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砂漠の脅威
第940話 巨人国の大将軍
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「巨人国の大将軍……どんな人か知っている?」
「巨人族の中でも体格に恵まれ、巨人国では軍神と崇められているそうだ。僕も会った事はないが、噂によるとトロールを一撃で殴り殺せる腕力を誇るらしい」
「あ、あのトロールを!?」
「流石にそれは信じられない……あ、でもナイならできる?」
「いや、無理だよ……多分」
「た、多分ですか……」
アルトが聞いた噂によれば巨人国の大将軍は巨人族の中でも体格と腕力に恵まれた人物らしく、その実力は間違いなく国内最強でトロールを殴り殺したという噂まで王国に届いている。
実際にトロールを殴り殺したのかは不明だが、それがもしも本当の話ならば巨人国の大将軍はナイをも上回る膂力の持ち主という事になる。リンの話によればその巨人国の大将軍が現在は軍隊を率いてアチイ砂漠に滞在し、超大型魔物「土鯨」の調査を行っているという。
「巨人国の大将軍テラン殿は街に軍船を10隻も待機させ、我々が用意した風属性の魔石が届き次第に土鯨の探索を再開するそうです。しかし、土鯨の探索の共同調査に関しては断られました」
「やはり、一筋縄ではいかないか……」
「なんと無礼な……我々が苦労してここまで来たというのに追い返す気か!!巨人国は王国を軽く見ているのか!?」
「止すんだ、彼等からすれば僕達は勝手に自分達の領地に軍勢を率いて訪れた事に等しい。彼等の気持ちも汲んでやるんだ」
テランの返答を聞いた王国騎士の一人が憤慨するが、巨人国側とすれば王国の協力は求めたが、まさか風属性の魔石の提供だけではなく、王国騎士団を連れて自分達の領地に訪れるなど予期せぬ出来事だった。
土鯨の探索のためには砂船を動かすのに必要な風属性の魔石を王国から受け取るしかないが、やはり巨人国側としては事前の連絡も無しに騎士団を率いた飛行船が訪れるなど予想もできない事態だった。それに今回の一件はあくまでも巨人国の領地で起きた問題であるため、他国に介入されると色々と面倒な事になる。
それでも王国としても巨人国とこれまで通りに商業を行うため、ここで黙って引き下がるわけにはいかない。巨人国側が何と言おうとここまで来た以上は退き返すわけには行かず、仕方なくバッシュは自ら出向いて交渉する事にした。
「このままでは埒が明かないな……明朝、俺が出向いてテラン大将軍と交渉しよう」
「王子!?それはいくらなんでも危険過ぎるのでは!?」
「巨人国は王国の同盟国だ。それにあちらとしても王子である俺が出向くのならば無碍な扱いはできまい」
「し、しかし……」
「お前達が何と言おうと俺はテラン大将軍と会うぞ。だが……おい、アルト!!いつまでもはしゃいでいる!?」
「おっと、すいません兄上……それで僕に用ですか?」
「いや、お前に用はない。ただナイを借りるぞ」
「「「えっ?」」」
ナイの名前が出てきた事に全員が驚くが、アルトはバッシュの言葉の意図を察したように頷き、兄に手を貸す様にナイに頼む。
「ナイ君、兄上の護衛を頼むよ」
「え?それは構わないけど……」
「お、王子!!護衛ならば我々が……」
「いや、駄目だ。きっとテラン大将軍との交渉の時、ナイの力が必要になるだろう。それともお前達はナイが護衛になる事に不満があるのか?」
「そ、そういうわけでは……」
バッシュはナイを連れて行く事を決め、側近の騎士達はバッシュの命令に逆らえない。どうして自分を急に護衛として連れて行く事に決めたのかとナイは疑問を抱くが、アルトはナイの肩を掴んで兄の事を頼む。
「ナイ君、兄上の事は頼んだよ。それと君も気を付けてくれ」
「気を付けろって……何を?」
「テラン大将軍は種族に関係なく、自分が認めた強者《つわもの》に対しては礼儀を通す性格だ。だから君を連れて行く事を兄上は決めたんだろう」
「つ、つわもの?」
