貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第914話 新種ゴーレム

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「ゴハァッ……!?」
「ふうっ……大丈夫、ナイ君!?」
「あ、うん。平気だよ」
「た、倒したのかい?」


リーナの渾身の一撃を受けたゴーレムは地面に倒れ込んで動かなくなると、彼女は心配した風にナイの元に駆けつける。一方でアルトと他の者はゴーレムの様子を確認する。

ゴーレム種の弱点は体内の核を破壊されると活動を停止する事であり、先ほどリーナが破壊したゴーレムの胸元の魔石が「核」だとしたら、ゴーレムが起き上がる事は有り得ない。用心しながらミイナはゴーレムに如意斧を構えると、慎重に柄でつつく。


「……反応がない、多分だけど死んでると思う」
「そ、そうですね……どうしますか?」
「ふむ、とりあえずはこいつがゴーレムなのかを確かめよう」


アルトは収納鞄から自分の水筒を取り出すと、勢いよくゴーレムに目掛けて中身の水を放つ。仮にゴーレム種ならば水の類を与えれば身体が溶けるはずだった。

水筒の水をゴーレムの頭部に振りかけた瞬間、水が当たった箇所がまるで泥のように変化して地面に染み込んでいく。それを確認したアルトは間違いなくゴーレム種だと確信するが、全身が黒色のゴーレムなど見た事も聞いた事もない。


「このゴーレム……普通のゴーレムじゃなさそうだ。もしかしたら亜種かもしれない」
「ゴーレムの亜種という事は……マグマゴーレムみたいな存在でしょうか?」
「ああ、その通りだ。さっきのゴーレムの動きを見ただろう?基本的にはゴーレムは身体が大きくて鈍重だが、このゴーレムの場合は体型は小さいし、動きも素早かった」
「た、確かに……」


他のゴーレム種と比べるとリーナが倒したゴーレムは細身で身長も2メートルにも満たない。しかし、小さい分だけ動作も素早く、さらに言えばミノタウロス級の怪力を誇る。

リーナが一撃で倒したので他にどんな能力を隠し持っていたのかは不明だが、普通のゴーレムと違う点は弱点である核が胸元の部分に露出している事だった。そう考えると他のゴーレムと比べても倒しやすい敵かもしれないが、咄嗟に岩の破片を利用して周りの敵を攻撃するだけの高い知能も持ち合わせていた。


「まさか、これが火山に現れた新型の魔物の正体でしょうか?」
「その可能性は高いだろう。恐らく、火竜が居なくなった事で火山の環境が変化した事で誕生した新種のゴーレムかもしれない」
「火竜がいなくなったせいで……」


火竜は死しても様々な影響を残し、この新種のゴーレムは火竜という存在が居なくなった事で火山の環境が変化し、新たに誕生した未知の魔物だとアルトは推測する。その話を聞いたナイは周囲を見渡して他にもゴーレムが隠れているのかと不安を抱く。


「これは参ったね、こんな魔物がいるようなら普通の兵士だと太刀打ちできない。今回は何とかなったけど、ここは立ち入りを禁止した方がいいかもしれない」
「うん……普通のゴーレムよりも手応えがあったと思う。僕の螺旋槍でも貫けない敵なんて久しぶりだよ」
「つ、貫こうとしてたんですか?」
「黄金級冒険者のリーナにそこまで言わせるという事は……危険度も相当高いのかもしれない」


リーナの攻撃はゴーレムの核を破壊するだけに留まり、彼女からすればゴーレムの肉体を貫く勢いで突き出した。しかし、リーナの実力を以てしてもゴーレムを貫通させるほどの威力の攻撃は繰り出せなかった。

黄金級冒険者のリーナが手こずるようでは王都の兵士では相手にはならず、冒険者の中でも階級が低い人間は太刀打ちできないだろう。少なくとも王国騎士級の実力を誇る人間でなければゴーレムを倒す事は難しいと考えるべきかもしれないとアルトは思う。


「……これ以上の長居は危険だ。一旦、麓に戻って合流しよう。ビャク君達も心配だからね」
「ドゴンがいれば大丈夫だと思うけど」
「確かにそうかもしれないが、他にゴーレムが隠れているかもしれない。今日の所は採掘は止めておこう。火口付近の方が良質な火属性の魔石が採れるとしても、また襲われたら困るからね。今度からはもっと麓の近くで採掘をしよう」
「仕方ありませんね……」


火山の火口以外でも魔石の採掘はできるため、アルトは今度から火口以外の場所で採掘を行う事を提案する。火口の近くの方が良質な火属性の魔石が採掘しやすいが、ゴーレムにまた襲われたら戦闘能力を持たないアルトの身が危ない。

アルトが安全な場所に残ってナイ達が火口に戻って採掘を続けるという手もあるが、次に出現するゴーレムが単体とは限らず、群れで出現して襲い掛かられたらいくらナイ達でも無事に逃げ切れる保証はない。アルトは安全性を重視して今後は火山の火口から離れた場所で採掘を行う事を決めた――





