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最終章
第1075話 ドゴン復活
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――ドゴォオオオオンッ!!
何処からか奇妙な鳴き声が響き渡り、驚いたのはダイダラボッチだけではなく、他の者たちも咄嗟に上空を見上げる。そして彼等が見たのはまるで隕石の如く加速しながら落下する「ドゴン」の姿だった。
アルトに改造を加えられたドゴンはブラックゴーレムの外殻を利用して作り出された鎧を身に着け、更に背中の部分にはブラックゴーレムのように火属性の魔力を噴射しながら空を飛んでいた。ドゴンの胸元には黒水晶が埋め込まれ、凄まじい速度で加速したドゴンはダイダラボッチの背中に目掛けて突っ込む。
「ドゴォオオオンッ!!」
「ギィアアアアアッ!?」
ドゴンの突進を受けたダイダラボッチは今日一番の衝撃が身体に伝わり、背骨が軋む音が鳴り響く。ドゴンの登場に誰もが驚愕し、呆気に取られたが彼のお陰でダイダラボッチの動きは止めた。
「い、今だ!!攻撃を続けろ!!」
「あと少しだ!!このままぶっ倒すよ!!」
『ふははっ!!面白い登場の仕方だな!!今度、俺も真似してみるか!!』
「言ってる場合か!!止めを刺せ!!」
思いもよらぬ援軍の到着で討伐隊は士気が上がり、全員が弱り切ったダイダラボッチに攻撃を再開した。巨大剣を頼らずとも今のダイダラボッチならば倒せる可能性もある。
背中に落下したドゴンは衝突の際に身に着けていたブラックゴーレムの鎧の一部が剥がれて落ちてしまう。時間がない中での改造だったために無理をしたらしく、彼はブラックゴーレムの鎧を引き剥がして放棄するとダイダラボッチの背中に攻撃を加える。
「ドゴン!!ドゴォンッ!!」
「ギアアッ……!?」
ドゴンに対してダイダラボッチは怒りを露わにして背中に手を伸ばそうとするが、先の攻撃でダイダラボッチは背骨を傷め、しかも背中にドゴンが衝撃を加える事で上手く再生もできない。
「ドゴォンッ!!」
「グギャアッ!?」
「効いてる!!こいつ、もう限界が近いよ!!」
「左足も再生する気配がない……もう再生能力も限界のようですわね!!」
「全員、突っ込め!!」
完全に弱り切ったダイダラボッチに討伐隊は勝利を確信し、恐れを抱かずに全員がかりで攻撃を続ける。ダイダラボッチは討伐隊の猛攻撃に対して反撃する余裕もなく、全身を丸めて防御を行う。
まるで亀の様に縮こまって攻撃を防ぐ姿に討伐隊は気力を取り戻し、自分達の勝利が近い事を確信する。ロランでさえもダイダラボッチを追い込んだと思い込み、最後の止めを繰り出そうとした。
「この一撃で終わらせる……うおおおおっ!!」
「あたしらも行くよ!!」
『おっと、止めは譲らんぞ!!』
ロランの他にもテンとゴウカが後に続き、三人は同時に攻撃してダイダラボッチの首を切り落とそうとした。だが、攻撃を仕掛ける寸前でテンとロランの身に異変が起きる。
「ぐはぁっ!?」
「がはぁっ!?」
『何っ!?どうしたお前達!?』
「ッ…………!?」
攻撃を放とうとした瞬間、ロランとテンは突如吐血して膝をつく。その様子を見てゴウカも攻撃を中断し、二人の様子を伺う。しかし、異変が起きたのは二人だけではなく、周りの人間達も唐突に苦しみ始めた。
「げほっ、げほっ!!」
「ミ、ミイナ!?」
「うええっ……な、何だこれ……気持ち悪い」
「ルナさん!?」
ミイナも唐突に咳き込み始めて倒れ込み、慌ててヒイロが彼女の元に向かう。ルナの方も急に頭を抑えて膝を崩し、その様子を見てドリスが彼女を支える。
