貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第978話 英雄VS最強

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「おい、聞いたか!?あの英雄とゴウカが戦うらしいぞ!!」
「知ってるよ……いったいどっちが強いんだ?」
「俺はナイさんに賭けるぜ!!」
「なら俺はゴウカだ!!」
「お前達、やかましいぞ!!」


訓練場に集まった王国騎士達は騒ぎ出し、その様子を見ていたリンは注意を行う。しかし、二人の戦いに興奮しているのは王国騎士達だけでもなく、同行していたテンも気になっていた。


「マホ魔導士、あんたはどっちが勝つと思う?」
「これこれ、今から行うのは旋斧の試し切りじゃぞ。別に組手というわけでもない」
「それでも少しは気になるだろう?正直、あたしはどっちが強いかなんてわからないね」
「……うむ、それは同感じゃ」


ゴウカが最強の黄金級冒険者である事は間違いなく、その一方でナイも数々の修羅場を乗り越えて強くなった。この二人に勝てる人物など王国どころか世界中を探しても何人いるかどうかであり、二人が王国の中でも一、二を争う実力者なのは間違いない。

久々の実戦という事でゴウカは嬉しそうに素振りを行い、その一方でナイは精神を集中させるように旋斧を掴んだ状態で目を閉じる。二人が準備を整えるのを王国騎士達は緊張した様子で見守り、やがて審判役のハマーンが確認を行う。


「二人とも、準備はいいな?」
『うむ、何時でもいいぞ!!』
「はい、大丈夫です」
「よし……では、始め!!」


ただの試し切りだというのに試合を行うかのようにハマーンは合図を出すと、二人は石畳製の闘技台の上で向かい合う。ナイは最初から剛力の技能を発動させ、まずはゴウカに近付いて旋斧を振りかざす。


「やああっ!!」
『ぬうっ!?』
『おおっ!!』


予想外にもナイの方から仕掛けてきた事に観戦者は驚き、ゴウカとナイの大剣が重なった瞬間、激しい金属音が鳴り響く。衝撃が闘技台へ広がり、軽い地震が起きたかと錯覚してしまう。

ゴウカは手元から感じる感触に内心驚き、ここまで速くて重い一撃はリョフとの戦闘以来だった。半年前と比べてもナイの身体能力は上がっており、ただの一太刀でゴウカはナイが自分の想像以上の相手だと見抜く。


『大した力だっ!!』
「ううっ!?」


ナイが振り下ろした旋斧をゴウカは弾き返すと、彼はナイの身体を蹴り飛ばす。常人ならば一撃で骨が砕けて内臓が破裂する程の威力だが、ナイは彼の蹴りを受けても少し顔をしかめる程度で特に大した損傷は受けない。

肉体の方も相当な頑丈と耐久力を誇り、それどころかナイは蹴飛ばされた際に距離を取って魔法剣の準備を行う。まずは最初に魔法腕輪に嵌め込んだ火属性の魔石から魔力を引き出し、旋斧の刃に送り込む。


「魔法剣《エンチャント》!!」
『ほほう!!これは美しいな!!』
『うおおっ……!!』


旋斧に赤色の魔力が宿ると、凄まじい熱気を放つ。それを見たゴウカは感心した声を上げ、実は彼は旋斧が魔法剣を発動する光景は初めて見た。ナイの旋斧は魔力その物を刃に宿すため、外見は赤色の光を放つ「光剣」に見える。


(この状態から黒水晶に魔力を蓄積させる……で、あってるよね)


ナイは旋斧の刃に嵌め込まれた「黒水晶」に視線を向け、刃に宿した火属性の魔力を送り込む。すると黒水晶が赤色に光り輝き、それを見たナイはブラックゴーレムも火属性の魔力を吸収した時に黒水晶を赤く輝かせた光景を思い出す。

初めて黒水晶にナイは魔力を送り込んだが、要領は魔法腕輪の魔石から魔力を引き出して旋斧の刃に送り込む事と大して変わらず、今度は刃の魔力を黒水晶に送り込むだけである。


(この状態で別の属性の魔力を刃に宿して、そして黒水晶に蓄積させた魔力を組み合わせればいいのか……)


上手くできるかは分からないが、ナイは次の魔力を引き出して送り込もうとした時、ゴウカが彼に接近してドラゴンスレイヤーを振り下ろす。


『隙有り!!』
「うわっ!?」


容赦なくゴウカは全力でドラゴンスレイヤーを振り下ろすと、ナイは反射的に身体を反らして避ける。その結果、石畳製の床にドラゴンスレイヤーが振り下ろされ、あまりの威力に闘技台全体に振動が走った。

