けなければならない。


「それにしてもこいつら、よくこんな大物を3匹だけで仕留めたな……」


猪の死骸を前にしてレノは不思議に思い、いくら武器を持っていたとしてもゴブリンが3匹だけで仕留められるような大きさの獲物ではない。罠でも仕掛けて動けないところを始末したのかと思ったが、猪の頭部を見てレノは違和感を抱く。


(何だ?この傷跡……まるで鈍器に殴られたような跡だ)


猪の顔面が凹んでいる事に気が付いたレノは疑問を抱き、ゴブリン達が所持していた石斧では到底できない怪我だった。不審に思ったレノは地面に視線を向けると、そこには信じられない足跡が残っていた。


「何だこの馬鹿でかい足跡……ゴブリンのじゃない?」


猪の傍には大きな足跡が残っており、その足跡は普通のゴブリンよりも二回りは大きかった。嫌な予感を抱いたレノはすぐにこの場を去ろうとしたが、遠くの方から足音が鳴り響く。


(何かが近付いている!?)


足音を耳にしたレノは魔力感知を発動させると、ゴブリンよりも大きな魔力を感じ取った。最初はゴブリンではない魔物が近付いているのかと思ったが、この森に生息する魔物は一角兎かゴブリンだけのはずであり、他の魔物など見たこともない。

足音は徐々に近付いており、かなりの移動速度だった。レノは隠れるのも間に合わないと判断して弓を構えると、樹木を潜り抜けて現れたのは体長が2メートル近い大きさのゴブリンだった。



――グギィイイイッ!!



森の中に巨体のゴブリンの鳴き声が響き渡り、それを聞いたレノは眉をしかめた。目の前に現れたのは通常のゴブリンよりも倍近くの背丈を誇るゴブリンであり、それを見たレノはアルから教わった魔物の名前を思い出す。


『ゴブリンは弱い魔物だと思われがちだけど、奴等は稀に上位種に進化する奴もいる』
『上位種?』
『分かりやすく言えばより強い存在に進化した魔物のことさ。ゴブリンの場合は短期間に大量に栄養を摂取すると「ホブゴブリン」と呼ばれる存在に進化する。このホブゴブリンは普通のゴブリンよりも背丈が大きくて力も何倍も増している厄介な相手だ。この森でも数年に一度は湧き出す面倒な奴さ』
『ホブゴブリン……』
『もしもお前がホブゴブリンと遭遇したら一目散に逃げるんだよ。下手に戦いを挑めば殺されるかもしれないからね……ホブゴブリンが現れたらすぐに私の所へ戻って来な』


狩猟の際中にレノはアルからホブゴブリンの存在を聞かされ、自分の目の前に現れた存在がホブゴブリンだと確信した。しかもホブゴブリンは肩に猪の死骸を担いでおり、どうやらこの場にある猪を殺害したのはホブゴブリンだったらしい。

ホブゴブリンは倒れているゴブリンの姿を見て目を見開き、歯を食いしばりながら怒りの表情を浮かべた。どうやらレノが倒したのはホブゴブリンの子供だったらしく、子供達に餌を与えるために猪を仕留めていた様子だった。だが、その子供達をレノは殺してしまい、ホブゴブリンは怒りの咆哮を放つ。
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