唐突に苦しみ始めたのは彼女達だけではなく、他にも大勢の人間が頭を抑えたり、吐血して地面に倒れ込む。体調を崩した者はほぼ全員が聖女騎士団と猛虎騎士団の団員である事が判明し、即座にリンは彼等が倒れた理由に気付く。
「まさか……薬の副作用か!?」
「そ、それってイリアさんがおっしゃっていた新薬の事ですの!?」
体調を崩した者達はイリアの新薬を飲んだ者達ばかりである事が判明し、彼女の薬のお陰で彼等は戦線に復帰したが、その反動が今になって襲い掛かってきた。
イリアの新薬は一時的に「強化術」と「再生術」を同時に発動させるのと同じ効果を誇るが、薬の効果が切れた場合は肉体に大きな負担が襲い掛かる。恐らくは吐血した人間はあまりにも肉体に負荷を与えた事で身体の限界を迎え、その反面に体調を崩しただけの者は魔力切れを引き起こして意識を保つのも限界だった。
ダイダラボッチをあと少しで倒せる状況の中で討伐隊の半分近くの人間が戦闘不能に追い込まれ、この間にダイダラボッチは再生能力で討伐隊から受けた傷を治す。
「ギアアアアッ……!!」
「ち、畜生がっ……」
「あ、あと、少しだったのに……」
「ぬううっ……!?」
背骨を治して切り離された左足を傷口に押し当てて再生を行う。切断された左足は元通りに戻り、傷口も塞がり始める光景を討伐達は黙って見ている事しかできなかった。
――ギアアアアアアッ!!
折れた背骨を修復させ、切り落とした左足の再生を果たしたダイダラボッチは再び万全の状態へ戻る。ここまでの戦闘でダイダラボッチも相当に消耗しているはずだが、それでも弱り切った討伐隊を一掃する力は残っていた。
新薬を飲んでいない者達もここまでの戦闘で体力と魔力の限界を迎え、ロラン達もまともに戦える状態ではない。今度こそダイダラボッチは邪魔されず、巨大剣を手にした。
「ギィイイイイッ!!」
「く、くそがぁっ……」
「もう、終わりなんですか……?」
『諦めるな!!まだ俺は戦えるぞ!!』
巨大剣さえも手にしたダイダラボッチを見て誰もが絶望しかける中、ゴウカだけはドラゴンスレイヤーを片手に戦おうとしていた。彼だけは討伐隊の中で唯一元気が有り余っているが、いくら最強の黄金級冒険者と言っても一人ではダイダラボッチに勝てるはずがない。
「ギアアアッ!!」
「いかん、来るぞ!?」
「ゴウカ!!もういい、逃げろ!!」
『俺は逃げん!!』
ゴウカに視線を向けたダイダラボッチは自分に歯向かうのは彼だけだと判断し、巨大剣を彼に目掛けて振り下ろそうとした。それに対してゴウカはドラゴンスレイヤーを両手で構えて受け止めようとすると、彼の背後から大きな影が出現した。
「ドゴン!!」
『お前は……!?』
ドゴンはゴウカの後ろに回り込むと彼と共に巨大剣を受け止めようと両腕を交差させ、そんなドゴンの姿にゴウカは驚くが、兜の中で笑みを浮かべて共に巨大剣を受け止める。
『ぬぅううううんっ!!』
「ドゴオオオンッ!!」
「ギアアッ……!?」
振り下ろされた巨大剣をゴウカとドゴンは力を合わせて正面から受け止めると、どちらも地面に足元が埋もれる程の衝撃を受けたが、それでも押し潰されずに受け止める事に成功した。
自分達の何十倍もの体躯を誇るダイダラボッチの攻撃をゴウカとドゴンは正面から受け止め、その光景に誰もが驚きを隠せない。如何に二人が強靭な肉体と腕力を誇ると、普通ならばダイダラボッチの攻撃を受け止め切れるはずがない。
(どうなってるんだ……!?)
どうしてドゴンとゴウカがダイダラボッチの攻撃を受け止める事ができたのかガオウには理解できず、彼等が何か特別な事をしたようには見えない。
(いったい何が起きている……!?)
