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第22話 魔法を覚える条件

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「なるほど……魔力が少ない方がいいこともあるのか」
「え?何か言いました?」
「いや、何でもないよ」


アルはレノが短期間の間に「強化術」「魔力感知」「魔力隠蔽」の三つの技術を覚えた理由を理解した。レノは人間なので元々の魔力が少ないが、そのお陰で魔力の制御が行いやすい体質だった。しかも毎日欠かさず練習してきたお陰で魔力量も大分伸びていた。

毎日厳しい修行をやり遂げたお陰で子供の頃と比べてもレノの魔力量は大幅に伸びており、今の彼ならば人間基準で考えれば途轍もない魔力を手に入れている。しかも魔力を制御する技術も身に着けており、そろそろ頃合いだと思ったアルはレノに尋ねる。


「レノ……そろそろ魔法を覚えるための材料は集まったのかい?」
「えっ!?」
「お前がこそこそと何かを集めているのは知っているよ。大方、魔法を覚えるために必要な材料を揃えていたんだろう?」
「師匠……やっぱり気付いてたんですね」


アルの言葉を聞いてレノは冷や汗を流し、一旦自分の部屋に戻ると魔法書を持って来た。その魔法書はアルの母親の所有物だった物であり、レノは古代語を解読して魔法書を読み解いたことを明かす。


「実は俺、古代語を読めるんです」
「そ、そうだったのかい!?よくそんな訳の分からん文字を解読できたね!!」
「父さんが考古学者だったんで読み方は教わってたんです。思い出すのに結構時間は掛かりましたけど……」


魔法書を開いてレノは現時点で解読できる頁まで開いて「付与魔法《エンチャント》」なる名前の魔法を覚える方法をアルに伝える。


「師匠は付与魔法のことを知ってますか?」
「いや、知らないね……私が知ってるのはエルフが扱う魔法ぐらいだよ」
「そうですか……この本によると付与魔法は物体に魔力を宿す魔法らしいんです」
「なんだそりゃ?どういう魔法だ?」


エルフのアルでさえも付与魔法のことは知らないらしく、そもそもレノが持っている魔法書は古代語で記されているので付与魔法が扱われていたのは大昔の時代である。アルも長生きはしているが古代語が扱われていた時代にはまだ生まれておらず、付与魔法の存在を知らないのも無理はない。

魔法書によれば付与魔法は物体に魔力を宿す魔法であり、レノの予想では剣に火属性の魔力を宿せば刃に炎が纏うのではないかと考えた。子供の頃に読んだ絵本では「魔法剣」という剣に魔法の力を宿す主人公の物語を読んだことがあるため、レノはきっと付与魔法は武器に魔法の力を宿す魔法だと考えていた。


「この付与魔法を覚えるためにはこのを刻む必要があるんです」
「魔術痕か……」


魔術痕とは魔術師が魔法を覚えるために必要な紋様であり、魔術師は新しい魔法を覚える際は必ず魔術痕を身体の何処かに刻まなければならない。魔術痕を刻むためには特別な道具が必要であり、それを集めるためにレノは頑張った。


「魔術痕を身体に刻むには特別な金属の刃物と魔石が必要だって聞きました。それと魔術痕を刻んだ後は怪我を治すために薬も必要だと書いています」
「それでお前は材料を揃えたのか?」
「いえ……怪我を治すための薬草ぐらいしか手に入れてません」


レノは悔し気な表情を浮かべて材料を揃えられなかったことを伝える。森の中では刃物も魔石と呼ばれる鉱石も手に入らず、怪我を癒すための薬草ぐらいしか集めることができなかった。だからレノはアルに頼み込む。


「お願いです師匠!!もしも師匠が材料を持っていたとしたら俺に下さい!!」
「下さいってお前……」
「この森から出られない以上は師匠に頼むしかないんです!!」


アルに拾われた時にレノは彼女とある約束をした。それは何があろうとレノは森から出てはならないという内容だった。理由は教えてくれなかったがアルはレノが森から出ることを決して許さず、だから材料が集めたくても森の外に出られなければどうしようもなかった。

材料を全て揃えるにはアルの協力が必要不可欠であり、彼女の方から魔法の話をしてきたのでこの機会にレノは頼み込む。アルは困った表情を浮かべて魔法書に記された魔術痕を確認する。


(私がこんな物を渡したせいでこいつは魔法を覚える方法を知っちまったのか……くそっ、恨むよお袋)


自分の母親がこんな本など持っていなければレノが魔法を覚えようなんて考えは抱かなかったかもしれないが、そもそも魔法書を渡したのはアル本人である。仕方なく彼女は自分にも責任の一端があると考えてレノに協力することにした。


「……分かった。残りの材料は私が何とか用意してやる」
「本当ですか!?」
「但し、一つだけ条件がある!!」
「じょ、条件?」


魔法書を閉じたアルはレノに真剣な表情を浮かべた。彼女がここまで真面目な表情を浮かべるのは滅多になく、レノは緊張しながらも条件を聞く。


「お前が本気で魔法を覚えたいというのなら、それなりの覚悟を見せて貰おうか」
「覚悟?」
「明日の夕方までにゴブリンを10匹狩ってこい」
「えっ!?」


アルの言葉を聞いてレノは驚愕の表情を浮かべ、彼女から弓と矢筒を渡された。矢筒の中には10本だけしか矢は入っておらず、これだけの武器でゴブリンを狩るように命じた。


「ゴブリン程度に苦戦するような奴に魔法を覚える資格はない。ここに10本の矢が入っている、ゴブリンを10匹倒すということは1本で1匹確実に始末しないといけないわけだね」
「でも師匠……」
「今更泣き言は聞かないよ!!私の弟子ならそれぐらいのことはやってみせな!!」
「は、はい!!」


レノはアルの言葉を聞いて戸惑うが、そんな彼を叱咤してアルは弓と矢を渡す。困惑した表情を浮かべながらレノは受け取ると、アルは今日の所はゆっくり休むように伝える。


「出発するなら明日の朝にしろ。今日はお前も疲れただろ、しっかり休んで明日に備えろ」
「……分かりました」


何か言いたげな表情を浮かべながらもレノはアルの指示に従い、後のことは任せて自分の部屋に戻ることにした――





――その日の夜、レノはベッドの上で横になっていたが眠れずにいた。厳しい訓練を終えて疲れは残っているのだがどうにも寝付けず、アルから借りた弓と矢筒に視線を向けた。


「ゴブリンを10匹か……」


魔法を覚えるためにアルから課せられた条件を思い出し、彼女が言うにはゴブリン程度の魔物を仕留められないようなら魔法を覚える資格はないらしい。その言葉には理解できるが、問題なのはアルが「10匹」と指定したことだった。

どうしても眠れないレノは身体を起き上げ、アルから借りた弓を手にした。自分が普段使っている弓よりも重く、張力も強いがその分に矢を放つときは威力も期待できそうだった。この弓ならば確実にゴブリンを射抜ける。


「決めた、もう行こう」


窓を見てレノは今夜は満月であることを確認し、夜でも十分に明るいことを確かめると服を着替えて準備を行う。昼間の作業で多少の疲れは残っているが問題ないと判断し、アルから受け取った弓と矢筒を背負って窓から外に飛び出す。アルは知らないがレノは夜の間に家を抜け出すことは多々あり、密かに一人で特訓を行っていた。

アルの修業を行いながらレノは自分で考えた特訓を行い、自分自身が身に着けた技術を磨き続けた。そのお陰で夜の間でもレノはゴブリンを狩れる自信はあった――
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