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廃墟編

廃墟

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――徐々に光が収まり、レアの視界が完全に回復すると、彼は自分が煉瓦製の建物の中に倒れている事に気付く。どうやら床に倒れていたらしく、上空に視線を向けると何故か天井ではなく青空が広がっており、すぐにレアは半壊した建物の中に居る事に気付いた。彼は自分の足元に転がっている破片を拾い上げ、随分と埃が付着している事を知り、建物が崩壊してから相当な年月が経過していると判断した。


「ここ、何処だ……?」


少なくとも先程まで存在した王城ではない事は間違いなく、大臣の「無作為転移」という魔法によって別の場所に飛ばされた事は確かであり、彼は悔し気に拳を地面に叩きこむ。


「民家、なのか?」


建物の外に移動するとレアの視界には中世を想像させる建築方法で建てられた街並みが広がり、地震のような災害が起きたのか、殆どの建物が半壊か全壊の状態で放置され、少なくとも人間が住んでいる様子はない。レアは戸惑いながらも周囲の様子を注意深く観察しながら移動を行う。


「どう考えても人が住んでいるとはは思えないな……もう何年も放置されているみたいだ」


幾つかの建物の中に入り込むが、人が住んでいる気配はやはり感じられず、壊れた家具の類ぐらいしか存在しない。大分前に住民たちは退去しているようであり、金銭的な価値がある物だけは持ち去ったらしく、価値が高そうな代物だけが存在しない。


「食料も水もない……いや、今は武器も必要だな」


こちらの世界には人間に害を為す「魔物」という存在が居る事を思い出し、ステータスを改竄して能力値は強化を施しているが、それでも武器の類も無しに戦うのは無謀である。


「駄目だな、瓦礫ぐらいしかない」


だが、廃墟の街の中で武器になりそうな物は両手で抱えられる規模の瓦礫程度しか存在せず、鈍器の代わりに殴りつける事は出来るだろうが、武器として携帯するには不便だった。


「仕方ない、靴下を使うか……囚人になった気分だな」


レアは片方の靴下を脱ぎ去り、その中に手頃な大きさの瓦礫を入れると、片手で振り回しながら近くの建物の壁に叩きつける。能力値を強化していたお陰か、靴下の中の瓦礫が叩きつけられた事で壁に罅割れが生じ、威力を確かめる事が出来るとレアは靴下を片手に持って移動を再開する。


「即席のハンマーだな……でも、あんまり役に立ちそうにないな」


もっと真面な武器が見つかれば良いのだが、今現在の状況ではこの程度の武器しか用意できず、兵士に捕まったときに武器になりそうな物は取り上げられてしまった。今現在の彼が身に着けているのは学生服以外には何もない。


「体力がある内に行動しないと……でも、人がいないのに食料や水なんてあるのか?」


この廃墟の街がどのような理由で滅びたのかは不明だが、一時期でも人間が住んでいたのならば水を確保できる場所があると考えられ、井戸か川が流れているのではないかと判断してレアは街中を探し回る。


「あ、そうだ。ステータスをもっと強化しておくか」


冷静に考えれば能力値を強化できるのならば躊躇する必要はなく、レアは自分のステータス画面を開き、ついでに消費したSPの項目に視線を向ける。SPを消費すれば役立ちそうなスキルを覚える事も可能であり、この状況下で役立つスキルも探そうとした時、彼の耳に声が聞こえた。


「ギィッ……!!」
「っ!?」


後方から奇怪な鳴き声が響き、レアは背後を振り返ると、建物の影から全身が緑色の皮膚に覆われた生物が現れた。外見は人間とは思えない容貌をしており、1メートルにも満たない体躯、それでいながら人間のように薄汚れているとはいえ衣服を纏っている。ファンタジーの世界ではありふれた存在であり、異世界を題材とした物語の中では高確率で出演する「ゴブリン」と思われる存在がレアの前に現れた。


「こいつが……この世界の魔物かっ!?」
「ギィイイイッ!!」


レアは即座に「解析」の能力を発動させ、相手の情報を読み取る。案の定、視界に表示された画面には「ゴブリン」という名前が表示された。


――ゴブリン――

種類:通常種

性別:雄

状態:飢餓

レベル:10

魔物スキル:悪食――あらゆる食物を栄養に変換する

――――――――


解析の能力によって魔物の正体がゴブリンと判明した瞬間、ゴブリンは興奮したように鳴き声をあげながら彼に飛びかかる。口を大きく開き、虫歯だらけの牙を向けて噛みつこうとして来たのでレアは咄嗟に右手に握りしめていた靴下を振り回す。