――麓に戻った後、ナイ達はビャク達と合流すると火山から離れた場所で夜営の準備を行う。火山の近くは熱気が酷くて碌に休む事もできないため、落ち着いて休むには火山から離れるしかなかった。

火山付近には野生の魔物の姿は殆ど見当たらず、恐らくは火山に出現した新種のゴーレムを警戒して火山付近の魔物は逃げ出した可能性もある。そのお陰でナイ達は魔物に襲われる事を警戒せずに身体を休める事ができた。


「例の新種のゴーレムについてだが……とりあえずは名前はダークゴーレムと名付けよう」
「ダーク……ですか?」
「ブラックじゃないの?」
「まあ、呼びやすい方がいいじゃないか。今後はあの個体の事をダークゴーレム、あるいはダークと呼ぶ事にしよう」
「ダーク、か。まあ、呼びやすい方がいいかもね」


新種のゴーレム改め、今後は火山に出現するゴーレムの事は「ダークゴーレム」という名前に統一する事が決まり、これからの事をアルトは話し合う。

ナイ達が火山に訪れた目的はハマーンに依頼されて火山で大量発生した火属性の魔石の回収のためであり、飛行船を動かすのに必要な分の魔石を採取しなければならない。


「これから採掘の時は黒色の岩壁や岩は、ダークゴーレムが擬態している可能性があるから気を付けないといけない」
「でも、見分けられるかな?」
「う~ん……仮面越しだと良く見えないし、僕の気配感知でもダークゴーレムが擬態してたのも見抜けなかったしね」


ダークゴーレムの擬態を見抜くのは難しく、ナイとリーナの「気配感知」の技能も当てにできない。ダークゴーレムはリーナが攻撃を仕掛けるまでは完璧に気配を殺して岩壁に擬態し、ナイの魔力感知も場所が大量の火属性の魔石が埋もれている場所のせいでダークゴーレムの魔力を感じ取る事も難しい。


「あの様子だと火口にどれだけのダークゴーレムがいるのか分からない。これからは火口近くの場所から火属性の魔石を採取しよう」
「ですけど、火口以外の場所で良質な魔石を採掘できるのですか?」
「そこは数で誤魔化すしかない……と言いたいが、僕達だけだと採掘できる量は限界がある。こんな事ならもっと人手を集めれば良かったな」
「仕方ないよ、他の皆も色々と準備があるし……」


白狼騎士団以外の王国騎士団は色々と仕事があり、アチイ砂漠の遠征の準備や王都の治安維持のために色々と忙しい。あのテンでさえも最近は碌に白猫亭に顔を出さずに真面目に仕事を行うぐらいである。

冒険者に力を借りるという手もあったが、ダークゴーレムの存在が判明した以上は生半可な実力者は呼び出す事はできず、そもそも王都に引き返して人手を集める方が時間が掛かる。しかし、この時にドゴンが何かを伝えようとアルトに声をかけた。


「ドゴン、ドゴン!!」
「ん?急にどうしたんだドゴン君?」
「お腹空いたの?」
「え、ゴーレムも食事するのですか……?」
「いや、ドゴン君の場合はペンダントの魔力で動いている。ふむ、何かを伝えようとしているみたいだ」


ドゴンは身振り手振りでアルトに自分の意思を伝えようとすると、鋭い観察能力を誇るアルトはドゴンが何を伝えたいのかを明確に理解した。


「なるほど、そういう事か」
「え!?分かったんですか?」
「ああ、どうやらドゴン君はゴーレムが現れても自分が何とかするから他の皆は作業に集中して欲しいそうだ」
「な、なるほど……確かにドゴン君が一緒なら心強いね」
「最強のオリハルコンゴーレム……味方としてこれ以上に心強い存在はいない、かも」
「ドゴンッ!!」
「ぷるん(頼りにしてるぞ新人)」
「ウォンッ(先輩気取りか)」


アルトの言葉を聞いてナイ達は納得すると、ドゴンは自分に頼れとばかりに力強く胸元を叩く。先の採掘の時はドゴンが離れていたが、よくよく考えるとドゴンが残っていればダークゴーレムなど簡単に対処できたかもしれない。

ドゴンは古の時代に作り出された最強のオリハルコンゴーレムであり、そもそも竜種と対抗するために作り出された兵器でもある。同じゴーレムだとしてもダークゴーレムとは体格が違い、ドゴンが傍にいればダークゴーレムが現れても彼が対処して他の者は作業に集中できる。


「よし、それなら明日からはドゴン君も一緒にまた火山へ向かおう。但し、くれぐれも無茶をしない様に気を付けてくれ」
「ドゴンッ!!」
「ウォンッ(頑張れよ)」
「ぷるぷるっ(僕達はお留守番してる)」


ドゴンを励ます様にビャクは彼の肩に手を置き、プルリンはドゴンの頭の上で応援する様に身体を跳ねる。何時の間にか3人(匹?)とも仲良くなっていたらしく、明日からは山の麓にビャク達は残ってナイ達はドゴンを連れて火口に再び戻る事が決まった――
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