貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1035話 再戦

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「よくも二人を!!このぉおおおっ!!」
「ルナ!?止めなさいっ!!」


テンとランファンを傷つけたブラックゴーレムに対してルナは怒りを露わにして駆け出すが、それを見たアリシアは慌てて止めようとした。しかし、怒りで我を忘れたルナは武器も無しにブラックゴーレムに向かう。

ブラックゴーレムは自分に向かって駆けつけてくるルナに対し、先ほどのように地面に足を叩き付けて振動を周囲に与える。その結果、ルナは体勢を崩して地面に転んでしまった。


「あうっ!?」
「ウオオッ!!」
「ルナさん、危ないっす!!」


倒れたルナに目掛けてブラックゴーレムは拳を振りかざそうとした時、エリナが咄嗟に近くに落ちていた石を放り投げる。彼女が投げつけた石はブラックゴーレムの顔面に衝突し、一瞬ではあるが気を引く事ができた。その間にルナは身体を転がして攻撃を躱す。


「うひゃあっ!?」
「ゴオオッ!!」


地面に目掛けてブラックゴーレムの拳が叩き付けられ、拳どころか肘の部分まで地面にめり込み、周囲に罅割れが広がる。もしも直撃していたらルナの命はなく、彼女は慌てて距離を取る。

ブラックゴーレムは素手でどうにかできる相手ではなく、武器がなければ話にもならない。しかし、武器を手に入れるには船に戻るしかないのだが、ブラックゴーレムがそれを許すはずがなく、飛行船の前に立ち塞がった。


「ウオオオオオッ!!」
「こ、こいつ……化物か!?」
「くっ……」
「ど、どうすれば……あっ!?」


ここでエリナは何かを思い出したように彼女は自分の懐に手を伸ばし、その行為に他の者は不思議に思うと、彼女が取り出したのは風属性の魔石だった。


「そういえばエルマさんからこれを渡されてました!!」
「それは……魔石ですか?」
「はい!!エルマさんの矢を作る時に風属性の魔石も使っていると聞いたんで……」
「……そ、そいつを寄越しな」
「わっ!?」


目が覚めたのかテンがエリナから魔石を奪い取り、彼女は掌底を撃ち込まれた箇所を手で抑えながらもブラックゴーレムを睨みつける。ブラックゴーレムはテンが魔石を手にしたのを見て警戒するが、彼女は魔石を握りしめてある作戦を思いつく。


「ルナ、一番元気なのはあんただ!!あんたが上に登って皆の武器を持ってきな!!」
「えっ!?でも、こいつは……」
「あたしに任せな!!またをするよ!!」


テンの言葉にルナは驚いたが、彼女から返事を聞く前に既にテンは行動を映していた。エルマから奪い取った風属性の魔石を握りしめ、テンは強化術を発動して力尽くで握り潰す。


「うおおおおっ!!」
「テン!?貴女、何を……」
「全員、伏せな!!」
「うわわっ!?」


力尽くで魔石を破壊しようとするテンにアリシアは驚くが、テンは完全に魔石が砕ける前にブラックゴーレムにではなく、先ほどの戦闘で罅割れた地面に目掛けて投げつける。それを見た者達は衝撃に備えて身体を伏せた。

亀裂が入った魔石が地面に落ちた瞬間、内部から風属性の魔力が暴発して凄まじい風圧が周囲に広がる。その風圧によって地面の土砂が大量に舞い上がり、周囲一帯が土煙に覆われる。


「ウオッ!?」
「今だ!!早く行きなっ!!」
「わ、分かった!!」


土煙に覆われた事でブラックゴーレムの視界が封じられ、テンはルナに指示を与える。土煙のせいでテン達も視界は封じられたが、ルナは事前にテンから「悪戯」と聞いて煙幕を張る事は予想していたために行動に移れた。

心眼を生かしてルナは飛行船の位置を探り、土煙の中を移動して甲板まで飛び越える。ルナの身体能力ならば飛行船に飛び移る事は難しくはなく、彼女は急いで甲板に戻って武器を探す。


(武器、武器、武器……あった、あれだ!!)


武器を必死に探しているとルナはテンの退魔刀が甲板の床板に刺さっている事に気付く。どうやら先ほどブラックゴーレムが飛行船に突っ込んだ際、運良く退魔刀だけは湖に落ちていなかったらしい。

甲板はブラックゴーレムが衝突した時に大きな穴が出来上がっていたが、船が壊れる程の損傷ではなく、ルナは穴を迂回して退魔刀を手にした。本来の持ち主でなければ退魔刀を扱えないため、急いでテンに渡す必要があった。


「テン!!退魔刀を見つけた、そっちに投げるぞ!!」
「ば、馬鹿!?無暗に声を上げたら……」
「ウオオオッ!!」


飛行船の甲板からテンの退魔刀を手にしたルナが地上に声をかけると、声を耳にしたブラックゴーレムに気づいかれ、土煙を振り払いながら甲板に立っているルナの元に向かう。


(まずい!?気付かれた……でも、私の方が早い!!)


