貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第910話 土鯨

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――アチイ砂漠にてエイバノの砂船が超大型の魔物に襲われてからしばしの時が流れ、王国と巨人国はアチイ砂漠に出現した魔物の対処を余儀なくされた。

先に対応したのは巨人国の軍隊であり、巨人族用に設計された特別な大型砂船に乗り込んで軍隊は魔物の捜索を行う。しかし、一週間も捜索したが魔物の姿は発見されずに軍隊は引き返す。

砂船は普通の船とは違って動かすだけでも風属性の魔石を消費してしまうため、これ以上の捜索に風属性の魔石を無駄にすれば巨人国は大きな損害を被る。そこで巨人国側は王国側に協力を要請して風属性の魔石の提供を求める。

王国側としても巨人国との国交を脅かす魔物は無視できず、国王は巨人国側の協力要請を引き受けた。さらにを利用して援軍を派遣する事を決意した。


「アチイ砂漠?」
「そうです。大陸内で最も過酷な環境で有名な場所なんです」


ナイは王城の魔道具の研究室にてイリアからアチイ砂漠で起きた出来事を聞かされる。ちなみにナイがイリアの元に訪れたのは、彼女の研究の手伝いをする約束をしていたからだった。


「私に聞いた事は内緒にしてくださいね、アチイ砂漠に起きた出来事はまだ一般人にも発表していませんから」
「はあ……それでアチイ砂漠に現れた魔物はなんていう名前なんですか?」
「魔物に襲われた砂船の残骸から奇跡的に生存者が発見されたんです。名前は確か、エイバノというドワーフの老人ですね。その人以外は全員死んじゃったそうです」
「そ、そうなんですか……」
「その人の話によると砂船を襲ったのは巨大な鯨のような姿をした魔物です。しかも全身がゴーレムのような外殻に覆われた超巨大生物らしいです。前にグマグ火山で現れたゴーレムキングよりも巨大な魔物だそうですよ」
「ゴーレムキングよりも!?」


グマグ火山に出現したゴーレムキングは火竜を圧倒する戦闘力を誇り、マジク魔導士の命を犠牲に倒す事ができた。だが、アチイ砂漠に出現した鯨のような姿をした超大型の魔物はゴーレムキングをも上回る巨躯の怪物だと判明していた。

少し前の火竜の復活やゴーレムキングの誕生、イチノに出現したゴブリンキングの一件もあり、またもや災害級の魔物が誕生したとしてもおかしくはない。国王は巨人国に協力する事を約束し、現在の飛行船が完成次第にアチイ砂漠に軍隊を派遣する事を約束した。


「国王様も人が良いですよね、わざわざアチイ砂漠にまで出向いて魔物退治なんて……まあ、巨人国との国交のためには流石に放置はできませんね」
「イリアさんは魔物に心当たりはないの?」
「砂漠を泳ぐ鯨の魔物なんて聞いた事もありませんね。あ、でも古城に残っていた死霊の中に数百年前から伝わる伝説の魔物の図鑑があったんですよ。その中に確か砂鮫よりも巨大な魔物も描かれていたような……名前は確か、土鯨ですね」
「土鯨?」
「文字通りに土色をした鯨ですよ。まあ、実際の正体はゴーレムと大して変わりはありませんけどね」


イリアは古ぼけた書物を取り出すとそこには数百年前までは伝説として語り継がれていた魔物の資料がまとめられていた。この魔物図鑑には「土鯨」なる魔物の詳細な情報が記されており、かなり古い書物なので所々汚れたり破れていて読めない箇所も多かった。


「この図鑑に記されている魔物の殆どは、今の時代では絶滅したと考えられている魔物ばかり記されています。だから現在の時代には語り継がれていないし、私も土鯨なんて魔物は初めて知りましたよ」
「へえっ……」
「ですけど、和国を滅ぼした緑の巨人……なる存在はこの図鑑には記されていませんでしたね」
「ダイダラボッチ……」


ナイは旧和国の領地で山の中に封じ込められていた超大型の魔物を思い出す。外見はゴブリンキングと酷似しているがその体躯は桁違いに大きく、胸元の部分に巨大な剣のような建造物が突き刺さっていた。今現在は土砂で封じ込めているが、未だにあの場所は危険区として一般人の立ち入りを禁止している。

ダイダラボッチに関しての資料は記されていないが図鑑には土鯨なる存在が描かれ、使者からの話を聞いた限りではイリアはアチイ砂漠に現れた魔物の正体はこの図鑑に記された土鯨ではないかと考えていた。


