貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
1,015 / 1,110
嵐の前の静けさ

第994話 人造ゴーレムVS新種ゴーレム

しおりを挟む
人の手によって作り出された最強の「人造ゴーレム」隕石の落下によって突然変異によって誕生した「ブラックゴーレム」そんな二匹のゴーレム種が向かい合い、最初は力比べを行うように組み合う。


「ドゴォオオンッ!!」
「ウオオオオッ!!」
「ひいいっ!?」
「ば、化物だぁっ!!」


ドゴンとブラックゴーレムが組み合うと、街道に集まっていた人々は逃げ出す。2体のゴーレムはお互いの力を比べるように組み合い、まるで相撲の「手四つ」の状態へ陥る。

体格はドゴンが二回り程大きいが、腕力はどうやら互角らしく、お互いに一歩も引かずに押し合う。やがて二匹は手を離すとその場で殴り合いを始めた。


「ドゴンッ!!」
「オアッ……ウオオッ!!」
「ドゴォッ!?」


ドゴンが殴りつけるとブラックゴーレムも負けずに殴り返し、激しい攻防を繰り返す。肉体がオリハルコンで構成されているドゴンは硬度も桁違いに高く、普通であればロックゴーレム程度ならば一撃で殴り倒す事もできる。

しかし、ブラックゴーレムも隕石によって偶然にも誕生した鉱石で構成され、その硬度はオリハルコンにも劣らない。お互いが殴り合う度に衝撃が地面に伝わり、罅割れが発生した。


「くっ……皆、大丈夫かい!?」
「へ、平気です……」
「げほっ、げほっ……この煙、硫黄臭いぞ!?これじゃあ、鼻が利かねえ……」
「くそっ……逃がすかっ!!」


この時点で煙が晴れてきて正気を取り戻したアルト達もアンが逃げた事を知り、破壊された窓を見てレイラは飛び出す。アリシアも後を追いかけようとしたが、宿屋の外から聞こえてきた声に驚く。


「ドゴォオオンッ!!」
「ウオオオオッ!!」
「な、何ですかあれは!?」
「く、黒いゴーレム!?どうして街中にあんなのが……」
「まさか……報告に会った新種ゴーレムか!?」
「おい、やばいぞ……こっちに近付いてやがる!!」


ブラックゴーレムはドゴンに組み付くと、宿屋に向かって押し込む。それを見たアルト達は慌てて建物の奥に避難すると、ドゴンは押し切られて宿屋の玄関に倒れ込む。


「ドゴォッ!?」
「オオオオッ!!」


ドゴンを押し倒したブラックゴーレムは幾度も彼を殴りつけ、やがてドゴンの頭部が凹み始めた。オリハルコンで構成されているドゴンが凹む光景を見てアルトは信じられず、このままではドゴンが破壊されてしまう。


「ドゴン!!頑張れ、負けるな!!」
「ドゴォオオンッ!!」
「ウオッ!?」


アルトの声援を受けた瞬間にドゴンは目元を光り輝かせ、主人の前で恥を見せられないとばかりにドゴンはブラックゴーレムの巨体を押し退け、逆に両足を掴んで投げ飛ばす。


「ドゴンッ!!」
「ウオオッ!?」
「あ~!?お向かいさんの建物が大変な事にっ!?」
「べ、弁償するよ……この宿屋と一緒に」


ドゴンが投げ飛ばしたせいで白猫亭の向かい側の建物も被害を受け、幸いにも住民は既に逃げていたのか出てくる様子はない。ドゴンとブラックゴーレムはそのまま白猫亭の向かい側の建物の中で殴り合い、建物の壁を破壊しながら戦闘を続ける。

人造ゴーレムと新種ゴーレムの力は全く互角であり、体格はドゴンが勝るが体重の方はブラックゴーレムが勝る。お互いに相手を破壊させるつもりで殴り合うが、ここでブラックゴーレムに異変が生じる。


「ウオオオオッ……!!」
「ドゴォンッ!?」
「な、何だ……あの赤色の光は!?」
「い、嫌な予感がします……皆さん、伏せて!!」


ドゴンと再び組み合ったブラックゴーレムの肉体に埋め込まれていた「黒水晶」が赤く光り輝き始め、これまではブラックゴーレムの肉体にこびりついていた土砂のせいで分からなかったが、ブラックゴーレムの肉体には赤く光り輝く黒水晶が幾つも埋め込まれていた。


(まさかあれがナイ君の言っていた魔力を蓄積させる水晶か!?)


黒水晶の事はアルトも知っており、ハマーンと共にナイが回収した黒水晶を調べていた。彼等が調べたところだとブラックゴーレムは外部から受けた魔法攻撃を吸収し、その魔力を黒水晶に蓄積させ、自由に引き出す事ができるという。

ブラックゴーレムは体内の黒水晶から魔力を引き出し、全身に炎を纏う。通常のマグマゴーレムよりも熱気を放ち、魔力を口元に集中させて「熱線」を放つ。


「アガァアアアアアッ!!」
「ドゴォオオンッ!?」
「ドゴン!?」


熱線を至近距離から受けたドゴンの肉体が吹き飛び、遥か後方に吹き飛ばされた。その光景を見たアルトは目を見開き、まるで火竜の吐息に匹敵する攻撃を繰り出したブラックゴーレムに全員が驚愕した。


(あのドゴンが吹き飛ばされた……伝説の魔法金属で構成されたあのドゴンが!?)


