貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1066話 作戦内容

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「私の魔導大砲なら、ダイダラボッチだろうと確実に損傷を与える事ができます。それに都合よく、砲弾の代わりになる物も手に入れましたからね」
「マグマゴーレムの核を使うんだね?」
「その通りです!!但し、この魔導大砲はさっきも言った通りに一発撃てば終わりです。一度使えば壊れてしまいますからね、修理するにしても時間が掛かりますので外せば終わりだと考えてください」
「一発限りか……本当にダイダラボッチに通じるのか?」
「ロラン大将軍、魔導大砲の威力はあたし達もよく知ってるよ。確かにあの魔導大砲ならダイダラボッチにも通じるかもしれないね」


ロラン以外の王国騎士は実際に魔導大砲が使用される場面を見ており、魔導大砲の威力は把握していた。ダイダラボッチが相手でも魔導大砲ならば通じる可能性は高い。

魔導大砲の威力を見た事がないロランは不安を抱かざるを得ないが、他の者たちの言葉を信じて魔導大砲を作戦に加える事を許可する。そして改めてダイダラボッチを倒す手順の確認を行う。


「今夜、ダイダラボッチがの破壊のために現れた場合、我々は封印剣の周囲の森の中に隠れて置く。奴が封印剣の前に移動した時、地中に埋めたマグマゴーレムの核をマリンの砲撃魔法で爆破させる。その時に奴は体勢が崩れた隙を逃さず、魔導大砲で背中を攻撃して奴を封印剣の方に倒れ込ませる」
「封印剣?」
「あの巨大な剣の名前だよ。あった方が分かりやすいだろう」
「……その封印剣とやらに倒させることに成功しても、奴が動きを止めなかった場合はどうするんだい?」
「その時は撤退するしかあるまい……まともに戦って勝てる相手ではない。各自、散らばって飛行船まで帰還するんだ」
「それ以外に方法はありませんわね」


ただの程度の相手ならば王国軍でもなんとかなるが、ダイダラボッチはゴブリンキングの数倍の巨体を誇り、まともに戦って勝てる相手ではない。ナイが一撃で倒されたという話を聞いた時からロランはまともな戦闘を諦めていた。

貧弱の英雄であるナイさえもダイダラボッチの一撃で戦闘不能に陥り、半日以上も意識を失っていた。そんな相手にいくら力を合わせて挑んだとしても勝てる見込みはない。せめてマジクやマホがいれば話は別だが、ないものねだりしても仕方がない。


「イリア魔導士、魔導大砲とやらは本当に信じていいのか?」
「安心して下さい、必ず期待に応えますよ」
「よし……では早速準備しろ!!マグマゴーレムの核を運び出し、地中に埋もれ!!」


ロランの号令の元、王国軍は遂にダイダラボッチを倒すために本格的に準備に取り掛かろうとした。しかし、この時にアルトだけは何事か考え込み、彼は会議室を後にする――





――会議室を抜け出したアルトは飛行船の外に作り出した工房に赴き、ドゴンの様子を伺う。現在のドゴンはハマーンの弟子達によって改造が施されており、もう間もなく改造が終了しようとしていた。


「経過はどうだい?」
「おお、王子様か!!もう少しでこいつの修理は終わるぞ!!」
「いや、まさか俺達の手で人造ゴーレムを改造する日が来るとは……」
「親方もきっと羨ましがりますぜ!!はっはっはっ!!」


ハマーンの弟子達の笑い声をあげ、確かに死んだハマーンがここにいれば人造ゴーレムの改造に喜ぶだろう。アルトは亡きハマーンの事を想い、彼の死を悲しみながらも自分のするべき事を考える。


(ロラン大将軍の立てた作戦以外に方法はない……それは本当か?何か見落としているんじゃないのか?)


アルトはロランの作戦を聞いた時から不安を隠しきれず、本当に上手くいくのかと心配していた。無論、ロランの事は信用しているし、作戦を決行するナイ達の事もアルトは信じている。

だが、ダイダラボッチを見た時からアルトは不安を隠しきれず、作戦通りに上手くいったとしてもダイダラボッチを倒せる保証はない。巨大剣が身体に食い込んだ程度ではダイダラボッチを封じられる確証がない以上、彼はどうしても不安を拭えない。


(ダイダラボッチを確実に倒す方法……本当にないのか?何か僕は見落としているんじゃないのか?)


