貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1068話 それぞれの覚悟と気持ち

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――同時刻、聖女騎士団の女騎士達はテンに呼び出されて甲板に集まっていた。呼び出された理由は誰も知らず、こんな忙しい時にわざわざ呼び出したのかと不思議に思う。そんな彼女達の前に現れたテンは素朴な疑問を問いかける。


「あんた達に聞きたいことがある……あたしの事をどう思う?」
「「「はあっ?」」」


テンの質問に聖女騎士団の女騎士達は呆気に取られるが、テンもふざけているわけではなく、真面目に悩んだ末に彼女達に問い質す。


「いいから答えな、あたしの事をどう思っているのか正直にいいな。別に怒ったりはしないよ」
「鬼婆だと思ってる!!」
「このくそガキっ!!何てことを言うんだい!!」
「あいたっ!?お、怒らないっていったのに……」
「「「あはははっ!!」」」


ルナの生意気な言葉を聞いてテンは彼女の頭を小突くと、それを見ていた他の者は笑い声をあげた。ルナを皮切りに他の者たちもテンに対してどのような気持ちを抱いていたのかを告げる。


「信頼できる友人、ですかね」
「生涯の友だ」
「憧れの団長っす!!」
「尊敬しています!!」
「素晴らしい筋肉だと思います!!」
「あ、ああ……最後のはよく分からないけど、あんたらがあたしの事をどう思っているのかよく分かったよ」


テンは次々と自分の気持ちを伝えてくる女騎士達に苦笑いを浮かべ、彼女は外の光景を眺める。もう既に時刻は夕方を迎えようとしており、そろそろ出発しなければならない。

今日までテンは聖女騎士団の団長として役目を果たしてきたつもりだが、それでも彼女は心の中で不安を抱いていた。自分は本当に聖女騎士団の団長に相応しいのか、実は他の者たちは自分の事を団長として認めていないのではないか、などと考えてしまう。


(あたしは王妃様じゃない……あの人のように上手くやれる自信もない)


王妃ジャンヌが健在の時は聖女騎士団に所属する女騎士達は彼女のために命を賭け、彼女の事を誰よりも信頼していた。しかし、テンは自分が王妃のように慕われる事など有り得ないと思っていた。


(王妃様、あたしは王妃様のようになれないけどさ……でも、王妃様だってあたしにはなれませんよね)


いくら憧れを抱こうとジャンヌのようになれない事はテンも理解していた。だが、逆に言えばジャンヌだってテンのような人間になる事はできない。彼女はジャンヌとは違うやり方で聖女騎士団を纏め、最後まで戦い抜く覚悟を抱く。


「あんた達、悪いがあたしはあんた達の命を背負う覚悟も自信もない……だからこういい直すよ、あたしと一緒に死んでくれるかい!?」
「嫌だ!!」
「死ぬのはお断りです!!」
「皆で勝って生きて帰る……これが答えだ!!」
「その通りだよ!!やっぱり、あんたらとは気が合うね!!」


最高の答えを返してくれた女騎士達にテンは笑みを浮かべ、彼女は吹っ切れた気がした。もうジャンヌの後を追いかけるような真似は止め、彼女は最後の時までこの最高の女騎士達と共に戦い抜く覚悟を抱く――





――同時刻、他の王国騎士団も似たような問答をしており、金狼騎士団も銀狼騎士団も猛虎騎士団も集まって団長と副団長と最後の話し合いを行う。


「例え、どんなに強大な敵であろうと……最後まで諦めずに戦え!!」
「私達は誇り高き王国騎士、敗北など許されませんわ!!」
「王子が命を賭けて戦うのだ!!ならば配下である我々も命を賭けろ!!」
「「「うおおおおっ!!」」」


王国騎士達が集まって気合の雄叫びを上げる中、冒険者達も集まっていた。彼等は王国騎士と違い、本来であれば命まで賭けて戦う必要はない。しかし、相手は和国を滅ぼした伝説の巨人であり、全員が力を合わせなければ決して勝てない。


「おい、お前等……今更怖気づいているんじゃないだろうな?」
『ふははっ!!面白い冗談だな!!』
『私はわりとびびってる』
「僕もちょっと……でも、頑張るよ!!だって頑張る事しかできないもん!!」
「全力を尽くす……それだけです」


黄金冒険者を筆頭に他の冒険者達も覚悟を決め、最後の戦いのために各自行動を開始する。そして飛行船内でも覚悟を決めた人物が残っていた――





――船内の方ではアルトが操縦席に座り込み、彼の周囲にはハマーンの弟子達が乗り込んでいた。飛行船を動かすためにはアルトだけではなく、彼等の協力も必要不可欠なためにアルトは申し訳なく思う。


「すまないね、君達も巻き込んでしまって……」
「へっ……俺達も一応は親方の弟子だからな」
「兄弟弟子の頼みとあったら断れませんぜ」


この飛行船は最悪の場合、される可能性もある。そうなれば飛行船に残る者達は命を危険に晒されるが、それでも彼等はここを離れるつもりはない。

既に時刻は夕方を迎え、まもなくダイダラボッチが姿を現す。もしも作戦通りにダイダラボッチが巨大剣まで移動した場合、速やかに飛行船を作動させて準備を行わなければならない。


