貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第912話 懐かしの火山へ

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「それにしても新型の飛行船……凄いですね、名前はあるんですか?」
「国王が亡くなった王妃様が名付けたフライングシャーク号をもじって「スカイシャーク号」と名付けたぞ」
「スカイシャーク号……」


スカイシャーク号は旧式のフライングシャーク号よりも性能は上であり、空を移動するだけではなく、戦闘にも利用できるように色々と改造が施されている。現在は選手に搭載されている魔導大砲もいずれは全体に設置され、ゴブリンキングのような超大型の魔物にも対抗できる「飛行戦艦」に改造する予定らしい。


「以前に空賊に襲われた事もあったからな。それを反省して外部との敵と戦えるように新しい機能を色々と搭載しておるぞ」
「完成までどれくらい時間が掛かるたんですか?」
「予定では一年で完成するつもりだったが、飛行船の建造と聞いて腕利きのドワーフが国中から集まってな。後は魔力の調整が上手くいけばすぐにでも飛ばす事ができるぞ」


新型の飛行船は当初は一年で製作される予定だったが、優秀な人材が集まったお陰で時間が短縮され、わずか半年で完成間近に迫っていた。旧式の飛行船よりも性能面は高く、仮に大型の魔物が現れても対処できる兵器が搭載された。


「この飛行船ならばゴブリンキングやゴーレムキングだろうと戦う事ができる。まさか生きている間にこれほどの乗り物を作り上げる事ができたのは技師冥利に尽きるのう!!」
「なるほど……それなら飛行船を動かすのに必要なのは魔石だけなんですね」
「うむ、後は火属性の魔石を火竜の経験石に送り込む調整だけじゃからな。尤もその調整が一番難しいがな」


この世界の飛行船は浮揚石と呼ばれる魔石を船体に設置させ、重量を極限まで軽減させる。浮上する際は風属性の魔石を利用して「風力」で船を浮かせ、その後は飛行船の内部に搭載した火竜の経験石を動力源として利用し、飛行船の後部に搭載された噴射機から火属性の魔力を放出させて加速する。

操作は難しいが飛行船はこの世界においては最速の乗り物である事は間違いなく、飛行船を利用すれば王都から遠く離れたアチイ砂漠まで数日で到着できる。仮に馬で移動すればアチイ砂漠まで数か月の時は掛かるが、飛行船ならばたった数日で辿り着けるという話にナイは驚きを隠せない。


「飛行船……早く乗りたくなってきました」
「ならば頑張ってグマグ火山から火属性の魔石を取ってきてくれ」


ナイの言葉にハマーンは笑みを浮かべて彼の肩を叩き、ナイは一刻も早く飛行船を動かすために飛行船の燃料に必要な火属性の魔石の回収の準備を行う――





――翌日の早朝、ナイはビャクの背中に乗ってグマグ火山へと向かう。彼以外にも白狼騎士団のミイナとヒイロ、そして何故かアルトも同行していた。しかも先日に古城内で発見された「巨像兵」のドゴンに乗り込んでナイ達の後に続く。


「ドゴンッ、ドゴンッ♪」
「おっとと……ドゴン、外に出れて上機嫌になったのは分かるがもうちょっとゆっくり歩いてくれ」
「すっかりアルトに懐いたね」
「ぷるるんっ」


今回の旅にはアルトも「ドゴン」と名付けた巨像兵を連れて同行し、このドゴンはアルトの王家のペンダントを装着した事で完全に彼の僕と化した。ちなみにプルミンもちゃっかりと同行しており、ビャクの頭の上に乗っかる。

白狼騎士団は他の騎士団と比べて人数が少ないために戦力が低いと思われていたが、この巨像兵が追加された事で他の王国騎士団にも劣らぬ戦力と化す。それに人造ゴーレムであるドゴンならば人間にとっては過酷な環境のグマグ火山でも問題なく行動できるはずだった。

ちなみに今回の面子はアルトと白狼騎士団の他に黄金級冒険者のリーナも加わり、彼女は自然にビャクに乗り込んだナイの背中に抱きつく。以前よりもリーナはナイに積極的に接しており、後ろから抱きついて胸を押し付けてくる。


「ナイ君、アチイ砂漠には観光名所もあるみたいだよ。もしも大型の魔物を倒して時間が余ったら一緒に見に行かない?」
「う、うん……あの、リーナ。さっきから胸が……」
「き、気にしなくていいよ。落ちないようにしっかりと抱きつかないとね……」


ナイに指摘されたリーナは頬を赤らめながらも彼から離れず、胸を押し付けてくる。ナイはリーナの行動に戸惑うが拒否する事はできず、改めて彼女の事を女の子だと意識してしまう。

今現在のナイはリーナとモモから好意を伝えられたが未だに二人とも返事ができていない。ナイにとってはモモもリーナも大切な存在で選びきれず、むしろ二人もナイの気持ちを理解して敢えて返事をはっきりと聞かない節もあった。


