貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1065話 ダイダラボッチの目的

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「ダイダラボッチが復活した原因が牙竜だとしたら、ダイダラボッチは自力で封印を解いたわけじゃない。だから奴は自分を封じ込める可能性がある巨大剣を何としても破壊しようとしたんだ」
「なるほど、あんなに必死こいて壊そうとしてたのはこの馬鹿でかい剣を怖がってたわけかい」
「だが、奴も自力で破壊する事は難しいと考えた。だからこそ他の魔物に剣が奪われないようにこんな風に地面に深く突き刺した。まあ、あれほどの巨大な物体を運び出せる生物がダイダラボッチ以外にいるとは思えないが……」


ダイダラボッチが巨大剣を地面に突き刺したのは他の生物に巨大剣を奪われないためであり、そもそも巨大剣を動かす事ができるのはダイダラボッチ以外にはあり得ない。しかし、巨大剣がダイダラボッチを封印する力がある以上、王国軍も希望が見えた。


「あの巨大剣をもう一度ダイダラボッチに突き刺せば動きを停止させ、その間に封じる事ができるはずだ。いや、それどころか今度こそ止めを刺せるかもしれない」
「止めを刺す!?あんな化物を?」
「化物といってもダイダラボッチだって生物でしょう?なら、寝ている間に頭か心臓を破壊すれば死にますよ。そうだ、私が作った超強力な毒でも作りましょうか?」
「イリアさん……さらりと怖い事を言うね」


イリアの発言にナイ達は冷や汗を流すが、確かに彼女の言う通りにダイダラボッチも生物である事は間違いない。この世界の魔物の生態系の頂点に立つ竜種であろうと、頭か心臓を破壊されれば生きてはいられない。

ダイダラボッチがいくら化物じみた存在だとしても、決して。生物であるのならば必ず弱点は存在し、まずはダイダラボッチを封じるために再び巨大剣を利用する必要があった。


「あの巨大剣をダイダラボッチに突き刺す事ができれば動きは封じられるはずだ。だが、あれほど巨大な物体を動かす方法を考えないと……」
「動かすって……あんな大きな物をどうやって!?」
「私とナイとルナとテンとランファンとゴウカとロラン大将軍が力を合わせても無理」
「あんなもん、巨人族が100人いたって動かせないよ」


王国軍に所属する力自慢の者達が集まっても巨大剣を動かす事は不可能に等しく、巨大剣を自力で動かす事は不可能に思われた。しかし、ナイだけはある事に気付く。


「もしかしたら……その巨大剣、動かせるかもしれない」
「何だって!?」
「それは本当かい!?」


ナイの言葉に全員が驚いた表情を浮かべると、ナイは壁に立てかけていた旋斧に視線を向けて「魔法剣」ならば巨大剣を動かせる可能性がある事を話す。


「旋斧に地属性の魔法剣を発動させる時、旋斧は刃の周りに重力を発生させて押し返す力があるんだ。それを上手く利用すれば巨大剣も重力を利用して動かす事ができるかもしれない」
「な、なるほど……だが、待てよ。その方法だと剣に地属性の魔力を送り込まないといけないんじゃないのか?」
「うん、そうなるね」
「いやいや、そんなの無理に決まってるだろ!?あんな馬鹿でかい剣に地属性の魔力を送り込むなんて魔石の一つや二つでどうにかなる話じゃないだろ!!」


テンの言う通りに巨大剣の大きさから考えても地属性の魔石で魔力を送り込むにしても、相当数の魔石が必要不可欠となる。少なくとも魔石は数十個は必要であり、調達するにも時間が掛かる。


「確かにその方法は現実的じゃないな……仮に重力を利用して巨大剣を浮かばせる事はできてもダイダラボッチに突き刺す事ができるか」
「あの、それなら罠を仕掛けるのはどうでしょうか?ダイダラボッチが巨大剣の破壊に赴いた時、足元を転ばせて巨大剣の方に倒れ込ませるとか……」
「あの巨体だよ?どうやって転ばせるんだい……いや、でもそれ以外に方法なんてないのかもね」


ヒイロの言葉にテンは呆れるが、巨大剣を引き抜く事よりもダイダラボッチを巨大剣の前まで誘導し、そこに罠を仕掛ける方法がまだ現実的だった。


「ヒイロの案も悪くない、転ばせるぐらいなら僕達にも何とかできるかもしれないが……それでも確実に倒せるとは限らない。ダイダラボッチは触れるだけでも動けなくなる可能性は低いだろうしね」
「言われてみればあのデカブツ、普通に剣を投げ飛ばしていたね。やっぱり、身体に突き刺さらないと上手く封印する事はできないのかね……」
「それなら同じ能力を持つナイの旋斧を突き刺して封印する事はできないの?」
「それは無理だと思うよ。あの巨大剣の魔力の吸収量は普通じゃない、地面に突き刺しただけで周囲の植物が枯れ始めていたからね。ナイ君の旋斧にそれほどの効力はないだろう?」
「うん、流石にそこまではできないね」