アルトはドゴンこそがこの世界で最強のゴーレムだと信じていた。しかし、そのドゴンを吹き飛ばしたブラックゴーレムを見て、自分の考えが間違っていたと嫌でも認識させられる。

ブラックゴーレムの戦闘力はこれまでにアルトが遭遇したゴーレムとは比べ物にならず、その戦闘力は最早「ゴーレムキング」にも匹敵するか、下手をしたらそれ以上の力を持つ存在かもしれない。

竜種と同様に災害級として認識されているゴーレムキングだが、それを上回る力を持つかもしれないブラックゴーレムを前にして誰もが愕然とした。これほどの力を持つ相手にレイラもエリナもガロもゴンザレスさえも何も行動できない。


(動け、動くんだ……殺されるぞ!!)


アルトは必死に身体を動かそうとするが、本能がブラックゴーレムに勝てないと告げていた。そのせいで身体がまるで肉食獣を前にした小動物のように怯えて動かず、その間にもブラックゴーレムはアルト達に振り返る。


「ウオオオオッ!!」
「「ひぃっ!?」」
「く、くそがっ……!!」
「ぐうっ……!!」
「王子、下がって下さい!!」


ブラックゴーレムが咆哮を放つとヒナとクロエは悲鳴を上げ、ガロとゴンザレスは負傷した身でありながら無理やり起き上がろうとした。レイラは階段を降りてアルトの元に向かうが、既にブラックゴーレムは次の攻撃準備に入っていた。

白猫亭に向けてブラックゴーレムは口元を開き、先ほどのように熱線を放つつもりなのか口内から赤色の光を放つ。それを見たアルトはもう駄目かと思ったが、この時に彼は自分が普段から身に付けている「護身用」の魔道具を思い出す。


(そうだ……まだ、これがあった!!)


諦めるには早いと思い直したアルトは腰に差している筒状の魔道具を取り出す。この魔道具はアルトが作り出した物であり、筒の蓋を開いた瞬間に闇属性の魔力で構成された黒霧が放たれる。


「喰らえっ!!」
「アガァッ!?」


アルトはブラックゴーレムに向けて黒霧を放ち、本来は煙幕代わりに利用して逃げ出すための魔道具だった。しかし、煙幕を受けた瞬間にブラックゴーレムは何故か苦しみはじめ、必死に煙幕を振り払おうとした。


「ウオオオッ!?」
「な、何だ!?」
「効いてるのか!?」
「嫌がっているように見えますが……」


黒霧を浴びたブラックゴーレムは混乱している様子を見てアルト達は戸惑い、やがて黒霧から逃れるためにブラックゴーレムは地面に向けて拳を振り下ろす。


「ウオオッ!!」
「あっ!?」
「に、逃げるぞ!!」
「いや、いい……行かせるんだ」


地中を掘り進めて逃げようとするブラックゴーレムを見てガロ達は動こうとしたが、それを制したのはアルトだった。仮にここでブラックゴーレムが逃げるのを止めたところでアルト達にはブラックゴーレムを倒す手段がない。

予想外にもアルトの魔道具のお陰でブラックゴーレムは地中に退散し、全員が生き延びる事ができた。皆が安堵する中、アリシアは思い出したようにアンを追ったレイラを追いかける。


「しまった……王子、間もなくここに聖女騎士団が到着するはずです!!それまではここで待機して下さい!!」
「ああ、分かった……」
「エリナ、しっかりと王子と皆さんをお守りするんですよ!!」
「うぃっす!!」


アリシアはエリナにこの場を任せて駆け出し、逃走したアンとそれを追うレイラを探す――





――同時刻、レイラはアンを追いかけて路地裏に辿り着いた。アンは疲れた表情で建物の行き止まりに追い詰められ、双剣を構えたレイラが逃げ道を塞ぐように立っていた。


「もう逃がさない……お前は危険だ、ここで殺す」
「はあっ、はあっ……」
「僕を呼んでも無駄だ。この距離なら私の剣がお前の首を斬る」


路地裏にアンが逃げ込んだ時点でレイラは何かしらの罠を仕掛けていると判断し、彼女がガロとゴンザレスを襲った鼠型の魔獣をけしかけるつもりかと思った。しかし、予想に反して路地裏には何も存在せず、アンが何か仕掛ける様子もない。

目の前のアンを見てレイラは彼女をここで殺すと決め、仮にアルトがここにいれば彼女を捕まえるように告げたかもしれない。しかし、長年の戦士の勘でアンをここで殺さなければ後悔すると告げていた。


(この女は危険過ぎる、生かしておくわけにはいかない)


レイラは双剣を構えるとアンに目掛けて攻撃を仕掛けようとした。しかし、そんな彼女の考えを読み取ったようにアンは笑みを浮かべる。


「残念ね……時間切れよ」
「何を言って……なっ!?」
「さよなら」


アンはレイラの後方に向けて視線を向け、その彼女の態度と言葉に自分の後方に何か居ると知ったレイラは振り帰り、信じられない光景を目の当たりにした――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

処理中です...