「このっ!!」
「アガァッ!?」


勢いよく振り回した靴下の内部の瓦礫が叩きつけられ、ゴブリンは派手に地面に倒れこむ。それを確認したレアはゴブリンの頭部から紫色の血液が流れている事に気付き、手元の鈍い感触に眉を顰めながらも距離を取る。


「ギ、ギギイッ……!!」
「くそ、まだ生きてるか……」


頭部を負傷しながらもゴブリンは起き上がり、憎々しげにレアを睨みつける。即座に両手を伸ばしてゴブリンは掴みかかろうとするが、寸前でレアは後方に退避して回避する。幸いにも現在の能力値でも対応できる相手らしく、レアの視界にはゴブリンの動作はそれほど早くは感じられなかった。


「このっ!!」
「ギャアッ!?」


もう一度靴下を振り上げると、ゴブリンは今度は両手で防ぐ動作を行い、鈍い音が響き渡る。受けた腕がへし折れたのか異様な方向に曲がり、ゴブリンは悲鳴を上げるがレアは容赦せずに蹴りを叩き込む。


「大人しくしろっ!!」
「グギィッ!?」


地面に倒れたゴブリンにレアは頭部に向けて踏みつけると、頭蓋骨が砕ける音が響き、ゴブリンの肉体が激しく痙攣する。その様子を確認したレアは額の汗を拭い、完全に相手が死亡したことを確認すると、大きなため息を吐き出す。


「ふうっ……案外、大したことはなかったな」


最初は戸惑ったが、現在の能力値ならば特に強敵と呼べる程の相手でもなく、油断しなければ恐らくは武器がなくとも対応できる相手で間違いない。それでも倒すのに時間が掛かり、レアはゴブリンの血液が付着した靴下に視線を向け、眉を顰める。


「役には立ったけど、やっぱりちゃんとした武器が欲しいな。それに汚れちゃったよ……何か病気になりそうだから流石に履けないなこれは」


紫色の血液がしみ込んだ靴下に視線を向け、武器としては心許なく、レアは溜息を吐きながらゴブリンの死骸に視線を向ける。ゲームなどでは魔物を倒せば戦利品や金が手に入るが、特にレアが倒したゴブリンは何も所持しておらず、薄汚れた布を纏っているだけにしか過ぎない。牙は虫歯だらけ、爪も欠けており、どう見ても金目の物になりそうな物はない。


「やっぱり、ゲームのように甘くはないか……人里に辿り着けても生き残れるかな俺?」


人間が住んでいる場所に辿り着いたとしても金目の物がなければ食事や宿泊する事も行えず、せめてこちらの世界に持ち込んだ道具があれば良かったのだが、全て兵士に奪われてしまった。


「まあ、今はここを離れないと……いや、その前にステータスを改竄するか」


ゴブリンに邪魔されたので忘れていたが、本来の目的はステータスの能力値を伸ばし、万全な状態にするためであり、レアは文字変換の能力を利用して改竄する。



――霧崎レア――

職業:剣士

性別:男性

レベル:10

SP:7

――――――――

能力値

体力:1000

魔力:1000

腕力:1500

脚力:1500

魔法威力:1000

魔法耐性:1000

幸運値:1000


――――――――

戦技




―――――――

技能

・翻訳――この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる
・脱出――肉体が拘束された状態から抜け出す

――――――――

固有

・解析――あらゆる物体の詳細を見抜く


――――――――

異能

・文字変換――あらゆる文字を変換できる


――――――――


現時点の能力を確認し、先程の戦闘でレベルが10のゴブリン程度ならば現状でも対応できる事が判明したが、この際に一気に能力値の改竄を行う。


「こんなもんかな」


――――――――

能力値

体力:10000

魔力:10000

腕力:15000

脚力:15000

魔法威力:10000

魔法耐性:10000

幸運値:10000


――――――――


特に能力値に制限があるわけではないため、レアは数字の最後に「0」を加えて一気に能力を10倍に引き上げる。その気になれば100倍だろうが1000倍だろうが能力値は強化出来るのだが、あまりに能力値を上げ過ぎると歩いただけで地面に罅割れが生じるのではないかという不安があり、一先ずは10倍に抑える。もしも現状の能力値でも敵わない相手が現れた場合はその時に強化を施せばいいだけの話であり、レアは改竄を終えて先に進む。
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