ナイの旋斧を地面に突き刺しても雑草を枯れさせるぐらいしかできず、巨大剣と旋斧では魔力を吸収する能力は同じだとしても、吸い上げられる魔力量に大きな差があった――





――ダイダラボッチを封印する手段があるとすれば巨大剣以外にはあり得ず、どうにかダイダラボッチを巨大剣の前まで誘導させて罠に嵌めるしかない。問題なのはどのように罠を用意するかであり、その事を話し合うために会議室に人が集められた。

会議では様々な意見が飛び交うが、どれもこれも上手くいく保証はないように思えた。話しあっている間にも時間は経過し、時刻は昼を迎えた。夜までには作戦を立てて罠の準備を仕掛けなければならないのだが、未だに良案は思いつかない。


「ダイダラボッチの足元に攻撃を仕掛け、奴を前のめりに倒れさせて巨大剣に当てる。それ以外に方法はないだろう」
「しかし、そう上手く倒れるでしょうか?」
「攻撃が失敗すればダイダラボッチは我々の存在を認識し、襲い掛かってくるのでは……」
「だが、時間がない。他に方法がなければこれでやるしかあるまい」


話し合いの結果、ダイダラボッチを巨大剣の前に立った時に攻撃を仕掛け、前のめりに倒れさせる事でダイダラボッチに巨大剣の刃を食い込ませる方法が決まりかけていた。

しかし、ダイダラボッチが封じられていた時は巨大剣が身体の内部に深く突き刺さった状態であり、巨大剣が身体に食い込んだ程度で動作を停止するかどうかは確証はない。それでも夜まで時間がないため、この方法に賭けるしかなかった。


「よし、作戦は決まった。奴が再び巨大剣の前に移動した時、我々は足元を左右から攻撃する」
「そういう事ならアンが罠に仕掛けたマグマゴーレムの核を利用しましょうよ」
「マグマゴーレムの核を……?」
「森の中に仕掛けられたマグマゴーレムの核が山ほど余ってますからね、これを地面に埋め込んで、上手い具合に起爆させれば爆発を引き起こします。その爆発でダイダラボッチの体勢を崩すのなんて簡単ですよ」


イリアの発言に他の者たちは戸惑うが、確かにマグマゴーレムの核を爆発させれば威力は申し分ない。しかし、その方法の場合だと爆発させるために誰かが魔法を撃ち込まなければならない。


『そういう事なら私の出番だな』
『おお、マリンか!!確かにお前の魔法ならば爆発させる事は簡単だな!!』


飛行船に乗り合わせた魔術師の中でも火属性の砲撃魔法を扱えるのはマリンだけであり、彼女の魔法の威力ならば地中に埋まったマグマゴーレムの核を爆破させる事は容易かった。しかし、攻撃を仕掛ける場合はマリンは身を隠す必要があり、護衛役も必要だった。


『マリンの護衛役は俺が行うぞ!!長い付き合いだからな!!』
『……私もこいつ以外には背中を預けられない』
「そうですね、それが一番いいでしょうね」


マリンの護衛役は彼女と一番仲が良いゴウカが立候補し、他の者も反対はしない。問題があるとすればマリンがどの時点で攻撃を仕掛けるかであり、ダイダラボッチが巨大剣に近付いた時に爆破させ、体勢を崩させて巨大剣の方に倒れ込ませなければならない。


「地中に埋めたマグマゴーレムの核を爆破させ、ダイダラボッチの体勢を崩して注意を地面に向かせる。その時に後ろから攻撃を加えて前のめりに倒れさせる……という方法はどうだろう?」
「後ろから攻撃を?」
「しかし、攻撃と言ってもどんな攻撃を……」
「そこは僕に考えがある。イリア、あれはできそうかい?」
「ふふふ……もう少しで完成ですよ」


アルトはイリアに声をかけると、彼女は不敵な笑みを浮かべて机の上に羊皮紙を広げる。それを見た者達は訝し気な表情を浮かべ、彼女が広げた羊皮紙は「大砲」のような兵器の絵が記されていた。


「これは……何だ?」
「そういえばロラン大将軍は見た事はありませんでしたかね?これは私が設計した魔導大砲です」
「魔導大砲!?土鯨との戦闘で使ったあの兵器ですか!?」
「そうです。しかも前回の時に使った魔導大砲よりも高性能ですよ~」


魔導大砲の名前を出すと土鯨との戦闘に参加していた者達は驚き、こんな時のためにイリアは魔導大砲の設計図を持ち歩いていた事を明かす。

魔導大砲は名前の通りに大砲型の兵器であり、普通の大砲と違う点は魔導大砲の場合は魔石を砲弾として利用する。しかも砲弾と違う点は魔導大砲は装填した魔石の魔力を放出するため、例えば火属性の魔石の場合は「熱線」を放つ。


「この羊皮紙に記されているのは私が新しく考えたの魔導大砲です。設計上、強度の問題があって一発撃ちこめばぶっ壊れます」
「何?一回使っただけで壊れるのか?」
「その代わりに威力は保証しますよ。元々は竜種対策に開発した最強の兵器ですからね。実は牙山に向かう前から作らっていたんですけど、やっと完成したんです」


イリアは魔導大砲の設計図を完成させたのは王都に居た時であり、今日までの間は彼女は回復薬の製作の合間に魔導大砲を作っていた事を話す。そして遂に彼女は魔導大砲を完成させ、飛行船に載せている事を明かす。
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