「いつの間にかナイさんとリーナさんの距離が近くなったように見えますが……ナイさんはモモさんと付き合っているのではないんですか?」
「モモもリーナもナイの事が好き……いっその事、二人とも娶ればいい」
「そ、それは不純ではないのですか!?」
「ふむ、だけど貴族の間では一夫多妻というのは珍しくもない事だ。ナイ君のこれまでの功績を考えれば貴族として取り立てる事も可能だろう。それに公爵家のリーナと結婚して婿容姿になればナイ君も公爵家の人間という事になるし……」
「ドゴン?」


リーナとナイの距離感が一層に縮まった事は誰の目から見ても明らかであり、アルトとしては親友の恋を応援したい。しかし、ヒイロとミイナからすればモモとナイが結ばれて欲しいと考えてしまう。

公爵家のリーナとナイが結婚すればナイは貴族になり、その後にモモを側室として迎え入れる事はできる。しかし、問題なのはそれがモモが納得するかどうかであり、そもそもナイの気持ちも大事だった。


「ナイさんはモモさんとリーナさんのどちらが好きなんでしょうか……」
「私の見立てだと……二人とも同じぐらいは好きだと思う。でも、同じだから二人とも選ぶ事ができない」
「優柔不断……とは責められないね。僕としてもナイ君と同じ立場だったら選べないかもしれない」
「ア、アルト王子も色恋に理解あったんですね」
「それはちょっと失礼じゃないかい!?」


ナイがモモとリーナを異性として意識しているのは事実だが、当の本人はどちらも選べずに困っている。片方を選んでもう片方との関係性が壊れる事を恐れている節もある。

今までナイは女性に対して明確に好意を伝えられた経験はなく、そもそもナイが暮らしていた村には同世代の女の子は殆どいなかった。村の子供は殆どが男の子で昔から女の子と接する機会がなく、それに村が滅びた後はずっと旅を続けてきた。


(ちゃんと二人に返事しないといけないのは分かってるのに……)


流石にナイ自身も今のような関係はまずい事は理解しているが、モモとリーナのどちらかを選ばなければならないと考えると答えが出ない。いっその事、二人がナイに愛想が尽きれば諦めもつくのだが、モモとリーナの方からナイを見捨てる事など有り得ない。


「ナイ君、これが終わったらまた一緒に遊びに行こうね」
「あ、うん……分かった」
「約束だよ!!」


リーナはナイに笑顔を浮かべて後ろから抱きしめ、以前と比べてもリーナは遠慮せずにナイに接触して好意を示す。そのリーナの行動にナイは拒めずにこれからどうするべきなのかを考える――





――それから時は経過して遂にナイ達はグマグ火山の麓へ到着を果たす。グマグ火山の方は相変わらずの熱気だが、心なしか以前に訪れた時よりも熱が増していた。


「うっ……ここってこんなに暑かった?」
「い、いえ……前に来た時はここまで暑くなかったと思います」
「クゥ~ンッ……」


グマグ火山に到着して早々にナイ達は異様な熱気を感じ取り、ビャクに至っては暑さのあまりにへばってしまう。火山が以前よりも熱気を増している事に対してアルトは推察する。


「火竜が死んだ事が原因だろう」
「え?どういう意味ですか?」
「火竜はこの火山に住み着いて火山が生み出す火属性の魔石を食べ続けていた。だが、火竜が居なくなった事で火属性の魔石を食す存在はいなくなった」
「その事がどうして火山と熱くなるのと関係があるのですか?」
「君達は知らないのかい?火属性の魔石は一定の温度まで加熱すると熱を放出する。その魔石を餌としていた火竜が居なくなった事で、今の火山は魔石で溢れているんだ。その影響で火山全体の熱が増したと考えるべきだろう」
「な、なるほど……?」


アルトの説明を受けてナイは理屈は分かったが、それでもここまで暑くなるのかと考える。火竜は魔物の生態系の頂点に立つ竜種の一匹であり、存在そのものが「災害」だと恐れられていた。しかし、皮肉にも火竜のお陰でグマグ火山の放つ熱気が抑えられていた事が判明した。

火竜という生き物は餌場であるグマグ火山から滅多に離れる事はなく、火竜が火山で天井する火属性の魔石を食す事で逆に火山の気温を安定させていた。だから火竜という存在は必ずしも人間に害だけを及ぼす凶悪な魔物ではなく、自然の生態系には必要な存在だったのかもしれない。

但し、火竜を討伐した事に関しては決して間違っていたとは言い切れず、仮にナイ達が火竜を討伐しなければ王国に暮らす人々に大きな被害をもたらした事は間違いない。それにグマグ火山に火属性の魔石が大量に発生したという事は、逆に言えば火属性の魔石を大量に手に入る好機でもある。そうすれば飛行船の燃料として利用するだけではなく、他の事にも色々と使える。


「この熱の中で行動するのは厳しいと思うが……これなら良質な火属性の魔石が大量に手に入りやすそうだ。さあ、頑張って火口を目指そう」
「だ、大丈夫なのですか?」
「火口の方がより良質な火属性の魔石が手に入りやすいんだ」


アルトの言葉を聞いてナイ達は不安を抱きながらも彼の言う通りに従い、火口へ向けて出発を開始した――
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