貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第903話 骸骨騎士

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「進んでみよう。罠の可能性もあるが……ここの通路は今まで見つけたのとは違う気がする」
「そ、そうですね」
「今までの隠し扉には罠が仕掛けられていた。でも、ここには罠はなかった。本物の隠し通路かもしれない」
「とりあえず先に進んでみよう。でも、皆は後から来て」


危険を承知でナイは先に一人だけで階段を上り、罠に気を付けながら進んでいると階段の先には一本道の通路が広がっていた。見落としがないように「観察眼」の技能を発動させ、暗闇の中でも見通せるように「暗視」の技能も発動させておく。念のために「気配感知」も発動させて敵の襲撃に備えながら先に進む。

狭い通路では大剣のような武器は扱えにくいため、刺剣をいつでも引き抜けるように気を付けながら歩いていると、通路の行き止まりに辿り着く。そこにはさらに上に続く梯子を発見した。


「梯子を見つけた!!上に登って調べてみる!!」
「分かった、僕達もすぐに追いつくよ!!」


通路に危険がない事を確認したナイは階段の下にいる三人に話しかけると、先に梯子を登る。梯子を登り切るとナイは信じられない光景を目にした。


「えっ!?ここって……玉座の間?」


王都の王城の「玉座の間」と似た構造の広間に彼は辿り着き、しかもナイが出てきた場所は玉座の裏側に繋がっていた。


(今まで調べた部屋には玉座の間みたいな場所は見つかってなかったけど……そうか、ここの出入口は瓦礫に塞がれていたのか)


これまでの探索ではナイ達は玉座の間に辿り着けなかったのは、この広間へ通じる通路が大量の瓦礫で塞がり、探索が不可能な状態だった事が判明する。どうやらナイ達が発見した隠し階段はこの玉座の間から一階にある部屋に移動するための秘密の抜け道だと判明した。

恐らくは玉座の裏側に隠されるように設計されていたのは、王族が緊急時に避難するために設置された隠し通路だと思われ、玉座を確認するとナイは不思議に思う。


「あれ?この玉座まさか……うわっ!?」


玉座の表側に回り込むと甲冑を身に付けた状態の骸骨が座り込んでおり、それを確認したナイは動揺しながらも状態を確認する。どうやら死亡してから相当な年月が経過しており、恐らくは玉座に座っている事からもしかしたら当時の国王なのかもしれない。


「もしかしたらアルトの御先祖様なのかな……」


玉座に座り込んだ甲冑を纏った骸骨に対してナイは両手を合わせてお辞儀を行う。しかし、ナイが近付いた瞬間に骸骨の目が怪しく光り輝く。


『アッ……ガアッ……』
「……えっ?」
『アァアアアッ!!』



――信じられない事に完全に死んでいたはずの骸骨から呻き声のような音が鳴り響き、玉座からゆっくりと起き上がる。それを見たナイは唖然とするが、甲冑を纏った骸骨はナイに対して腕を伸ばす。



『アアアアッ!!』
「うわぁっ!?」


自分に向かってきた骸骨に対して咄嗟にナイは「跳躍」の技能で後方に跳んで距離を取るが、骸骨はナイを捕まえようと執拗に追い掛け回す。動作も徐々に素早くなり、ナイを壁際まで追い詰める。


(な、何が起きてるんだ!?まさか死霊人形なのか!?)


骸骨が動き出したのを見てナイは死霊魔術師のシャドウが操作した死霊人形を思い出し、もしも相手が死霊人形の類ならば対処法は判明している。ナイは背中から旋斧を引き抜き、聖属性の魔力を送り込む。

数々の強敵を打ち倒して進化を果たした旋斧は刀身部分が光の剣と化し、仮に相手が死霊人形の類ならば聖属性の魔力を帯びた攻撃が弱点のはずだった。


「だああっ!!」
『ガハァッ!?』


甲冑を纏う骸骨に対してナイは「剛力」の技能も発動させて旋斧を叩き付けると、彼の強烈な一撃を受けた骸骨は派手に吹き飛ぶ。死霊人形の類であれば聖属性の魔力を宿った刃を受ければ無事では済まず、この一撃で倒せるはずだった。


『ウウッ……アアッ!!』
「なっ!?き、効いていない!?」


しかし、旋斧の一撃を受けて吹き飛ばされたにも関わらずに骸骨は起き上がる。仮に闇属性の魔法で死体が操られているのならば、聖属性の魔法攻撃を受ければ何らかの反応を示すはずだが、骸骨に変化は見られない。


「ナイさん、どうし……うわぁっ!?お、お化けぇっ!?」
「何?どうしたの?」
「こ、これはいったい……!?」
「皆、下がって!!」
『グゥウウウッ……!!』


騒ぎを聞きつけたアルト達は玉座の間に姿を現すと、ナイと向かい合う「骸骨の騎士」を見て動揺する。とでも呼べばいいのか得体の知れない怪物は玉座の方に視線を向け、ナイを放置して玉座の方へ駆け抜ける。


