貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
867 / 1,110
王国の闇

第851話 総力戦

しおりを挟む
「うおおおおっ!!」
「アガァッ……!?」
『ぬうっ!?』
「えっ!?」


火竜の元に目掛けて何者かが飛び込み、手にしていた剣を火竜の左目に向けて突き刺す。派手な血飛沫が舞い上がり、火竜は悲鳴を上げて加えていたゴウカを吐き出してしまう。

火竜の左目の眼球に攻撃を仕掛けたのはロランであり、彼はシャドウを追手地上に出た後、火竜の存在に気付いて攻撃を仕掛けた。だが、紅双刃を失った彼の手元には部下から借り受けた剣しかなく、残念ながら左目を斬りつけても仕留める事ができなかった。


「グギャアアアッ!?」
「ぐううっ!?」


左目を貫かれた火竜は悲鳴を上げ、ロランは振り落とされないように首にしがみつくが、火竜は近くの建物に目掛けて彼を叩き付ける。


「シャアアッ!!」
「ぐはぁっ!?」


建物の壁に叩き付けられたロランは吐血し、壁を突き抜けて建物の中に転がり込む。火竜は左目に突き刺さった剣を振り落とすが、失われた眼球は治らない。


「グガァアアアッ!!」
「ぐううっ……!!」
『がはぁっ……』


ロランは建物の中に倒れ込み、ゴウカさえも地面に膝を着く。どちらもまともに戦える状態ではなく、そんな相手に火竜は帰んの吐息を放とうとした。


「アガァアアアッ……!!」
「フレイムランチャー!!」
「ブフゥッ!?」


しかし、大口を開いた瞬間にマリンが魔法を放ち、彼女は火属性の魔力で構成された光線を放つ。口元から火炎を吐き出す前に彼女の放った攻撃によって火竜の口元で火属性の魔力が暴発する。

思いもよらぬ反撃を受けた火竜は怯み、その間にマリンは次の魔法の準備を行う。彼女は杖を掲げると、今度は天空に魔法陣を描き、火竜に向けて特大の火球を放つ。


「メテオ!!」
「グガァアアッ!?」


火竜に目掛けて巨大な火球は隕石の如く放たれ、爆発を生じると火柱が上がる。ミノタウロスでも一撃で吹き飛ばす程の威力だが、マリンはここで致命的な失敗《ミス》を犯した。それは火竜を相手に火属性の魔法を使った事だった。


「ガアアアッ……!!」
「……えっ?」


火柱に飲み込まれた火竜だったが、火竜は炎に包まれながら口元を開き、彼女の放った炎を吸いつくす。火竜はマリンの放った火属性の魔法を吸い上げ、より成長を果たす。

自分の魔法を喰らった火竜に対してマリンは呆然と立ち尽くし、もう魔力は殆ど残っていなかった。彼女の犯した失敗《ミス》は一番慣れている火属性の魔法を乱用した事であり、火属性の魔力を操る火竜は当然ながら火属性の耐性を持ち合わせ、更に普段から火山の魔石を喰らう火竜からすれば火属性の魔力は好物その物である。


「グガァアアアアッ!!」
「うっ……」
「くっ、くそっ……!!」
『…………』


マリンは火竜の迫力に腰が抜け、ロランは悔し気な表情を浮かべて立ち上がろうとするが、全身の骨が折れて動く事もままならない。ゴウカは動く様子すら見せず、このままでは三人は殺されるかと思われた時、何処からか斧が飛んできた。


「グガァッ!?」
「……当たった、けど効いていない」


火竜の額の部分に斧が的中すると、火竜は苛立ったように斧が投げつけられた方向に視線を向ける。そこには弾かれた「輪斧」を回収するミイナの姿が存在し、彼女の他にもヒイロやガオウやリーナの姿があった。

実は火竜が現れた場所は商業区であり、下水道の地下施設の秘密の抜け道から近い場所だった。火竜が暴れた際に地下施設でも異変を感じ取った白狼騎士団と冒険者達は地上へ戻ると、そこにはロラン達を襲う火竜を見て彼等も戦闘に参戦する。


「おいおい、マジかよ……シャドウの次は火竜か!?」
「ど、どうして火竜が……」
「考えるのは後回し……とにかく、倒すしかない」
「だ、大丈夫だよ!!前にあった火竜よりは小ぶりだし……僕達が力を合わせれば勝てるよ!!」


火竜を目の前にしたミイナ達は唖然としたが、すぐに全員が火竜を倒す事に頭を切り替え、それぞれが武器を構えた。ガオウは火竜との戦闘では参加していなかったので始めて見る火竜に戸惑うが、ヒイロ、ミイナ、リーナの3人は火竜との戦闘は経験済みのため、即座に冷静さを取り戻す。


「グガァアアアッ!!」
「来るぞ、散れっ!!」
「はい!!」
「行くよっ!!」
「とうっ」


新たに現れたヒイロ達に対して火竜は尻尾を振り払い、その行動を見た四人はそれぞれが跳躍して別の場所に降り立つ。女子三人は建物の屋根の上に降り立つのに対してガオウは振り尻尾の飛び乗ると、両手に装着した鉤爪で攻撃を仕掛ける。


「おらぁっ!!」
「グガァッ……!?」


魔法金属製の鉤爪でガオウは火竜の鱗を削ろうとしたが、火竜の全身を覆う鱗は彼が手にした武器よりも硬度が硬く、逆に爪が弾かれてしまった。ガオウは火竜の鱗の硬さに冷や汗を流し、その一方で火竜は自分の身体に乗り込んだガオウを吹き飛ばすために胸元を赤く光り輝かせる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

処理中です...