貧弱の英雄

カタナヅキ

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番外編 獣人国の刺客

第901話 感動の再会

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――古城内に侵入して脱出手段を失ったイリアとリーナは、遂に持参していた食料を食い尽くし、救助が来るまで城の玄関の扉の前に待機していた。もしも救助が来るのならばこの出入口の玄関を通るしかなく、二人とも既に限界は近い。


「ううっ……い、生きてますか」
「生きてるよ……でも、流石に限界かも」
「こんな事なら睡眠薬を持って来れば良かったですね……寝ている間に餓死する可能性もありますけど」
「嫌だよそんなの……イリアさんが魔物に食べられて骨にされちゃう気がする」
「何ですかその具体的な想像は……」


イリアは地べたの上に横たわり、リーナは蒼月を握りしめながら座り込んでいたが、もうどちらも立ち上がる気力さえも失っていた。今日まではお互いの食料を分け合い、更にはイリアが持参していた回復薬を水分代わりに飲んで過ごしてきた。

実は回復薬の類は腹を満たす事はできないが、飲めば生命力を活性化させるため、回復薬を定期的に飲めば餓死する心配はない。しかし、回復薬を飲んでも空腹感までは抑えられない。


「救助はまだですかね……この調子だと、明日には私はリーナさんのご飯にされそうです」
「…………そ、そんな事しないよ」
「ちょっと、何ですか今の間は……言っておきますけど私を食べても美味しくないですよ!?普段から引きこもって研究ばかりしてるから、ちょっと最近は肉が付いて困ってますけど、別に美味しくはないですからね!!」
「だ、大丈夫だよ……多分」
「多分って何ですか!?」


あまりの空腹にイリアもリーナもまともな思考能力も失い、二人は救助が来るまでの間は必死に耐え凌ぐしかない。あまりの空腹に二人の頭の中には食べ物の事ばかり思い浮かぶが、リーナの場合は食べ物の他に想い人の顔が浮かぶ。


(ナイ君……助けに来てくれるかな)


リーナはナイが自分達を助けに来てくれるのか不安を抱き、彼の事は信頼しているが自分が死ぬ前にナイが助けに来てくれるのか不安を抱く。

最初の頃はリーナは城を脱出しようとしたが、その度に城を警護する人造ゴーレムと遭遇する。人造ゴーレムと戦闘を繰り広げる度にその強さを嫌という程思い知らされた。彼女は蒼月の力を発揮しても人造ゴーレムには全く通じず、イリアを守りながら古城の中へ引き返すのが精いっぱいだった。


(ナイ君……お願い、助けて)


圧倒的な強さを誇る人造ゴーレムが守る古城の中にイリアとリーナは取り残され、彼女達を救えるとしたら火竜を打ち倒した英雄しかありえず、リーナはナイを信じて待ち続ける。そんな彼女の願いが通じたのか、ゆっくりと玄関の扉が押し開かれて聞きなれた声が響き渡る。


「リーナ!!それにイリアさん!!」
「えっ……」
「その声は……ナイさん?」


城の玄関の大扉が開け開かれると、そこには疲れた表情のナイが立っていた。彼は城の玄関を力ずくで押し開いたらしく、すぐに古城の中に踏み込むと他の者たちも後に続く。


「リーナちゃん、大丈夫!?」
「イリアも無事か?」
「皆さん、やっと来てくれたんですね……もう、あと三日遅かったら死んでましたよ!!」
「三日は耐え切れたの!?」
「い、意外と余裕あったんですね……」
「それだけ喋れるのなら急いで戻る必要もなかったかも」
「ぷるぷるっ(やれやれ)」
「クゥ~ンッ」


玄関からナイ達は中に入ると全員が薄汚れており、ここに辿り着く道中でナイ達は何度も人造ゴーレムに襲われた。古城を守護する人造ゴーレムは一匹だけではなく、数匹の人造ゴーレムと遭遇した。

尤も人造ゴーレムは全てナイが打ち倒し、もう古城を守護する人造ゴーレムは一匹も残っていない。ここまで辿り着くのに苦労はしたが、ナイは生きていたリーナを発見し、彼女の身体を抱きかかえた。


「リーナ!!本当に無事で良かった!!」
「ナイ君……ナイ君!!」
「うんうん、リーナちゃんも頑張ったね」


リーナは涙目でナイの身体に縋りつき、それを見たモモは涙ぐみながらもナイと一緒にリーナに抱きつく。その一方でイリアの方にはマホが赴き、彼女はイリアの肩を貸しながら尋ねる。


「イリアよ、この城へ入り込めたという事は目的は果たしたのか?」
「ええ、果たしましたよ……遂に精霊薬の手掛かりを掴みました」
「ほう。まさか本当にあったのか?」
「ふふふ……あと少し、あと少しですよ」


イリアは古城の書庫で発見した一冊の本を取り出し、その本には伝説の秘薬として知られる精霊薬《エリクサー》の製造に必要な素材が記されていた。後は素材を集めればイリアは精霊薬を造り出せる自信があり、彼女の目的はもう少しで果たせる。

ナイ達は無事に古城からリーナとイリアの救出に成功し、すぐに帰路へ着こうとしたが不意に彼は空を見上げる。少し前まで雲行きは怪しかったが、今は晴れ晴れとしていた。


「ナイ君、どうかしたの?」
「いや……何でもないよ」


空を見上げたナイは不思議に思いながらも自分を慕う二人の少女と共に立ち去り、平和な王都へと戻るために歩む――
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