「皆、危ない!?」
『アアアアッ!!』
「うわっ!?こっちへ来た!?」
「王子、下がって下さい!!」
「違う、こいつの狙いは私達じゃない!!」


骸骨騎士は玉座の裏側にある出入口から抜け出してきたアルト達を狙って走り込んできたように見えたが、実際の狙いはアルト達ではなく「玉座」だった。骸骨騎士は玉座に差し込まれたを引き抜く。

玉座の装飾品だと思われていたが、実際には玉座の内部に本物の大剣が収納されていたらしく、武器を手にした骸骨騎士はナイと向かい合う。


『ガアアアッ!!』
「武器!?」
「こ、この武器はまさか……」
「ナイさん、加勢します!!」
「アルトは下がってて!!」


アルトは骸骨騎士が手にした漆黒の大剣を目にして驚愕の表情を浮かべるが、ミイナとヒイロはナイを加勢するために骸骨騎士の背後に迫る。しかし、振り返りもせずに骸骨騎士は接近する二人に気付いた様に大剣を振り払う。


『フガァッ!!』
「くぅっ!?」
「きゃあっ!?」
「二人とも!?」
「そんな馬鹿な!?」


ミイナとヒイロは振り払われた大剣を受け止めようとしたが、あまりの衝撃に二人とも吹き飛ばされて床に倒れ込む。ミイナは辛うじて意識は保っているが、ヒイロの方は気絶したのか動かない。

仮にも王国騎士である二人を一撃で倒した骸骨騎士にアルトは焦りを抱き、その一方で骸骨騎士はアルトを一瞥する。この時にナイはアルトが襲い掛かられる前に彼を救おうとしたが、予想に反して骸骨騎士はアルトに対しては何も仕掛けない。


『…………』
「……えっ?」
「アルト!!下がってて!!」


アルトは自分に襲い掛かろうとする様子がない骸骨騎士に戸惑うが、そんな彼の前にナイが庇うように立つと骸骨騎士は叫び声をあげる。


『ガァアアアッ!!』
「くっ……」
「ナイ君、気を付けるんだ!!二人は僕に任せて君は戦いに集中して!!」
「分かった!!」
「ううっ……」
「……面目ない」


ナイは骸骨騎士と向かい合う形で旋斧を構え、アルトは倒れているミイナとヒイロの元へ駆けつける。骸骨騎士はどうやら今度はナイを標的に定めたらしく、他の者を無視してナイへと襲い掛かった。


『ウガァアアッ!!』
「うっ!?くぅっ、このっ……うわっ!?」
「そ、そんな馬鹿な……あのナイ君が押し負けている!?」
「あいつ……普通じゃない。とんでもない力を持っている」


骸骨騎士の攻撃に対してナイは防戦一方で追い詰められていく。その光景を見てアルトは信じられない表情を浮かべ、骸骨騎士の力はナイを上回るのかと焦りを抱く。

攻撃を受けながらもナイは骸骨騎士の膂力に驚きを隠せず、これほど追い詰められたのはあの「リョフ」との戦闘以来である。それほどまでに骸骨騎士は凄まじい力を誇り、少なくともリザードマンやミノタウロスを上回る圧倒的な力を誇っていた。


(強い……けど、何かおかしい)


圧倒的な力を感じながらもナイは骸骨騎士の動きに違和感を覚え、確かに腕力は凄いが肝心の攻撃に関しては単調過ぎた。それに先ほどから気になっていたが骸骨騎士の声は聞き覚えがあり、つい最近にナイは同じような声を何度も聞いた気がする。


(この声、それにこの格好、聖属性の魔法も効かない……まさか、こいつの正体は!?)


ここまでの戦闘でナイはいち早く骸骨騎士の正体を見抜くと、自分の推理が正しいのかを確かめるためにナイは反撃に出る事にした。相手が攻撃を仕掛けた瞬間、久々に「迎撃」の技能を発動させて骸骨騎士の大剣を弾き返す。


「だああっ!!」
『アガァッ!?』


漆黒の大剣を弾き返したナイは旋斧を手放すと、背中にある岩砕剣に手を伸ばす。しかし、大剣を弾かれながらも骸骨騎士は反撃を繰り出そうとしてきた。


『ガアアッ!!』
「ナイ、頭を下げてっ!!」
「うわっ!?」


だが、ここで戦闘不能に陥ったと思われたミイナが骸骨騎士に目掛けて「輪斧」を放つ。手斧型の魔道具は空中で高速回転しながら骸骨騎士の顔面に目掛けて放たれ、見事に頭部に的中した。

予想外の攻撃を受けた事で骸骨騎士は隙を作り、その瞬間を逃さずにナイは岩砕剣を引き抜くと骸骨騎士に目掛けて全力の一撃を放つ。


「だぁあああっ!!」
『アガァッ――!?』


強化術を一瞬だけ発動させたナイは全身全霊の攻撃を食らわせると、骸骨騎士は岩砕剣の刃を受けて頭部は完全に打ち砕かれて床に叩きのめされる。この一撃で骸骨騎士の甲冑に亀裂が広がり、やがて派手な音を立てて砕け散った――
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