訓練に利用される闘技台は特別に頑丈に作り上げられているはずだが、ゴウカの一撃によって闘技台は全体に亀裂が広まり、それを見た者達は仮にナイが避けていなければ最悪死んでいたと知って顔色を青ざめる。


『ほう、今のを避けるか!!』
「あ、危なかった……」
「ちょっとあんた!!ナイを殺す気かい!?」
『何を言うか、これぐらいせねば訓練にならんだろう!!それに戦闘中に邪魔をされる事を想定して戦わなければ訓練の意味がない!!』
「まあ、一理あるか……」


テンは抗議したがゴウカの反論にマホも一理あると判断し、戦闘は続行された。ナイはゴウカから距離を取って今度こそ新しい魔法剣を試す。


(い、今のは危なかった……これ以上に時間を掛けるとまずいかもしれない)


ゴウカが訓練である事を忘れて本気になる前にナイは旋斧に新しい魔力を送り込み、今度は火属性とは相性が良い風属性の魔力を送り込む。旋斧の刀身に風属性の魔力の特徴である「緑色」の光が宿る。

風属性の魔法剣は刀身に渦巻のような風圧を放つのが普通だが、ナイの旋斧の場合は刀身に緑色の魔力を宿す。この状態だと刃が触れると衝撃波のような風圧を発生させる事ができるが、事前に黒水晶に宿していた火属性の魔力を組み合わせた。


「はああああっ!!」
『ぬうっ!?』
「な、なんて熱気だい!?」
「これは……!!」


旋斧の刀身に二つの属性の魔力を組み合わせた瞬間、刀身から光が消えた代わりに猛り狂う炎が宿る。従来の魔法剣のように炎を纏った旋斧を見て他の者たちは驚き、魔法剣を発動させたナイ本人も唖然とした。


(なんて火力だ……今までの魔法剣とは全然違う!?)


火竜の吐息並の火炎を纏った旋斧を見てナイは身体が震え、その一方でゴウカの方も先ほどまでの余裕な態度は消えてドラゴンスレイヤーを構える。ナイはそんな彼に視線を向け、遠慮なく新しい魔法剣を試す。


「でやぁあああっ!!」
『ぬうっ!?』
「いかん!!」


ゴウカに向けてナイは旋斧を振り下ろした瞬間、刀身に纏っていた火炎が彼に目掛けて放たれる。まるで魔術師の「砲撃魔法」の如く、旋斧の刀身から炎が射出された。

戦闘を見ていたマホはこのままではゴウカだけではなく、彼の後方で観戦している者達も巻き込まれると判断して彼女は杖を構えた。しかし、ゴウカは迫りくる火炎に対してドラゴンスレイヤーを全力で振り下ろす。


『ふんっ!!』
「うわぁっ!?」


ゴウカが全力でドラゴンスレイヤーを振り下ろした結果、凄まじい剣圧が発生してナイの放った火炎を正面から切り裂く。これによって火炎は散り散りに吹き飛ばされ、どうにか観戦していた者達は被害を免れる。


「……あ、危なかった。今のが当たっていたら流石にやばかったね」
「あれほどの攻撃を剣圧だけで防ぐとは……やはり、奴も規格外か」
「そ、それまで!!これ以上やれば儂等が耐え切れんわい!!」
「…………」
『ふうっ……』


ナイとゴウカはハマーンの言葉を聞いて大剣を背中に戻すと、珍しくゴウカは何も言わずに黙って闘技台を降りる。その一方でナイの方は自分の魔法剣を剣圧で防いだ彼を見て冷や汗が止まらない。


(あの人、強い……俺にはあんな真似はできない)


仮にナイが強化術を発動させた状態でも、先ほどの火竜の吐息並の火炎を剣圧だけで防ぐ事などできない。改めてナイはこのでゴウカとの力の差を思い知る。

その一方で先に闘技台を降りたゴウカは自分の腕に視線を向け、先の攻撃で両腕が痺れている事に気付く。無我夢中にゴウカは攻撃を繰り出し、その反動で彼は腕が痺れてしまった。これが実戦ならば両腕が痺れてまともに戦う手段がなかったゴウカはナイの次の攻撃を防ぐ事はできなかった。


(あの少年……期待以上だ)


実戦ならば自分が敗れていたかもしれないという事実にゴウカは身体を震わせ、これまでに彼がまともに戦って負けた事は一度もない。火竜などの圧倒的な存在はともかく、対人戦で彼は負けた事は成人してから一度もなかった。


(楽しみが増えたな)


ゴウカは腕の感覚が戻ると拳を握りしめて満足そうな表情を浮かべるが、その彼の表情に気付いた人間はいない。何しろ彼はずっと兜を被ったままなのだから――
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