貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1086話 平和のためには……

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「まさかこうしてお前と二人で依頼を引き受ける日が来るとはな。こりゃ、今日は氷でも降るかもな」
「……僕の台詞だ」


黄金級冒険者のガオウとフィルは犬猿の仲である事で有名だった。しかし、ある時に二人はギルドマスターのギガンの依頼で迷宮都市へ訪れる。

この迷宮都市はかつて人造ゴーレムが支配していた地域だったが、ナイ達の活躍で人造ゴーレムは一匹残らず討伐され、現在は野生の魔物が住み着いていた。そのせいで二人は現在の迷宮都市の生態系の調査を依頼される。


「キュイイッ……」
「おい、見ろよ。こんな所に一角兎までいるぞ」
「どうしてこんな所に……」
「大方、誰かがここまで来て捨てに来たんだろう」


本来は山などの自然豊かな場所で生息するはずの一角兎の姿が見かけられ、噂では貴族や商人が飼っていた魔物の世話の面倒を見切れず、この迷宮都市に捨てる人間も増え始めた。

どうして野生に放たずにこの迷宮都市に捨てるのかというと、王国の法律では飼育していた魔物を野生に捨てるような行為は厳しく禁じられている。捕まえた魔物を元々とは別の地域に捨てれば生態系を乱す恐れがあり、貴族であろうと許されない重罪だった。


「どうしてわざわざこんな場所に来てまで魔物を捨てるなんて……」
「世界異変のせいで魔物共が活性化しているからな。そのせいで今まではペットとして飼われていた魔物も活性化の影響で暴走する事もある。そこで魔物共を捨てるにはこの場所がうってつけというわけだ」
「何だって?」
「忘れたのか?ここは四方に見張りが存在する。魔物共が外に出て来られないように対策も施されているんだよ」


迷宮都市と外部に繋がる出入口は現在は王国軍が管理しており、人造ゴーレムが居なくなった事で迷宮都市内にも魔物が住み着くようになった。そのせいで王国軍も見張りを立てなければならず、迷宮都市内の魔物が出てこれないように環境を整える。


「見張りが居る限りはこの迷宮都市内で魔物が出てくる事はあり得ねえ。それで金に汚い連中を利用してこっそりとお偉いさんは扱いに困った魔物をここへ捨ててるんだ。野生に捨てるのならともかく、隔離されているこの地域に魔物を捨てても気づかれる可能性は低いからな」
「そんな馬鹿な……もう既にこの迷宮都市にも生態系が築かれ始めている。そんな中で魔物を捨てたら生態系を乱す事になるんだぞ!?」
「今のは俺のただの予想だ。別に証拠があるわけじゃねえ……だが、どんなに平和な国でもあくどい事を考える連中は湧いて出るんだよ」


ガオウの言葉にフィルは何も言い返せず、確かに最近の王国は表向きは平和だが、その裏で犯罪を犯す人間もいる。王都の闇ギルドは壊滅したが、その残党はまだ残っており、彼等は新しい闇ギルドを作り出そうとしているという噂もあった。

闇ギルドは何度壊滅しようと時間が経過すれば自然と人が集まり、再び組織を立ち上げる。それに闇ギルドが必ずしも国に害をなすというわけではなく、闇ギルドの中には裏社会の情報を提供する存在も少なからずいる。

国の平和を保つには表社会だけではなく、裏社会の情勢を把握しておく必要があった。ガオウが仕入れた情報も彼が裏社会の情報屋から得た知識であり、綺麗ごとだけでは平和は守れない。


「今回の俺達の仕事は裏の仕事だ……こればっかりはリーナには任せられない。あいつにこんな裏の世界の汚い事をやらせたくはないからな」
「リーナさん……」
「お前も失恋して八つ当たりしたい所だっただろ?なら付き合えよ」
「だ、誰が失恋なんて……」


フィルは明らかにリーナに懸想を抱いていたが、彼女がナイと付き合っている事を知ってからは調子が上がらず、依頼に失敗する事もあった。そこで見かねたガオウがフィルを誘い、二人は共に仕事を行う。


「おっと、喧嘩なら後だ。今は仕事に集中しろ……」
「ちっ……」
「ブモォオオオッ!!」


調査の際中、ガオウとフィルはミノタウロスの姿を発見した。どうやら魔物だけではなく、魔人族も迷宮都市内に住み着いていたらしく、彼等は武器を構えて迎え撃つ――
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