「分かりやすく言えば君の強さをテラン大将軍に知らしめればいいだけさ。そんなに難しい事じゃないだろう?」
アルトの言葉にナイは混乱するが、ともかく明日の朝を迎えたらナイはバッシュの護衛として彼と共に砂漠の街へ向かう事が決まった――
――アチイ砂漠に存在する街は一つしかなく、その名前は「ネツノ」という名前だった。砂漠の中で唯一に安全に人が暮らせる場所であり、この場所にはオアシスがあるので水不足の心配はない。
出発の際にナイはリザードマンに乗り込むが、彼の他に護衛としてリンも同行する。連れてきたリザードマンの数の問題で三頭しか用意できず、バッシュ、ナイ、リンの三人だけで向かう事になった。
「ううっ……さ、寒い」
「日中と夜では気温に差があるとは聞いていたが……ここまで寒いとはな」
「ですが、今の時間帯ならば魔物に一番見つかりにくいらしいです。今のうちに進みましょう」
砂漠の夜は昼間と比べて一気に気温が下がり、ナイ達は厚着した状態で出発する。
完全に夜が明ける前に出発したのは事前の情報によると夜から朝になる時間帯が一番魔物に襲われにくい時間帯だからであった。
バッシュの護衛はナイとリンが務める事になるが、リンは昨日も砂漠を横断しているとはいえ、まだまだ砂漠の魔物との戦闘には慣れていない。ナイの方も初めて訪れる場所なので緊張感を隠せず、二人とはぐれないようにしっかりと付いて行く。
「くっ……風が強いな、砂嵐が近付いているのかもしれん」
「王子!!砂嵐に巻き込まれれば無事ではいられません!!ここは急ぎましょう!!」
「す、砂嵐?」
飛行船を離れてから一時間ほど経過すると、風が強くなって大量の砂が舞い始める。砂嵐が近付いていると可能性があるため、巻き込まれる前に移動速度を上げようとした。
しかし、移動中にナイは違和感を感じ取り、無意識に気配感知の技能を発動させると、ナイは二人に注意する。
「あのっ!!近くに何か隠れています!!」
「隠れている?」
「何かを感じ取ったのか?何処に隠れている?」
ナイの言葉を聞いてバッシュとリンは警戒態勢に入ると、技能を頼りにナイは隠れている生物の位置を特定する。そして進路方向に存在する砂丘に向けて指差す。
「あの砂丘の向かい側……いや、砂丘の中から気配を感じます!!」
「砂丘の中、だと?」
「あの中に隠れているのか……王子、どうしますか?」
砂丘の反対側ではなく、砂丘の内部に生物の気配を感知したナイは二人に警告すると、バッシュは考えた末にリンに命令を下す。
「あの砂丘に攻撃しろ、但し魔力は抑えろ」
「分かりました。では……はあっ!!」
リンは鞘から剣を引き抜くと、風の斬撃を生み出して砂丘に向けて放つ。その結果、砂丘に三日月状の風邪の斬撃が衝突して砂丘は崩れ去る。
砂丘が風の斬撃によって崩れた瞬間、内部に隠れていた生物が姿を現す。その生物は外見は「鮫」と酷似しており、この砂漠で最も有名な「砂鮫」と呼ばれる魔物だと判明した。
「シャオオッ!!」
「うわっ!?な、何だ!?」
「砂鮫か!!」
「ちぃっ!!」
砂丘から姿を現した砂鮫はナイ達の元へ向けて突っ込み、砂中をまるで海中のように泳ぎながら接近する。それを見たリンは砂鮫に目掛けて再び風の斬撃を放つ。
「せいっ!!」
「シャオッ!!」
「何!?」
リンが放った風の斬撃に対して砂鮫は砂中から飛び出すと、空中で攻撃を回避して再び地面の中に潜り込む。砂中を移動しながら砂鮫はバッシュの元へ接近し、この時に彼が乗っていたリザードマンが怯えた様に暴れ出す。
「シャアアッ!?」
「なっ!?落ち着け、取り乱すな!!」
「シャオオオッ!!」
乗り慣れていないリザードマンが暴れ出した事でバッシュは慌てて落ち着かせようとするが、その間にも砂鮫は彼の元へ迫る。リザードマンの背中の上ではバッシュの防魔の盾も上手く扱えず、このままではリザードマンごと食われてしまう。
バッシュの危険を悟ったナイは即座に自分のリザードマンから降りると、彼の元に目掛けて駆け出す。ナイは砂鮫に目掛けて岩砕剣を引き抜き、砂鮫がバッシュに向けて飛び出した瞬間に岩砕剣を振り下ろす。
「シャオオオオッ!!」