ブラックゴーレムに気付かれた事にルナは焦ったが、ブラックゴーレムがいくら普通のゴーレムよりも動きが早いと言えど、甲板に飛び移るまでは時間が掛かる。その間にルナは退魔刀をテンに投げ渡そうとした時、ブラックゴーレムに異変が起きた。


「テン、投げるからな!!」
「待ちな!!投げるんじゃなくてあんたも一緒に下り……!?」


ブラックゴーレムが甲板に移動する前にルナは退魔刀を地上へ投げおろそうとした時、土煙を払いのけながら向かっていたブラックゴーレムが赤色に変色した。

最初に飛行船に突っ込んで来た時のようにブラックゴーレムは肉体を赤く変色させ、全身に火属性の魔力を纏う。そして背中の部分にまるで飛行船に搭載されている「噴射機」のを想像させる窪みが出来上がると、火属性の魔力を噴出して加速する。


「ウオオオオッ!!」
「えっ……うわぁあああっ!?」
「ルナ!?」


背中の噴射口から火属性の魔力を放出させて加速したブラックゴーレムが船体に突っ込み、今度は側壁の部分に穴ができてしまう。この時にルナは甲板の上に倒れ込む。二度目の体当たりを受けた飛行船が激しく揺れる。


「な、何が起きてるんだい!?」
「ルナ、無事ですか!?」
「返事をしてください!!」
「いててっ……し、死ぬかと思った」


土煙が晴れてテン達は飛行船の様子に気付くと、甲板にいるはずのルナに声をかけた。彼女は右手に退魔刀を握りしめ、左手だけで船にしがみついていた。危うく甲板から転げ落ちそうになったが、どうにか堪えていた。

ルナが無事である事にテン達は安堵したが、ブラックゴーレムの方は船内に入り込んだらしく、船は激しく揺れ動く。そのせいでルナが危うく落ちそうになるが、慌ててテンはランファンを起こす。


「ランファン!!起きな、ルナが落ちそうなんだよ!!」
「うっ……こ、ここは?」
「しっかりしな!!ほら、ルナを助けるよ!!」


意識を取り戻したランファンは状況を理解できない様子だったが、テンに急かされて彼女は立ち上がり、ルナが飛行船から落ちる前に彼女を抱き止めるために向かう。


「も、もう無理……落ちる!!」
「よし、そのまま手を離しな!!ランファンが受け止めるからね!!」
「ああ、必ず受け止める」


ランファンが両腕を広げるとルナは船から手を離し、彼女の元に目掛けて落下した。落ちてくるルナをランファンはしっかりと受け止めると、ルナは手に持っていた退魔刀をテンに渡す。


「テン!!これ持って来たぞ!!」
「よくやったね!!後は任せな……うわっ!?」
『ゴオオオオッ!!』


退魔刀をルナから受け取ろうとした瞬間、テンの耳にゴーレムの鳴き声が響き渡る。しかも先ほどのブラックゴーレムだけではなく、別のゴーレムの声が聞こえてきた。

何事かと全員が飛行船に視線を向けると、そこには異様な光景が映し出されていた。船体に出来上がった大穴から二体のゴーレムが組み合った状態のまま姿を現し、地上へと転がり込む。


「ウオオッ!?」
『ドゴンッ!!』
「あ、あれは……」
「アルト王子の護衛の……ゴーレム!?」


船体からブラックゴーレムを叩きだしたのはアルトに従う人造ゴーレムの「ドゴン」であり、ドゴンは力尽くでブラックゴーレムを船から吹き飛ばす。この時に外に出てきたのはゴーレム達だけではなく、埃まみれのアルトとイリアも姿を現す。


「ドゴン!!やってしまえ!!」
「げほっ、げほっ……改造途中ですけど、大丈夫ですかね」
「あ、あんた達……船の中に居たのかい」


アルトは興奮した様子でドゴンの応援を行い、イリアは咳き込みながらも外へ抜け出す。二人が船内に残っていた事をテン達は今の今まで忘れていた。しかも現れたのは二人だけではなく、ヒナとモモも出てきた。


「し、死ぬかと思ったわ……」
「大丈夫?ヒナちゃん」
「ヒナ、モモ!!あんた達も無事だったんだね!!」


イリアの助手として雇われていたヒナとモモも船内に残っていたらしく、二人を見てテンは嬉しそうな声を上げる。彼女達はテンにとっては娘同然の存在であり、二人が無事である事を知って安堵する。

しかし、今は感動の再会を喜んでいる場合ではなく、アルトとイリアから改造を施されたドゴンはブラックゴーレムと向き合う。ブラックゴーレムの方もドゴンを見て過去に戦った相手である事を思い出したのか、警戒心を抱いて向き合う。


「ドゴンッ!!」
「ウオオッ!!」


お互いに最初は頭突きを繰り出し、恐らくは世界の中でも最強のゴーレム2体が再び巡り合い、激戦を繰り広げた。
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