貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第947話 獣人族の女の子

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「ひいっ!?」
「キャインッ!?」
「逃げようとするんじゃない!!さあ、今月の寝床代を払って貰おうかね!!」


足元に突き刺さった短剣を見てネココとワン子は怯えた表情を浮かべ、そんな彼女達に対してスナネコは手招きを行うと、何故か短剣がひとりでに地面から引き抜かれて彼女の手元に戻った。

まるで魔法のように短剣を自分の手元に引き寄せたスナネコを見て、ネココは腰を抜かしてしまう。今のはただの脅しではなく、本気でスナネコはネココが逃げれば殺すつもりだった。彼女は大人しくネココが隠し持っている財布を渡すように促す。


「さあ、今月の寝床代を渡して貰おうか」
「あ、あの……ぜ、全部渡すのだけは」
「私に口答えするつもりかい?」
「ク、クゥ~ンッ……」


スナネコのあまりの迫力にワン子も怯えてしまい、ネココは悔し気に隠していた財布を差し出す。差し出された財布をスナネコは奪い取ると、中身を確認して満足そうな表情を浮かべる。


「こいつは凄いね、どこの貴族から盗んできたんだい?まあ、これだけあれば今月の寝床代は十分だね」
「あ、あの……せめて一枚だけでも返しては……」
「あん?あんた、誰のお陰で生きていられると思うんだい?」
「ひっ!?」
「ウォンッ!!」


ネココの言葉にスナネコは眉をしかめ、彼女は短剣を逆手に構えるとネココは頭を抱えて怯える。そんなネココを見てワン子は彼女を庇う。

飼い犬に庇ってもらうネココを見てスナネコは鼻を鳴らし、彼女はネココから奪った財布を手にして立ち去ろうとした。しかし、路地裏の出入口から少年の声が響く。


「ちょっといいですか?」
「あん?」
「あ、あんたは……!?」
「ウォンッ!?」


の技能でワン子を追いかけてきたナイが遂にネココを発見すると、彼は自分の財布を持っているスナネコと、怯えた様子で座り込むネココを見て状況を把握する。


「その財布、そこにいる子供が僕から盗んだ財布です。返してください」
「何だい、あんたは……死にたいのかい?」
「や、止めろ!!殺されちゃうぞ!?この人はあの砂猫団の……」
「ウォンッ!!」


財布を返して貰おうとナイは路地裏に入り込むと、そんな彼に対してスナネコは面倒そうに短剣に手を伸ばす。慌ててネココが止めようとしたが既に時は遅く、スナネコはナイの顔面に目掛けて短剣を投げ放つ。


「死になっ!!」
「危ないっ!?」


短剣がナイの顔面に向けて迫り、その光景を見たネココは咄嗟に彼を助けようとしたが、当のナイ本人は投げつけられた短剣を何事も無いように掴み取る。


「おっと」
「はっ!?」
「ええっ!?」
「ウォンッ!?」


顔面に目掛けて飛んできた短剣をナイはあっさりと掴み取ると、その光景を見たスナネコとネココは驚愕の表情を浮かべる。

虫でもはらうように短剣を掴み取ったナイは柄の部分を見つめ、何かに気づいたようにスナネコに顔を向ける。初対面でいきなり殺そうとしてきたスナネコを睨みつけた。


「殺そうとしましたよね、今の……」
「くっ!?このっ……」


スナネコは慌てて手元を手繰り寄せる動作を行い、ナイが握りしめている短剣が彼女の元に引き寄せられる。それを見たナイは彼女が手に取りつけている指輪と短剣の柄の部分にが繋がっている事に気付き、糸を手繰り寄せて短剣を回収した事を知る。


(今のはの類かな?シノビやクノも似たようなのを持ってたな)


相手の武器を見てナイはスナネコの正体が暗殺者の類だと判断し、命を狙ってきた以上は容赦はしない。しかし、狭い路地裏では大剣の類は扱いにくく、彼は腰に差している刺剣を引き抜く。

ナイも武器を手にした事にスナネコは警戒心を露にすると、彼女は四つの短剣を同時に引き抜いて片手で二本ずつ短剣を掴むと、ナイに目掛けて放つ。


「死ねっ!!」
「頭を下げて!!」
「うわっ!?」
「キャインッ!?」


同時に四つの短剣を投げてきたスナネコに対してナイはネココとワン子に頭を下げるように指示すると、二人は慌てて頭を抱えて地面に伏せる。狭い路地裏では投げつけられた短剣を躱すのは困難であり、仕方なくナイは背中の反魔の盾を取り出して弾き返す。