「さあ……最後の決戦だ!!」
『おうっ!!』


アルトの言葉に鍛冶師達は頷き、飛行船を動かす準備を行う――





――各自が準備を進める中、ナイはイリアの元に訪れていた。イリアは魔導大砲を森の中に設置し、発射する準備を行う。彼女の傍にはモモとヒナの姿も有り、ビャクとプルミンも傍に控える。


「二人とも本当にいいの?ここに残ると危険だよ?」
「もう、心配しなくてもいいってば!!私達だってテンさんに小さい頃から鍛えられてるんだよ?」
「そうよ、ナイ君。私達の心配なんて無用よ……それよりもナイ君の方こそ大丈夫なの?」
「うん……まあ、何とかなるよ」
「ウォンッ……」


二人が今回の作戦に参加する事はナイも聞いていたが、やはり不安な気持ちは隠せなかった。モモもヒナも信頼しているが、本来ならば無理に戦う必要はない。

しかし、飛行船が今回の作戦に使用される以上は二人とも地上に降りるしかなく、ダイダラボッチとの戦闘になれば地上の何処に避難したとしても安全な場所など存在しない。ダイダラボッチがどのような行動を取るのか分からない以上、他の人間と行動を共にしていた方がむしろ安全かもしれない。


「御二人の事は私に任せてください。それよりも魔導大砲の設置を急いでくださいよ、一発限りの大勝負ですからね……外す事は許されませんよ」
「ぷるぷるっ(いざという時は僕が砲弾になる)」
「ウォンッ!?(マジで!?)」


プルミンを頭に乗せた状態でイリアは魔導大砲を森の中に設置し、ダイダラボッチに見つからないように偽装を行う。イリアとモモとヒナはこの場に残ってダイダラボッチを待ち構え、ダイダラボッチが所定の場所まで移動した際、魔導大砲で攻撃を仕掛けるのが彼女達の役目だった。


「ビャク、いざという時はお前が皆を連れて逃げるんだぞ」
「ウォンッ!!」
「ナイ君……気を付けてね。もしもナイ君が死んじゃったら……私、未亡人になっちゃう」
「まだ結婚してないでしょうが……」


モモの言葉にヒナは呆れるが、ナイはそんな彼女を見て苦笑いを浮かべながらも抱きしめる。そして皆の前にも関わらずに抱き寄せながら口づけを行う。


「大丈夫だよ、必ず生きて戻ってくるから……んっ」
「んんぅっ……」
「ちょ、ちょっと!?ナイ君!?いえ、ナイさん!?(←思わず敬語)」
「ほほう、大胆ですね……」
「ウォンッ(きゃっ)」
「ぷるぷるっ(初心やな)」


二人の行動にヒナは両手で顔を塞ぎ、イリアは興味深そうに覗き込み、ビャクは恥ずかしそうに顔を反らす。プルミンはそんな皆の様子を見つめて大人の態度を取る。

既に夕方を迎えており、あと少しでダイダラボッチが目覚める時間帯だった。もう既に準備は整っており、ナイは事前に取り決めた作戦通りに飛行船に戻る事にした。


「よし……行ってくるよ」
「うん……気を付けてね」
「ナイ君……アルト王子の事をお願い」
「まあ、死なないようにお互いに頑張りましょう」
「ウォンッ!!」
「ぷるぷるっ」


ビャクが自分の背中に乗るようにナイに促し、時間はまだあるので彼がナイを飛行船に運ぶ余裕はある。ナイはビャクの好意に甘えて彼の背中に乗り込み、3人(+1匹)と別れを告げて駆け出す。


「皆!!必ず生きて会おうね!!」
「ナイ君も気を付けてね~!!」
「ウォオオンッ!!」


ナイを乗せたビャクは飛行船に向けて一直線に駆け出し、その様子を他の者は心配そうに見送る。アルトに聞かされた作戦はナイとアルトの身を危険に晒し、仮に成功したとしても二人とも無事では済まない。


「本当に大丈夫なのかしら……」
「あの二人を信じましょう。大丈夫、ああ見えてもアルト王子もいざという時は役に立つ……と思いたい所です」
「願望!?」
「だ、大丈夫かな~……」
「ぷるぷる(賽は投げられたぜ)」


イリアの言葉にモモ達は不安を煽られるが、もう後戻りはできない。あと1時間もしないうちにダイダラボッチは地上に出現するのは間違いなく、全員が最後の準備に取り掛かっていた――





――ビャクに飛行船まで案内してもらうと、ナイは急いで飛行船の甲板に移動して他の者と合流を行う。飛行船に乗り込むのはナイ、アルト、それとハマーンの弟子の鍛冶師達であり、噴射機の方にも人の姿があった。

王国の飛行船は風属性の魔石で船体を風の力で浮上させ、火竜の経験石を踏査した噴射機で火属性の魔力を放出させて移動を行う。今回の場合はこの噴射機が要となり、飛行船の巨体を生かしてダイダラボッチを倒す算段をアルトは考える。


「よし、後はここで待つだけか……」


ナイは船内に移動せず、船首の近くにて彼は待機する。本来飛行船が動く間は乗員は船内に戻って待機するのが常識だが、ナイの場合は甲板から離れずに船首にて待機する。もう間もなく、ヨウの予知夢が現実に成ろうとしている事を彼は知る由もない――
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