貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1063話 巨大剣の秘密

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「これはまた、凄い光景だね……こんな森の中に生き物の姿が全く見えないよ」
「魔物や動物どころか、昆虫さえも見当たりませんわ……」
「森中の生き物が奴を恐れて逃げ出したというわけか……」


調査隊に選抜されたのは聖女騎士団からはテンと数名の騎士が同行し、他にはドリスとリンの姿もあった。案内役としてシノビも同行し、他には数名の冒険者も参加する。

ダイダラボッチが復活した影響でムサシ地方を住処としていた生物は逃げ出してしまったらしく、本来ならば危険地帯であるはずの森も今では安全に進むことができた。


「この様子なら護衛なんて必要なかったかもしれないね……」
「油断は禁物だ。地中に潜む魔物なら残っている可能性もある」
「それってサンドワームとかかい?あいつら、きしょいからあたしは苦手なんだけどね……」
「私もあの巨大ミミズは嫌いっす……」
「こ、怖い事を言うな!!」


サンドワームとは外見は超巨大なミミズの魔物で、女性の間では最も嫌われている魔物として有名だった。一流の武人であるテンもリンもサンドワームは苦手としており、あのルナでさえもサンドワームを見かけたら失神してしまう程である。


「安心しろ、この森にサンドワームは生息していない……それよりも見えてきたぞ、あそこだ」
「あれがそうなのかい?」
「改めてみると途轍もない大きさですわね……ダイダラボッチの背丈ぐらいはありますわ」
「気のせいかな、前に見かけた時よりも大きくなってるような気がするけど……」


巨大剣を視界に捉えた調査隊は改めてその大きさに圧倒され、巨大剣はダイダラボッチの背丈ほどの大きさが存在し、これほど巨大な剣は誰も見た事がない。

ナイの旋斧や岩砕剣の何百倍もの大きさを誇り、最早武器というよりは建造物と表現した方が正しい。実際に地面に突き刺して立っていると巨大な塔にも見えなくはないため、改めて調査隊はその巨大さに唖然とした。


「はあっ……こいつは凄いね、冗談抜きで天まで届きそうなデカさだね」
「い、いったい誰がこんな巨大な剣を作り出したのでしょうか」
「巨人族の鍛冶師が数百人集まってもこんな物は造れないだろう……」
「ふむ……」


巨大剣を前にした調査隊は誰が何の目的でこんな物を作り出したのかと思うが、アルトは巨大剣の前に移動して緊張した様子で掌を伸ばす。


「僕の推測が正しければ……」
「アルト王子!?無暗に触れるのは危険ですわ!!」
「いいから見ていてくれ」


アルトは意を決して巨大剣に掌を触れると、彼は次の瞬間に膝を崩して掌を離してしまう。それを見た他の者たちは慌ててアルトの元に駆けつけ、彼を巨大剣から引き離す。


「アルト王子!?大丈夫なのかい!?」
「うっ……や、やっぱりそういう事だったか」
「ど、どうしたんですの!?」
「僕の想像通りだ……それに触れてみれば分かるよ」


顔色を青くしながらもアルトは笑みを浮かべ、彼は他の者も巨大剣に触れるように促す。アルトの指示に他の者は戸惑うが、テンが代表として巨大剣に近付いて恐る恐る指先を触れると、彼女は痺れた感覚を味わう。


「うっ!?こ、こいつは……」
「どうしました!?」
「何か感じ取ったんですか?」
「……ほんの少し触れただけで力が抜けた」


テンは自分の指先に視線を向け、軽く触っただけで指先の震えが止まらない。ほんの少し触れただけでテンは力が抜けてしまい、先ほどアルトが膝をついたのは彼も力がように消えたのが原因だと悟る。

指先の震えを抑えながらテンは巨大剣を見上げ、彼女は違和感を感じていた。かつて何処かで今のと似たような感覚を味わった事を思い出し、すぐにテンはアルトに振り返って告げる。


「この感覚、前にも覚えがある……そうだ!!ナイの旋斧だ!!初めてあいつの旋斧に触れた時と同じだよ!!」
「ナイさんの……旋斧?」
「そういう事さ……この巨大剣はナイ君の旋斧と同様、触れた人間から魔力を吸い取る機能があるんだ。ほら、この辺りの植物が枯れているだろう?これもこの巨大剣が近くの植物の生気を吸い取ってるんだ」


アルトの言葉に調査隊は周囲の様子を伺うと、確かに言われるまで気づかなかったが巨大剣の周りに生えている樹木は彼欠けていた。特に巨大剣が突き刺さった場所に生えていた雑草は完全に枯れて萎れており、どうやら巨大剣は周囲の植物から生気を吸い続けているらしい。

ナイの旋斧も元々は所有者の魔力を吸い上げる機能が存在し、この機能のお陰で旋斧は刃が欠けても所有者から吸い上げた魔力で刃をしていた。だが、ナイの旋斧と巨大剣が同じ能力を持っている事にテンはどういうことなのかアルトに問い質す。


「アルト王子、いい加減に全部説明しな!!どうしてナイの旋斧とこの馬鹿みたいにでかい剣が同じ能力を持っているんだい!?」
「それは僕にも分からないよ。だけど、ナイ君の旋斧は伝説の鍛冶師フクツが作り出した剣だ。そしてフクツは元々は和国の子孫だと聞いた事がある」
「フクツ!?それはもしや聖剣を修復させる事に成功したあの伝説の鍛冶師ですの!?」
「噂には聞いていたが、やはりのナイの魔剣の制作者はあのフクツだったのか……」