ロランでさえも二人がダイダラボッチの攻撃を受け切った事に動揺し、どうしてダイダラボッチの攻撃を止める事ができたのかを考える。しかし、彼等よりも先に答えに辿り着いたのはテンだった。
(そうか……そういえばアルト王子が言ってたね、あの巨大剣はナイの旋斧と同じだって……)
誰よりも早くダイダラボッチの異変に気付いたテンは、頭の中にナイの旋斧を思い描く。ナイの旋斧は直に触れた人間から聖属性の魔力を吸収し、その魔力を利用して自身の強化を行う。
旋斧は聖属性の魔力を吸い上げる事で成長し、今では大剣のように変化を果たす。そして巨大剣は元々は旋斧と同じ類の魔剣であり、触れただけで聖属性の魔力を吸い上げる効果を持つ。
ダイダラボッチは気付いていないようだが、ここまでの戦闘でダイダラボッチは相当に力を使い果たしていた。数百年以上の時を生きる程のダイダラボッチの生命力は凄まじいが、それでも限界が無いわけではない。
現在のダイダラボッチは討伐隊との戦闘によって疲弊し、しかも肉体を再生するためにかなりの魔力を消費しているはずだった。テンはダイダラボッチの再生能力の正体が自分達の扱う「再生術」と同じ原理だとしたら、現在のダイダラボッチはもう殆ど魔力は残っていないはずだと悟る。
(あんたの弱点は強すぎる事だよ。自分をここまで追い詰める敵とは出会った事はなかったんだろう?だから、自分の限界を把握しきれなかった……それがあんたの唯一の弱点だったわけかい)
ダイダラボッチは生まれた時は弱者だったが、それでも知恵を絞って強敵を打ち倒し、強くなり続けた。しかし、強くなり過ぎたせいでダイダラボッチは自分自身の強さを過信し、自分にも「限界」があるという事をすっかり忘れていた。
ここまでの戦闘でダイダラボッチは力を使い果たし、もう巨大剣を扱いこなす体力さえも残っていなかった。その証拠にダイダラボッチは巨大剣を振り抜く事すらもできず、その場に手放してしまう。
「ギアアッ……!?」
身体に力が入らずにダイダラボッチは巨大剣を手放し、危うく倒れそうになった。しかし、ダイダラボッチは最後の力を振り絞って倒れる事だけは拒む。
自分がここで倒れれば地上の虫けらを活気づかせる事になると考え、意地でもダイダラボッチは倒れようとはしなかった。だが、そんなダイダラボッチに巨大な影が迫っていた。
何処からか奇妙な鳴き声が響き渡り、驚いたのはダイダラボッチだけではなく、他の者たちも咄嗟に上空を見上げる。そして彼等が見たのはまるで隕石の如く加速しながら落下する「ドゴン」の姿だった。
アルトに改造を加えられたドゴンはブラックゴーレムの外殻を利用して作り出された鎧を身に着け、更に背中の部分にはブラックゴーレムのように火属性の魔力を噴射しながら空を飛んでいた。ドゴンの胸元には黒水晶が埋め込まれ、凄まじい速度で加速したドゴンはダイダラボッチの背中に目掛けて突っ込む。
「ドゴォオオオンッ!!」
「ギィアアアアアッ!?」
ドゴンの突進を受けたダイダラボッチは今日一番の衝撃が身体に伝わり、背骨が軋む音が鳴り響く。ドゴンの登場に誰もが驚愕し、呆気に取られたが彼のお陰でダイダラボッチの動きは止めた。
「い、今だ!!攻撃を続けろ!!」
「あと少しだ!!このままぶっ倒すよ!!」
『ふははっ!!面白い登場の仕方だな!!今度、俺も真似してみるか!!』
「言ってる場合か!!止めを刺せ!!」
思いもよらぬ援軍の到着で討伐隊は士気が上がり、全員が弱り切ったダイダラボッチに攻撃を再開した。巨大剣を頼らずとも今のダイダラボッチならば倒せる可能性もある。