不意にアルトは飛行船に視線を向け、この飛行船を利用してダイダラボッチを倒す方法はないのかと考えてしまう。しかし、旧式の飛行船は新型と違って移動専用の飛行船であるため、兵器などは殆ど積んでいない。

この飛行船でできる事と言えばダイダラボッチに体当たりを仕掛ける程度だが、そんな事をしてもダイダラボッチを確実に倒せる方法はとは言い切れない。仕方なくアルトはその場を後にしようとした時、良く知った人物が飛行船の船首に立っている事に気付く。


「あれは……ナイ君か?あんなところで何をしてるんだ?」


船首に立っている人物を見てアルトは不思議に思い、すぐに彼は飛行船の甲板に移動してナイの元へ近づく。何故かナイはぼんやりとした表情で飛行船の船首に立ち、そんな彼にアルトは不思議に思いながらも声をかける。


「ナイ君」
「うわぁっ!?」
「わっ!?」


急に声を掛けられたナイは驚いてしまい、危うく船首から転び落ちそうになった。慌ててアルトは手を伸ばすが、ナイは優れたバランス力でどうにか体勢を持ち直す。


「おっとっと……あ、危なかった」
「だ、大丈夫かい?」
「うん、心配かけてごめん……というか、アルトだったんだ」


ナイは声をかけた人物がアルトだと知って苦笑いを浮かべ、船首から甲板の方へ移動した。ナイがこんな場所で仕事をさぼっている事にアルトは珍しく思い、どうして彼がここにいるのかを尋ねる。


「ナイ君、どうしてここにいるんだい?ロラン大将軍から準備は整えるように言われてるんだろう?」
「うん、そうなんだけどね……なんでか知らないけど、急に外の景色が気になってね」
「景色?」


アルトはナイの言葉を聞いて外の景色を眺め、言われてみれば綺麗な眺めだと気付く。これまで色々とあり過ぎてゆっくりと景色を眺める暇もなく、しばらくは二人とも外の景色を眺める。

今だけはダイダラボッチの事を忘れ、湖に浮かぶ飛行船から美しい景色を眺めて心を落ち着かせる。先ほどまでアルトが感じていた不安感も払拭され、ナイも落ち着いた様子で話す。


「何でか知らないけど、あの場所にいると心が落ち着くんだ。あの場所が一番綺麗な景色が見える気がする」
「だから船首の上に移動していたのかい?まあ、ナイ君なら落ちる事はないだろうけど……」
「うん……何でか知らないけど、あそこが一番落ち着く」


ナイは暇さえあれば飛行船の船首から外の景色を眺めてしまい、自分でも不思議だった。アルトはナイの言葉に首を傾げ、飛行船から外の景色を眺めたいのであれば他にもいくらでもいい場所がある気がするのだが、本人が気に入っているのならば敢えて何も言わない。



――もしもイチノに居るヨウがこの場に居た場合、ナイが飛行船の船首に立つ事に落ち着きを感じる理由を彼女は察した可能性が高い。ヨウの予知夢では後にナイは飛行船の船首から強大な存在と対峙する事を彼女は知っており、そしてナイ自身も無意識にヨウの予知夢通りに自分の人生で「最大の敵」と対峙する時が近い事を本能的に察していた。



船首から甲板に移動したナイは背中の旋斧と岩砕剣に触れ、二つの魔剣も何か感じ取っているのかわずかに震えた。時刻は夕方に迫っており、もう間もなく、国を亡ぼす巨人が活動を開始する。

日中の間はダイダラボッチは姿を現す様子はないが、いずれダイダラボッチが太陽の光を克服する時が必ず訪れる。その時が訪れる前にダイダラボッチを始末しなければ王国に――否、に未来はない。


「ナイ君、あの化物に勝てる自信はあるかい?」
「ないよ……でも、戦う」
「……君はよく戦った。ここで逃げても誰も文句は言わないよ」
「それでも戦う。だって、逃げたら僕が僕自身を許さないよ」


アルトの言葉にナイはきっぱりと言い返し、そんな彼の返事を聞いてアルトは苦笑いを浮かべる。ナイがこんな状況で逃げ出す人物ではない事は分かっていたが、それでも彼の覚悟を確かめておきたかった。


「ダイダラボッチを倒すためには僕達も命を賭けて戦わないといけない。ここで負ければこの国は亡ぶ……僕はそう思っているよ」
「……そうかもしれないね」
「ナイ君、僕も覚悟が決まったよ。どんな物もにしてでも奴は倒さなければならない……僕の馬鹿げた考えを聞いてくれるかい?」
「えっ?」


思いがけないアルトの言葉にナイは驚いて振り返ると、そこにはいつものお気楽な彼ではなく、この国の王子として国の未来を守るために決意したの顔を浮かべたアルトが立っていた。





「――この飛行船を犠牲にして奴を倒す」





アルトの言葉にナイは目を見開き、そんな彼にアルトは自分の考えた「最後の作戦」を伝えた――
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