「だあああっ!!」
「うおっ!?」
砂中から砂鮫が飛び出した瞬間、ナイは岩砕剣を砂鮫の土手っ腹に叩き込む。獲物に噛みつこうとした途端に予想外に衝撃を受けた砂鮫は派手に吹き飛び、近くの砂丘に突っ込んでしまう。
「ガハァッ!?」
「うわっとと……」
ナイは地面が柔らかい砂だったせいで上手く踏ん張る事ができず、本来ならば砂鮫を切り裂く勢いで叩き付けたにも関わらず、砂鮫はナイの攻撃を受けても絶命は免れた。しかし、彼に恐れを為したのかそのまま砂中に潜り込んで逃げてしまう。
「シャオオッ……!!」
「あ、逃げちゃった……大丈夫ですか、バッシュ王子?」
「あ、ああ……助かったぞ」
「すまない、私が油断したせいだ……まさか、砂漠の魔物があそこまで素早いとは」
バッシュはナイに礼を告げ、リンは自分の不甲斐なさに悔しそうな表情を浮かべる。その一方でナイは自分の足元と岩砕剣を見つめ、砂漠での戦闘が思っていた以上にやりにくい事を思い知らされる。
(危なかったな……ちゃんと踏ん張っていないとまともに剣も振れないや)
砂漠での戦闘はナイにとっても初めてであり、足元に注意して戦わないと上手く大剣も振り切る事ができない。砂の地面では彼の力も半減してしまう。
ここから先は砂鮫のような魔物に襲われる事を警戒して進まなければならず、それに砂嵐も近付いているために一刻も早く目的地に向かう必要があった。ナイはリザードマンに再び乗り込むと、リンに目的地までの距離を尋ねる。
「後はどれくらいで辿り着けますか?」
「…………」
「リン、どうした?」
ナイの質問に対してリンは答えず、そんな彼女の反応にバッシュは疑問を抱くと、彼女は言いにくそうな表情を浮かべて二人に振り返る。
「も、申し訳ございません……今の戦闘で方位磁石が壊れた様です。これでは方角が分かりません」
「なんだと!?」
「ええっ!?」
リンが所持していた方位磁石が壊れてしまい、方角が分からなければ地図があっても延々と同じような風景が続く砂漠を進む事ができない。今までは方位磁石を頼りにどうにか進んでいたが、このままでは三人とも砂嵐に巻き込まれて生き埋めになってしまう。
「巨人族の中でも体格に恵まれ、巨人国では軍神と崇められているそうだ。僕も会った事はないが、噂によるとトロールを一撃で殴り殺せる腕力を誇るらしい」
「あ、あのトロールを!?」
「流石にそれは信じられない……あ、でもナイならできる?」
「いや、無理だよ……多分」
「た、多分ですか……」
アルトが聞いた噂によれば巨人国の大将軍は巨人族の中でも体格と腕力に恵まれた人物らしく、その実力は間違いなく国内最強でトロールを殴り殺したという噂まで王国に届いている。
実際にトロールを殴り殺したのかは不明だが、それがもしも本当の話ならば巨人国の大将軍はナイをも上回る膂力の持ち主という事になる。リンの話によればその巨人国の大将軍が現在は軍隊を率いてアチイ砂漠に滞在し、超大型魔物「土鯨」の調査を行っているという。
「巨人国の大将軍テラン殿は街に軍船を10隻も待機させ、我々が用意した風属性の魔石が届き次第に土鯨の探索を再開するそうです。しかし、土鯨の探索の共同調査に関しては断られました」
「やはり、一筋縄ではいかないか……」
「なんと無礼な……我々が苦労してここまで来たというのに追い返す気か!!巨人国は王国を軽く見ているのか!?」
「止すんだ、彼等からすれば僕達は勝手に自分達の領地に軍勢を率いて訪れた事に等しい。彼等の気持ちも汲んでやるんだ」
テランの返答を聞いた王国騎士の一人が憤慨するが、巨人国側とすれば王国の協力は求めたが、まさか風属性の魔石の提供だけではなく、王国騎士団を連れて自分達の領地に訪れるなど予期せぬ出来事だった。
土鯨の探索のためには砂船を動かすのに必要な風属性の魔石を王国から受け取るしかないが、やはり巨人国側としては事前の連絡も無しに騎士団を率いた飛行船が訪れるなど予想もできない事態だった。それに今回の一件はあくまでも巨人国の領地で起きた問題であるため、他国に介入されると色々と面倒な事になる。