背中に落下したドゴンは衝突の際に身に着けていたブラックゴーレムの鎧の一部が剥がれて落ちてしまう。時間がない中での改造だったために無理をしたらしく、彼はブラックゴーレムの鎧を引き剥がして放棄するとダイダラボッチの背中に攻撃を加える。
「ドゴン!!ドゴォンッ!!」
「ギアアッ……!?」
ドゴンに対してダイダラボッチは怒りを露わにして背中に手を伸ばそうとするが、先の攻撃でダイダラボッチは背骨を傷め、しかも背中にドゴンが衝撃を加える事で上手く再生もできない。
「ドゴォンッ!!」
「グギャアッ!?」
「効いてる!!こいつ、もう限界が近いよ!!」
「左足も再生する気配がない……もう再生能力も限界のようですわね!!」
「全員、突っ込め!!」
完全に弱り切ったダイダラボッチに討伐隊は勝利を確信し、恐れを抱かずに全員がかりで攻撃を続ける。ダイダラボッチは討伐隊の猛攻撃に対して反撃する余裕もなく、全身を丸めて防御を行う。
まるで亀の様に縮こまって攻撃を防ぐ姿に討伐隊は気力を取り戻し、自分達の勝利が近い事を確信する。ロランでさえもダイダラボッチを追い込んだと思い込み、最後の止めを繰り出そうとした。
「この一撃で終わらせる……うおおおおっ!!」
「あたしらも行くよ!!」
『おっと、止めは譲らんぞ!!』
ロランの他にもテンとゴウカが後に続き、三人は同時に攻撃してダイダラボッチの首を切り落とそうとした。だが、攻撃を仕掛ける寸前でテンとロランの身に異変が起きる。
「ぐはぁっ!?」
「がはぁっ!?」
『何っ!?どうしたお前達!?』
「ッ…………!?」
攻撃を放とうとした瞬間、ロランとテンは突如吐血して膝をつく。その様子を見てゴウカも攻撃を中断し、二人の様子を伺う。しかし、異変が起きたのは二人だけではなく、周りの人間達も唐突に苦しみ始めた。
「げほっ、げほっ!!」
「ミ、ミイナ!?」
「うええっ……な、何だこれ……気持ち悪い」
「ルナさん!?」
ミイナも唐突に咳き込み始めて倒れ込み、慌ててヒイロが彼女の元に向かう。ルナの方も急に頭を抑えて膝を崩し、その様子を見てドリスが彼女を支える。
唐突に苦しみ始めたのは彼女達だけではなく、他にも大勢の人間が頭を抑えたり、吐血して地面に倒れ込む。体調を崩した者はほぼ全員が聖女騎士団と猛虎騎士団の団員である事が判明し、即座にリンは彼等が倒れた理由に気付く。
「まさか……薬の副作用か!?」
「そ、それってイリアさんがおっしゃっていた新薬の事ですの!?」
体調を崩した者達はイリアの新薬を飲んだ者達ばかりである事が判明し、彼女の薬のお陰で彼等は戦線に復帰したが、その反動が今になって襲い掛かってきた。
イリアの新薬は一時的に「強化術」と「再生術」を同時に発動させるのと同じ効果を誇るが、薬の効果が切れた場合は肉体に大きな負担が襲い掛かる。恐らくは吐血した人間はあまりにも肉体に負荷を与えた事で身体の限界を迎え、その反面に体調を崩しただけの者は魔力切れを引き起こして意識を保つのも限界だった。
ダイダラボッチをあと少しで倒せる状況の中で討伐隊の半分近くの人間が戦闘不能に追い込まれ、この間にダイダラボッチは再生能力で討伐隊から受けた傷を治す。
「ギアアアアッ……!!」
「ち、畜生がっ……」
「あ、あと、少しだったのに……」
「ぬううっ……!?」
背骨を治して切り離された左足を傷口に押し当てて再生を行う。切断された左足は元通りに戻り、傷口も塞がり始める光景を討伐達は黙って見ている事しかできなかった。
――ギアアアアアアッ!!
