貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
799 / 1,110
王国の闇

第783話 最強VS最狂

しおりを挟む
――壁を崩壊させて出現した漆黒の剣士を見た瞬間、聖女騎士団もシノビもリノも即座に距離を置く。ただ一人だけ漆黒の剣士の登場に大きな反応を示さなかったのはゴウカであり、彼だけは堂々した態度で立ち尽くす。

ゴウカの視界に出現したのは全身に闇属性の魔力を纏い、漆黒の鎧と雷を想像させる紋様が刻まれた戟を持つ男だった。体躯は巨人族のゴウカの半分程度だが、それでも人間にしてはかなり大きい。

漆黒の鎧を身に付けた男の顔を見た瞬間、聖女騎士団には衝撃が走る。その男の顔は一度見たら忘れられず、特に古参の騎士達は彼を見た瞬間に驚愕の声を上げた。


「「「リョフ!?」」」
『…………』


姿を現したのはかつて王国最強の武人と謳われた「リョフ」で間違いなく、彼は随分前に行方不明になったと聞いているが、その顔を見た瞬間に聖女騎士団は彼が本物のリョフである事を見抜く。

圧倒的な威圧感を誇るリョフを見てゴウカは歓喜し、一目見ただけで自分にも匹敵するか、あるいはそれ以上の力を誇る相手だと知る。その一方でリョフの方もゴウカを見ると、黙って「雷戟」を構えた。


『ほう……この時代にもこれほどの猛者が居たか』
『ふはははっ!!何者か知らんが、これは面白い!!』
「お前達、離れろ!!」
「きゃあっ!?」


ゴウカとリョフが向かい合い、最強の冒険者と蘇ったの武人が武器を構える。それを見た瞬間にシノビはリノを抱き上げ、その場を離れた。

聖女騎士団の者達も二人が向かい合ったのを見た瞬間、嫌な予感を覚えて距離を置こうとした。だが、既にゴウカとリョフは武器を振りかざし、お互いに放つ。


『ぬぅんっ!!』
『ふんっ!!』


ゴウカの「ドラゴンスレイヤー」とリョフの「雷戟」の刃が同時に重なった瞬間、激しい金属音と共に周囲に軽い衝撃波が広がり、地面に亀裂が走る。二人の攻撃の衝撃だけで廃墟は崩れ去り、派手な土煙が舞う。


「うわぁっ!?」
「いかん、すぐにここから離れろっ!!」
「巻き込まれるぞ!!」


廃墟が完全に崩壊する前に他の者達は抜け出し、その一方でゴウカとリョフがお互いに笑みを浮かべ、好敵手と巡り合えたと判断した。


『うおおっ!!』
『がああっ!!』


再び刃が交わうと、今度は地面に振動が走り、完全に廃墟は崩れてしまう。天井から無数の瓦礫が降ってくるが、それに対してゴウカもリョフは武器を振りかざして瓦礫を破壊する。

やがて崩落が終えると、二人の周囲には建物の瓦礫だけが残り、ゴウカとリョフは向かい合う。ゴウカは自分の攻撃を正面から受けたリョフに身体を震わせ、その一方でリョフもジャンヌ以来の強敵に歓喜した。


『は、ははっ……はっはっはっはっ!!』
『くくくっ……ははははっ!!』


お互いに強すぎるが故に自分が手こずるような強敵と戦う事も難しい立場であったが、こうして時を越えて好敵手と巡り合えた事にゴウカもリョフも感動を覚える。

二人はひとしきりに笑い合うと、やがて表情を一変させ、獰猛な表情を浮かべて刃を振りかざす。ゴウカは全力の一撃を放つために力を籠め、その一方でリョフの方も意識を集中させるかの様に戟を強く握りしめる。


『はああっ!!』
『ぐぅうっ!?』


大型の魔物を一撃で屠る程の破壊力を誇るゴウカの全力の一撃に対し、リョフは正面から受け止める様に戟を構えた。結果から言えばゴウカの攻撃によってリョフは後退するが、決して倒れたりする事はなく、そのまま建物を取り囲む壁に衝突した。

壁に亀裂が走るがリョフはゴウカの一撃を受け止め、雷戟を振り払う。その光景を見てゴウカは驚愕し、これまでに自分の一撃を受けて無事だった存在は見た事がない。


『があああっ!!』
『ぬおっ!?』


それどころかリョフは雷戟を振りかざすと、ゴウカはその一撃を受けて逆に後退し、瓦礫に足が引っかかって尻餅をついてしまう。自分が押し負けた事にゴウカは身体を震わせ、即座に立ち上がる。


『何という膂力……信じられん!!こんな人間がいたとは!!』
『お前の方こそ大した男だ……ここまで骨がある相手は王妃以来だ』
『くぅうっ……これだ、この感覚だ!!これを求めて俺は今日まで生きてきた!!』


ゴウカは子供の時以来の自分の命を脅かすかもしれない圧倒的な存在と巡り合い、その一方でリョフはジャンヌ以外にも自分をここまで渡り合える敵がいた事に喜びを感じた。

二人の猛者はお互いに楽しむように武器を振りかざし、全力の一撃を繰り出す。その様子を聖女騎士団は遠目から見守り、動く事ができなかった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...