フクツの名前を出すとドリスとリンも反応し、武人の間ではフクツという名前は伝説の鍛冶師として今の時代にも名前が伝わっている。フクツは大昔に存在した鍛冶師だが、アルトが調べたところによると彼の先祖は和国で代々鍛冶師の家系だった。

和国がダイダラボッチに滅ぼされた後、彼の先祖は王国に移り住んだ。子孫は全員鍛冶師であり、フクツも幼少期の時から両親に鍛冶師になるように育てられた。そして彼の元にある剣士が訪れる。

フクツの元に訪れた剣士は自分の力が強すぎるせいでいつも武器を壊してしまう事を相談し、彼に「絶対に壊れない剣」の制作を依頼した。その願い通りにフクツは武器を製作し、彼は「旋斧」と「岩砕剣」を作り出す。


「ナイ君の持っている旋斧は所有者の聖属性の魔力を吸い上げ、刃を修復する機能が搭載されていた。だから刃が欠けても魔力を吸い上げる事で自己修復機能のお陰で刃が壊れる事はなかった」
「普通の剣ならナイの馬鹿力に耐え切れずにすぐに折れるだろうからね……」
「だが、フクツは旋斧を作った事を後に後悔したそうだよ。彼が造り上げたのは所詮は「壊れても再生する剣」でしかないからね。依頼人が求めた「絶対に壊れない剣」とは違うと思ったんだろうね」
「壊れない剣と、壊れても直る剣……確かに似ているようで全然違いますわね」


旋斧を渡してからしばらくした後にフクツは依頼人に旋斧を渡した事を後悔し、反省した彼はその後に非常に頑強な「岩砕剣」を作り出す。この岩砕剣は旋斧よりも遥かに硬度と耐久性に優れており、依頼人の求めた「絶対に壊れない剣」に非常に近い代物だった。

しかし、フクツが旋斧を渡した依頼人は既に死亡している事が判明し、結局は岩砕剣を渡す事はできなかった。フクツは自分の客の要望通りの武器を渡す事ができず、それ以来に彼は魔剣の制作を辞めてしまう。フクツは弟子も子供も作らず、彼の代で一族は終わりを迎えたと語られている。


「僕はこれまでフクツが魔力を吸い上げる魔剣を自分で造り出したと考えていた。しかし、それがもしも誤りだとしたらどうだろう?もしかしたらフクツは先祖代々伝わる技術を利用し、旋斧を作り上げた場合は話が変わるじゃないか?」
「ど、どういう意味だい?」
「つまり……僕が言いたいのはこの巨大剣を作り上げたのはフクツの先祖の誰かじゃないかという事さ。そしてこの剣は元々はこれほど大きくはなく、それこそナイ君の旋斧と同じぐらいの大きさじゃなかったんじゃないのかな」
「何だって!?」


アルトの言葉に誰もが驚愕し、彼は巨大剣を見つめながら自分の仮説を告げる。彼の考えではこの目の前の「巨大剣」とナイの「旋斧」は同じ種類の魔剣だと彼は考えていた。


「和国が滅ぼされた後、ダイダラボッチは姿を消した。実際の所は分からないが、ダイダラボッチを封じたのは当時の和国の人間じゃないかと思っている。そしてダイダラボッチを封じるために利用されたのがこの巨大剣だ」
「先ほどのアルト王子の話によると、この巨大剣はナイさんの持っている魔剣と同じ力を持っているんですの?」
「その通りだ。間違いなく、ナイ君の旋斧と同じようにこの巨大剣は触れるだけ生物の魔力を吸い上げる機能が搭載されている。しかもナイ君の旋斧と同じように膨大な聖属性の魔力を吸い上げると刃が巨大化し、より強靭にする」
「そういえばナイの旋斧も強敵と戦う度にでかくなっていったね……」


アルトの説明を聞いてテンは最初にあった頃のナイが所有していた旋斧を思い出す。この時の旋斧は大剣と呼べるほどの大きさではなく、せいぜい変わった刃の形をした長剣だった。

だが、旋斧が明確に外見が変わり始めたのはグマグ火山に生息していた「火竜」との戦闘直後からだった。火竜との戦闘でナイは旋斧を火竜に叩き付けた際、旋斧は火竜の魔力を吸い上げて大剣へと変化を果たした。その後もナイが強敵を倒す度に旋斧の外見は少しずつ変化してきたように思える。


「恐らく、この巨大剣は元々はナイ君の持っている旋斧と同じように普通の人間が扱える程度の大きさだったはずだ。だが、何百年もダイダラボッチの魔力を吸い続けた事で巨大化し、ここまで大きくなったんだろう」
「それは……」
「有り得ない、とは言い切れないだろう?ここにいる皆もナイ君の旋斧を知っているはずだ」


アルトの言葉に他の者たちは言い返せず、確かに彼の推測が正しければ色々と辻褄は合う。ダイダラボッチがこの剣を武器として使わない理由や破壊できない理由、それはダイダラボッチの魔力を吸い上げる事が原因だった。
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