折れた背骨を修復させ、切り落とした左足の再生を果たしたダイダラボッチは再び万全の状態へ戻る。ここまでの戦闘でダイダラボッチも相当に消耗しているはずだが、それでも弱り切った討伐隊を一掃する力は残っていた。
新薬を飲んでいない者達もここまでの戦闘で体力と魔力の限界を迎え、ロラン達もまともに戦える状態ではない。今度こそダイダラボッチは邪魔されず、巨大剣を手にした。
「ギィイイイイッ!!」
「く、くそがぁっ……」
「もう、終わりなんですか……?」
『諦めるな!!まだ俺は戦えるぞ!!』
巨大剣さえも手にしたダイダラボッチを見て誰もが絶望しかける中、ゴウカだけはドラゴンスレイヤーを片手に戦おうとしていた。彼だけは討伐隊の中で唯一元気が有り余っているが、いくら最強の黄金級冒険者と言っても一人ではダイダラボッチに勝てるはずがない。
「ギアアアッ!!」
「いかん、来るぞ!?」
「ゴウカ!!もういい、逃げろ!!」
『俺は逃げん!!』
ゴウカに視線を向けたダイダラボッチは自分に歯向かうのは彼だけだと判断し、巨大剣を彼に目掛けて振り下ろそうとした。それに対してゴウカはドラゴンスレイヤーを両手で構えて受け止めようとすると、彼の背後から大きな影が出現した。
「ドゴン!!」
『お前は……!?』
ドゴンはゴウカの後ろに回り込むと彼と共に巨大剣を受け止めようと両腕を交差させ、そんなドゴンの姿にゴウカは驚くが、兜の中で笑みを浮かべて共に巨大剣を受け止める。
『ぬぅううううんっ!!』
「ドゴオオオンッ!!」
「ギアアッ……!?」
振り下ろされた巨大剣をゴウカとドゴンは力を合わせて正面から受け止めると、どちらも地面に足元が埋もれる程の衝撃を受けたが、それでも押し潰されずに受け止める事に成功した。
自分達の何十倍もの体躯を誇るダイダラボッチの攻撃をゴウカとドゴンは正面から受け止め、その光景に誰もが驚きを隠せない。如何に二人が強靭な肉体と腕力を誇ると、普通ならばダイダラボッチの攻撃を受け止め切れるはずがない。
(どうなってるんだ……!?)
どうしてドゴンとゴウカがダイダラボッチの攻撃を受け止める事ができたのかガオウには理解できず、彼等が何か特別な事をしたようには見えない。
(いったい何が起きている……!?)
ロランでさえも二人がダイダラボッチの攻撃を受け切った事に動揺し、どうしてダイダラボッチの攻撃を止める事ができたのかを考える。しかし、彼等よりも先に答えに辿り着いたのはテンだった。
(そうか……そういえばアルト王子が言ってたね、あの巨大剣はナイの旋斧と同じだって……)
誰よりも早くダイダラボッチの異変に気付いたテンは、頭の中にナイの旋斧を思い描く。ナイの旋斧は直に触れた人間から聖属性の魔力を吸収し、その魔力を利用して自身の強化を行う。
旋斧は聖属性の魔力を吸い上げる事で成長し、今では大剣のように変化を果たす。そして巨大剣は元々は旋斧と同じ類の魔剣であり、触れただけで聖属性の魔力を吸い上げる効果を持つ。
ダイダラボッチは気付いていないようだが、ここまでの戦闘でダイダラボッチは相当に力を使い果たしていた。数百年以上の時を生きる程のダイダラボッチの生命力は凄まじいが、それでも限界が無いわけではない。
現在のダイダラボッチは討伐隊との戦闘によって疲弊し、しかも肉体を再生するためにかなりの魔力を消費しているはずだった。テンはダイダラボッチの再生能力の正体が自分達の扱う「再生術」と同じ原理だとしたら、現在のダイダラボッチはもう殆ど魔力は残っていないはずだと悟る。
(あんたの弱点は強すぎる事だよ。自分をここまで追い詰める敵とは出会った事はなかったんだろう?だから、自分の限界を把握しきれなかった……それがあんたの唯一の弱点だったわけかい)
ダイダラボッチは生まれた時は弱者だったが、それでも知恵を絞って強敵を打ち倒し、強くなり続けた。しかし、強くなり過ぎたせいでダイダラボッチは自分自身の強さを過信し、自分にも「限界」があるという事をすっかり忘れていた。
ここまでの戦闘でダイダラボッチは力を使い果たし、もう巨大剣を扱いこなす体力さえも残っていなかった。その証拠にダイダラボッチは巨大剣を振り抜く事すらもできず、その場に手放してしまう。
「ギアアッ……!?」
身体に力が入らずにダイダラボッチは巨大剣を手放し、危うく倒れそうになった。しかし、ダイダラボッチは最後の力を振り絞って倒れる事だけは拒む。
自分がここで倒れれば地上の虫けらを活気づかせる事になると考え、意地でもダイダラボッチは倒れようとはしなかった。だが、そんなダイダラボッチに巨大な影が迫っていた。
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