それでも王国としても巨人国とこれまで通りに商業を行うため、ここで黙って引き下がるわけにはいかない。巨人国側が何と言おうとここまで来た以上は退き返すわけには行かず、仕方なくバッシュは自ら出向いて交渉する事にした。
「このままでは埒が明かないな……明朝、俺が出向いてテラン大将軍と交渉しよう」
「王子!?それはいくらなんでも危険過ぎるのでは!?」
「巨人国は王国の同盟国だ。それにあちらとしても王子である俺が出向くのならば無碍な扱いはできまい」
「し、しかし……」
「お前達が何と言おうと俺はテラン大将軍と会うぞ。だが……おい、アルト!!いつまでもはしゃいでいる!?」
「おっと、すいません兄上……それで僕に用ですか?」
「いや、お前に用はない。ただナイを借りるぞ」
「「「えっ?」」」
ナイの名前が出てきた事に全員が驚くが、アルトはバッシュの言葉の意図を察したように頷き、兄に手を貸す様にナイに頼む。
「ナイ君、兄上の護衛を頼むよ」
「え?それは構わないけど……」
「お、王子!!護衛ならば我々が……」
「いや、駄目だ。きっとテラン大将軍との交渉の時、ナイの力が必要になるだろう。それともお前達はナイが護衛になる事に不満があるのか?」
「そ、そういうわけでは……」
バッシュはナイを連れて行く事を決め、側近の騎士達はバッシュの命令に逆らえない。どうして自分を急に護衛として連れて行く事に決めたのかとナイは疑問を抱くが、アルトはナイの肩を掴んで兄の事を頼む。
「ナイ君、兄上の事は頼んだよ。それと君も気を付けてくれ」
「気を付けろって……何を?」
「テラン大将軍は種族に関係なく、自分が認めた強者《つわもの》に対しては礼儀を通す性格だ。だから君を連れて行く事を兄上は決めたんだろう」
「つ、つわもの?」
「分かりやすく言えば君の強さをテラン大将軍に知らしめればいいだけさ。そんなに難しい事じゃないだろう?」
アルトの言葉にナイは混乱するが、ともかく明日の朝を迎えたらナイはバッシュの護衛として彼と共に砂漠の街へ向かう事が決まった――
――アチイ砂漠に存在する街は一つしかなく、その名前は「ネツノ」という名前だった。砂漠の中で唯一に安全に人が暮らせる場所であり、この場所にはオアシスがあるので水不足の心配はない。
出発の際にナイはリザードマンに乗り込むが、彼の他に護衛としてリンも同行する。連れてきたリザードマンの数の問題で三頭しか用意できず、バッシュ、ナイ、リンの三人だけで向かう事になった。
「ううっ……さ、寒い」
「日中と夜では気温に差があるとは聞いていたが……ここまで寒いとはな」
「ですが、今の時間帯ならば魔物に一番見つかりにくいらしいです。今のうちに進みましょう」
砂漠の夜は昼間と比べて一気に気温が下がり、ナイ達は厚着した状態で出発する。
完全に夜が明ける前に出発したのは事前の情報によると夜から朝になる時間帯が一番魔物に襲われにくい時間帯だからであった。
バッシュの護衛はナイとリンが務める事になるが、リンは昨日も砂漠を横断しているとはいえ、まだまだ砂漠の魔物との戦闘には慣れていない。ナイの方も初めて訪れる場所なので緊張感を隠せず、二人とはぐれないようにしっかりと付いて行く。
「くっ……風が強いな、砂嵐が近付いているのかもしれん」
「王子!!砂嵐に巻き込まれれば無事ではいられません!!ここは急ぎましょう!!」
「す、砂嵐?」
飛行船を離れてから一時間ほど経過すると、風が強くなって大量の砂が舞い始める。砂嵐が近付いていると可能性があるため、巻き込まれる前に移動速度を上げようとした。
しかし、移動中にナイは違和感を感じ取り、無意識に気配感知の技能を発動させると、ナイは二人に注意する。
「あのっ!!近くに何か隠れています!!」
「隠れている?」
「何かを感じ取ったのか?何処に隠れている?」
ナイの言葉を聞いてバッシュとリンは警戒態勢に入ると、技能を頼りにナイは隠れている生物の位置を特定する。そして進路方向に存在する砂丘に向けて指差す。
「あの砂丘の向かい側……いや、砂丘の中から気配を感じます!!」
「砂丘の中、だと?」
