貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
836 / 1,110
王国の闇

第820話 戦闘用魔道具《魔石弾》

しおりを挟む
「逃がすかぁっ!!」
「シャギャアアッ!!」


リザードゴブリンに初弾を回避されたアルトは次の魔石弾を装填すると、リザードゴブリンに向けて放つ。先ほど魔石弾が爆発する事を学習したリザードゴブリンは発射された魔石弾を警戒し、再び跳躍して回避を行う。

しかし、それを予想してアルトは事前に次の魔石弾を用意しており、リザードゴブリンが逃げ場のない空中に飛び込んだ瞬間、魔石弾を発射させた。


「これで終わりだっ!!」
「シャアッ……!?」


空中に浮かんだリザードゴブリンに対してアルトは三発目の魔石弾を発射すると、その魔石弾に対してリザードゴブリンは避ける手段はなく、咄嗟に身体を丸めて防御の耐性を取る。

魔石弾が的中した途端、爆炎がリザードゴブリンを包み込む。リザードゴブリンは至近距離から爆炎を浴びて悲鳴を上げながら床に転げまわる。


「シャアアッ!?」
「どうだ、苦しいだろう!!」


闇属性の魔力が肉体に宿す死霊人形だが、決して不死身というわけではない。闇属性以外の魔法攻撃を受けた場合、特に強い光を放つ攻撃に対しては無事では済まない。

爆炎による光熱によってリザードゴブリンに宿っていた闇属性の魔力が打ち消され、徐々に黒色化していた肉体の一部が元に戻っていく。闇属性の魔力が爆炎によって消耗した事を現しており、この調子ならばアルトは勝てるのではないかと思った。


(よし、いける……これで止めだ!!)


アルトはとっておきの魔石弾を取り出そうとした時、ここでリザードゴブリンに異変が生じた。リザードゴブリンは自分に纏わりつく火炎に対してあろう事か口を開き、それを吸い込む。


「アガァアアアッ……!!」
「なっ!?何のつもりだ!?」


自分の身体に纏わりつく炎を喰らうかの様にリザードゴブリンは口内に炎を吸い込むと、その様子を見てアルトは嫌な予感を浮かべた。その彼の予感は正しく、リザードゴブリンの胸元に埋め込まれた死霊石が光り輝く。

どうやらリザードゴブリンは死んでしまった後もは残っていたらしく、今回の場合はリザードマンの能力の一つである火属性の魔力を体内に蓄積し、火竜のように吐き出す能力を披露した。


「アガァアアアッ!!」
「冗談だろう!?」


爆炎を吸い込んだリザードゴブリンは自分の体内の闇属性の魔力と組み合わせ、黒色の炎を口から放つ。リョフは雷戟を使用する時に闇属性と雷属性を組み合わせた「黒雷」を作り出したが、リザードゴブリンの場合は火属性の魔力を取り込んで「黒炎」を生み出す。

黒炎はアルトに向けて放射され、それに対してアルトは避け切れないと判断し、手にしていたとっておきの魔石弾を放つ。


「頼む!!」
「アガァッ……!?」


アルトが取り出した魔石弾は火属性の魔石を加工して作り出した代物ではなく、水属性の魔石を削り取って作り出した代物だった。アルトはリザードゴブリンの放った黒炎に対抗するため、魔石弾を撃ち込む。

水属性の魔石弾は黒炎に衝突した瞬間に内部の魔力が暴走し、周囲に冷気を放つ。その冷気によって黒炎は掻き消されるどころか、床が凍り付いてしまう。


「シャアアッ!?」
「くぅっ!?」


リザードゴブリンとアルトの元にも冷気が迫り、咄嗟にアルトは身に付けていたマントで全身を包み込むと、マントは凍り付いてしまう。もしも生身の状態ならば氷漬けになっていた可能性もあり、リザードゴブリンの場合は身体にこびり付いていた炎が消え去る。

魔石弾は火属性以外の魔石でも弾丸は作れるため、水属性の魔石の場合だと広範囲に冷気を放つ。そのため、相手に衝突させれば氷漬けにする事が出来る。いくら死霊人形と言えども氷漬けにさせれば動く事はできず、確実に止めを刺せたのだが、無駄になってしまった。


(くっ……もう魔石弾はこれだけか)


収納鞄からアルトは最後の魔石弾を取り出すと、次の一撃でリザードゴブリンに的中させなければ彼は殺されてしまう。それを理解した上でアルトは魔石弾を装填すると、それに対してリザードゴブリンは警戒する様にアルトの様子を伺う。

互いに膠着状態へと陥り、次の攻防で勝負は決まる。先に動き出したのはリザードゴブリンであり、アルトが動き出す前にリザードゴブリンは飛行船へと向かう。


「シャギャアアアッ!!」
「何をっ……!?」


唐突に飛行船に向けて移動したリザードゴブリンにアルトは戸惑うが、リザードゴブリンの目的はアッシュが船内から外へ抜け出すために切り取った飛行船の壁の残骸を掴み、それを持ち上げる。

リザードゴブリンは船の残骸を振り回すと、アルトは嫌な予感を抱いてボーガンを構えた。それを確認したリザードゴブリンはアルトに向けて残骸を投げ放つ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

処理中です...