「ふんっ!!」
「そんな盾……うぎゃあああっ!?」


反魔の盾で短剣が弾かれた瞬間、衝撃波が発生して短剣はあらぬ方向へ飛び去り、その影響で短剣に糸を繋げていた指輪のせいでスナネコの指があらぬ方向へ曲がってしまう。

路地裏にスナネコの悲鳴が響き渡り、その隙を逃さずにナイはスナネコに近付くと、掌底を腹部に叩き込む。


「はあっ!!」
「ぐへぇっ!?」
「す、すげぇっ!?」
「ウォンッ!?」


武道の達人の如く、ナイの掌底の一撃を受けたスナネコは吹き飛んでしまい、その光景を見たネココとワン子は驚愕の声を上げた――





――スナネコを倒した後、ナイは財布を回収すると気絶したスナネコを連れて兵士の駐屯所に赴く。この時にしっかりとネココとワン子も逃がさずに連れていき、兵士に事情を話すとスナネコは彼等でも手を焼いている悪党だと判明した。


「あのスナネコを捕まえるなんて……本当に助かりました。奴は賞金首なのですが、今まで誰も捕まえる事ができずに困ってたんですよ」
「あいつはここいらに暮らしている浮浪者から金を巻き上げ、特にすばしっこい子供の浮浪者にはスリをさせて観光客から金を盗ませる奴なんですよ」
「という事はあの女の子も……」
「ええ、スナネコにスリをさせられていたんでしょうね」


ナイは女兵士から事情聴取を受けているネココに視線を向け、彼女は説教を受けて涙目になっていた。


「君のような小さい子がこんな事をしたら駄目よ!!死んじゃったお父さんとお母さんが悲しむわよ」
「ううっ……ごめんなさい」
「ウォンッ……」


涙を流すネココを見てワン子は彼女を慰めようと顔を舐めやり、その態度を見て女兵士はもう十分に反省したかと判断する。


「隊長、この子どうしますか?お父さんもお母さんもいないようですが……」
「子供を放っておくわけにはいかん、しばらくの間はうちで保護しよう」
「あの……ちょっとその子と話していいですか?」


ナイは兵士の許可を取ってネココの元へ向かうと、彼女はナイを見て怯えた表情を浮かべるが、ナイはこれ以上にネココに怒るつもりはない。

ネココに財布を盗まれたのは事実だが、彼女も生きるためには仕方なく他の人間から財布を奪ってきた事は知った以上は怒る気にはなれなかった。しかし、ナイが気になったのはネココの態度だった。


「君、嘘泣きしてるでしょ」
「……へへっ、バレてたか」
「ウォンッ!?」


他の兵士に気付かれないようにナイは小声で話しかけると、ネココは可愛らしく舌を出して嘘泣きである事を明かす。その彼女の態度にワン子さえも驚くが、ナイは昔にゴマンが悪戯をした時によく噓泣きをしていたので、彼女の嘘泣きも見抜く事ができた。


「これから君は兵士に保護されるみたいだけど、それでいいの?」
「良くないよ、あたしは自由に生きたいんだ。こんな危険な街なんかおさらばして他の国に暮らしたい」
「どうしてこの街が嫌なの?」
「……さっきの奴だけじゃないんだよ、あたし達から金をせしめるのは」


ネココによるとスナネコ以外にも身寄りのない人間から金を奪う悪党がいるらしく、この街に暮らす限りは彼女は平穏な時を過ごせない。だからこそネココは金を集めて砂船に乗り、他の国へ行きたいと考えていた。


「兵士に保護されてもどうせいつまでも面倒を見てくれないし、また外に放り出されるだけだ。それなら逃げ出した方がまだマシだよ」
「つまり、ここにいても君は逃げるわけね」
「そうだよ、それ以外にあたしが生きる方法なんてないんだからさ……」


不貞腐れるようにネココは椅子の上でふんぞり返ると、そんな彼女を見てナイは自分の財布から金貨を何枚か取り出し、こっそりとネココに手渡す


「これだけあれば十分でしょ?」
「え、な、なんで……」
「そのお金で今度こそ外に出て、真っ当に生きるんだよ」


ナイはお金を渡すとネココは驚いた表情を浮かべ、どうして自分のためにここまでしてくれるのかと思った。確かにナイはネココとは今日出会ったばかりで助ける義理はないのだが、困っている子供を放っておける性格ではない。

別れ際にネココに外に出るために必要なお金を渡すと、ナイはワン子の頭を撫でてしっかりと主人を守るように忠告した。


「ご主人様の事をちゃんと守るんだぞ」
「クゥ~ンッ……」


ワン子はナイの言葉を理解しているのかはっきりと頷き、後の事は兵士達に任せてナイは駐屯所を後にした。


「国を出る、か……なら、こっちも頑張らないとな」


ネココが街の外に出るためには土鯨を何とかしなければならず、現在の街は土鯨が現れたせいで閉鎖中だった。だから彼女が国を出ていくために土鯨を始末して閉鎖を解かなければならず、ナイは戦う理由がまた一つ増えてしまった――
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