「陛下は飛行船を利用してアチイ砂漠に向かい、そこで巨人国の軍隊と合流して砂船を動かすのに必要な風属性の魔石を引き渡す予定です。巨人国では風属性の魔石は簡単には手に入りませんからね、だから王国の協力が必要なんです」
「そうなんだ?」
「アチイ砂漠を越えるためには砂船はどうしても欠かせない乗り物なんです。だから王国から風属性の魔石を定期的に提供してもらってたんですが、砂船を作り出すために必要な特殊な木材は巨人国でしか入手できません。つまり、アチイ砂漠に暮らす人々の生活を支えているのは王国と巨人国というわけです」
「へえ、砂船か……」


イリアによればアチイ砂漠は過酷な環境下ではあるが大勢の人間が暮らしており、彼等の生活を支えているのは「砂船」を利用した商業だと語る。本来は人が暮らすには厳しい環境のアチイ砂漠ではあるが、砂船を利用する事で王国と巨人国の商業を支える事で砂漠の人々は生活を支えていた。

王国と巨人国も砂船のお陰で両国の商業が成り立ち、友好的な関係を築く事ができた。しかし、アチイ砂漠に現れた魔物が再び両国の商業を繋ぐ砂船を破壊したらどちらの国にも大きな痛手であり、砂漠の人々も危険に晒される。アチイ砂漠に現れた「土鯨」を放置する事はできない。


「土鯨を確実に倒すには王国と巨人国が力を合わせる必要があります。両国は同盟国同士ですし、お互いに力を合わせるのは当然なんですが……」
「何か気になる事があるんですか?」
「今回の国王の申し出をあちらが受け入れるかどうかですね。アチイ砂漠は基本的には巨人国の領地として扱われています。アチイ砂漠に暮らす人々も巨人族が大半を占めていますし、仮に王国の軍隊を派遣すれば巨人国側も警戒するでしょう」
「あ、なるほど……」


表向きはアチイ砂漠は巨人国の領地として扱われているため、仮に王都から飛行船で王国の軍隊を乗せて移動する場合、巨人国の領地に他国の軍隊が介入する事になる。

王国と巨人国は同盟国ではあるが、それでも他の国の軍隊を巨人国側が受け入れてくれるとは限らない。しかし、砂船を動かすためには王国側の協力は必要なのでイリアの見立てでは十中八九は巨人国側も王国軍の介入を認めると考えていた。


「アチイ砂漠では王国軍と巨人国軍の共同で土鯨の捜索を行い、討伐を開始する事になるでしょう。ですけど、協力すると言っても安心できませんね」
「え?二つの国の軍隊が力を合わせれば問題だってすぐに解決できそうですけど……」
「そんな簡単にいけばいいですけどね。今回の土鯨の討伐は両国の軍隊の競争となります。表向きは共同で動くかもしれませんが、王国軍も巨人国軍もお互いの力を借りずに土鯨を討伐しようとするでしょう」
「えっ!?でも、一緒に協力した方がいいはずなんじゃ……」


イリアの言葉を聞いてナイは不思議に思うが、今回の事態は国の面子が関わる事をイリアは予測していた。重要なのはアチイ砂漠が巨人国の領地である事が問題な事を説明する。


「アチイ砂漠は仮にも巨人国の領地ですよ?そんな場所に他国の軍隊が入り込んでしかも問題を引き起こした土鯨を討伐したらどうなります?巨人国は自国の領地の問題を他国に解決された事になって面子を潰されます」
「それってそんなに問題なんですか?」
「勿論、大問題ですよ。だから巨人国側も今回の協力の要請はあくまでも風属性の魔石を王国側から提供してほしいと伝えたんです。ですけど、陛下は王国軍を派遣する事にしました。その理由は分かりますか?」
「えっと……」


ナイはイリアの話を聞いて国王が大量の魔石を消費する飛行船も利用してまで、アチイ砂漠に軍隊を向かわせて土鯨を討伐させようとする理由を自分なりに考える。

イリアの話を思い返しながらナイはアチイ砂漠がである事を思い出し、もしかしたらだが巨人国の領地で起きた問題を王国軍が解決する事で王国は巨人国に大きなを作る。そう考えると今回の遠征の目的は王国が巨人国の優位に立つための作戦ではないのかとナイは悟った。


「もしかしてですけど……土鯨を討伐する事で王国は巨人国に貸しを作るためですか?」
「だいたい合ってますね。補足すると陛下の目的は巨人国に恩を売って今後の両国の関係を王国側が優位に立たせようとしてるんですよ」


ナイの予想は的を得ていたのかイリアは拍手を行い、彼の考えた内容は間違ってはいないこと細かい説明を付け加える。国王がわざわざ王都の軍隊を派遣する最大の理由は、巨人国に恩を売る事で両国の関係を改善するためだとイリアは告げる。
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