貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第736話 シンとシャドウ

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「奴の様子はどうだ?」
の事か?安心しろ、俺がちゃんと保管しているよ」
「そうか、ならばいい」


シャドウの言葉を聞いてシンは窓を振り返り、明日には全ての計画を実行し、この国に真の平和を取り戻せる事を確信する。その一方でシャドウの方はそんな兄の姿を見て考え込む。


「明日、儂は死ぬ。だが、儂等はこれからもこの国を裏で支え続けなければならん。シャドウよ、お主も覚悟は出来ておるな」
「……まあな」
「ならばよい」


シンの言葉にシャドウは天井を見上げ、彼の言う通りに明日には全ての計画が実行される。この国の平和のためには障害となるリノを排除し、その責任を取る形でシンは息子であるロランに討たれる。そうすればこの国は平和になるとシンは信じていた。

しかし、シャドウから言わせればそんな物は仮初の平和でしかなく、王女と宰相がいなくなれば国としても大きな影響を受けるだろう。しかし、シンはこの国を裏から支え続けるつもりであった。


「親父殿も本望だろうよ、お前のために役立てるのならな」
「……それは違うな、儂のためではない。この国のために必要な事なのだ」
「そうだな……」


父親の事を話題にするとシンは険しい表情を浮かべ、シャドウもそれ以上の軽口は言わない。二人にとって父親は自分達をこんな風に育てた張本人である。母親に関しては二人の教育方針に逆らおうとした結果、父親に殺されてしまう。

幼き時に死んだ母親の姿を見せつけられたとき、シンとシャドウは父親から逃げられぬと悟った。彼に逆らえば自分達は殺される、そう判断したシンとシャドウは逆らわずに彼の言う通りに生き続けてきた。


『まあ、せいぜい明日までは表の世界を楽しむと良いさ。明日にはあんたは嫌でもお別れになる』
「くどいぞ、シャドウ。儂が表の世界に執着していると思っているのか?」
「それは失礼……なら、俺は仕事に戻るぜ」
「ああ……気を付けろ」


シャドウは足元の自分の影を円形に変化させると、その中に彼の身体は沈んで消え去る。その様子を見下ろしたシンは窓の外に視線を向け、明日にはもうこの景色を二度と楽しむ事はできないと悟る。


「表の世界、か……」


シンはシャドウの言葉を思い返し、彼に一つだけ嘘を吐いた。表の世界へ執着はないという言葉は嘘であり、シンの部屋には若かりし頃の彼とまだ生きていた妻と息子の絵が飾られていた――





――王城を去った後、シャドウは自分が拠点としている廃墟へと戻り、彼は廃墟の地下に保管している棺桶を開く。棺桶の中にはシャドウとシンと瓜二つの容姿の死体が保管されていた。


「親父殿、あんたの出番だぜ……せいぜい、兄貴のために役立ってくれ」


死体に話しかけた所で返事など戻ってこない事は知っているが、それでもシャドウは親父の死に顔を眺めながら語り掛ける。この父親の死体を利用し、明日はシンの死を偽装するつもりだった。



――シンの計画は明日に王女を排除した後、玉座の間にて国王の前で自分の罪を告白し、駆けつけてきた猛虎騎士団のロランによって討たれるのが彼の計画っだった。だが、シンはこれからも国を支え続けるためには本当に死ぬわけにはいかない。



そこでシンは自分と瓜二つの容姿のの肉体を利用し、シャドウの死霊術で父親の死体を操らせ、自分の身代わりに公衆の面前でロランに死体を斬らせるつもりだった。計画のためなら自分の父親の死体であろうと扱う彼の計画にシャドウは少しだけ同情する。


「あんたも本望だろうよ……この国のために役立つんだからな」


正直に言えばシャドウは父親に対して愛情など抱いてはいなかった。だが、シンからこの計画を聞いた時は流石に驚いた。まさかシンの方から父親の死体を利用して自分の死を偽装させると聞いた時、シャドウは衝撃を受けた。

シャドウからすればシンは双子の兄であり、自分と同様にこの国のせいで人生を狂わされた存在だと思っていた。家族よりもこの国に尽くすために生きてきた父親のせいでシンもシャドウも碌な人生を送る事が出来なかった。

特にシャドウに至っては能力の問題もあって目立つような真似は出来ず、父親の判断で死んだ人間とされ、裏社会の人間に引き取られた。結局はシャドウは裏社会で厳しい生活を送る羽目になり、彼は父親を恨む。

彼が死んだ時には既にシャドウは裏社会の人間と化しており、もう表の世界で引き返す事はできなかった。しかし、シンだけは彼を見捨てず、兄弟同士で助け合おうと提案し、色々と力を貸してくれた。シャドウが今日まで生き残る事が出来たのはシンのお陰といっても過言ではない。

しかし、今日のシンの姿を見たシャドウはまるで子供の頃の父親と瓜二つの容姿に考え方をしている事に気付き、自分の唯一の肉親が最も憎むべき存在と同じような人間となっていた事に対して寂しく感じていた――
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