「あの中に隠れているのか……王子、どうしますか?」
砂丘の反対側ではなく、砂丘の内部に生物の気配を感知したナイは二人に警告すると、バッシュは考えた末にリンに命令を下す。
「あの砂丘に攻撃しろ、但し魔力は抑えろ」
「分かりました。では……はあっ!!」
リンは鞘から剣を引き抜くと、風の斬撃を生み出して砂丘に向けて放つ。その結果、砂丘に三日月状の風邪の斬撃が衝突して砂丘は崩れ去る。
砂丘が風の斬撃によって崩れた瞬間、内部に隠れていた生物が姿を現す。その生物は外見は「鮫」と酷似しており、この砂漠で最も有名な「砂鮫」と呼ばれる魔物だと判明した。
「シャオオッ!!」
「うわっ!?な、何だ!?」
「砂鮫か!!」
「ちぃっ!!」
砂丘から姿を現した砂鮫はナイ達の元へ向けて突っ込み、砂中をまるで海中のように泳ぎながら接近する。それを見たリンは砂鮫に目掛けて再び風の斬撃を放つ。
「せいっ!!」
「シャオッ!!」
「何!?」
リンが放った風の斬撃に対して砂鮫は砂中から飛び出すと、空中で攻撃を回避して再び地面の中に潜り込む。砂中を移動しながら砂鮫はバッシュの元へ接近し、この時に彼が乗っていたリザードマンが怯えた様に暴れ出す。
「シャアアッ!?」
「なっ!?落ち着け、取り乱すな!!」
「シャオオオッ!!」
乗り慣れていないリザードマンが暴れ出した事でバッシュは慌てて落ち着かせようとするが、その間にも砂鮫は彼の元へ迫る。リザードマンの背中の上ではバッシュの防魔の盾も上手く扱えず、このままではリザードマンごと食われてしまう。
バッシュの危険を悟ったナイは即座に自分のリザードマンから降りると、彼の元に目掛けて駆け出す。ナイは砂鮫に目掛けて岩砕剣を引き抜き、砂鮫がバッシュに向けて飛び出した瞬間に岩砕剣を振り下ろす。
「シャオオオオッ!!」
「だあああっ!!」
「うおっ!?」
砂中から砂鮫が飛び出した瞬間、ナイは岩砕剣を砂鮫の土手っ腹に叩き込む。獲物に噛みつこうとした途端に予想外に衝撃を受けた砂鮫は派手に吹き飛び、近くの砂丘に突っ込んでしまう。
「ガハァッ!?」
「うわっとと……」
ナイは地面が柔らかい砂だったせいで上手く踏ん張る事ができず、本来ならば砂鮫を切り裂く勢いで叩き付けたにも関わらず、砂鮫はナイの攻撃を受けても絶命は免れた。しかし、彼に恐れを為したのかそのまま砂中に潜り込んで逃げてしまう。
「シャオオッ……!!」
「あ、逃げちゃった……大丈夫ですか、バッシュ王子?」
「あ、ああ……助かったぞ」
「すまない、私が油断したせいだ……まさか、砂漠の魔物があそこまで素早いとは」
バッシュはナイに礼を告げ、リンは自分の不甲斐なさに悔しそうな表情を浮かべる。その一方でナイは自分の足元と岩砕剣を見つめ、砂漠での戦闘が思っていた以上にやりにくい事を思い知らされる。
(危なかったな……ちゃんと踏ん張っていないとまともに剣も振れないや)
砂漠での戦闘はナイにとっても初めてであり、足元に注意して戦わないと上手く大剣も振り切る事ができない。砂の地面では彼の力も半減してしまう。
ここから先は砂鮫のような魔物に襲われる事を警戒して進まなければならず、それに砂嵐も近付いているために一刻も早く目的地に向かう必要があった。ナイはリザードマンに再び乗り込むと、リンに目的地までの距離を尋ねる。
「後はどれくらいで辿り着けますか?」
「…………」
「リン、どうした?」
ナイの質問に対してリンは答えず、そんな彼女の反応にバッシュは疑問を抱くと、彼女は言いにくそうな表情を浮かべて二人に振り返る。
「も、申し訳ございません……今の戦闘で方位磁石が壊れた様です。これでは方角が分かりません」
「なんだと!?」
「ええっ!?」
リンが所持していた方位磁石が壊れてしまい、方角が分からなければ地図があっても延々と同じような風景が続く砂漠を進む事ができない。今までは方位磁石を頼りにどうにか進んでいたが、このままでは三人とも砂嵐に巻き込まれて生き埋めになってしまう。
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