貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
742 / 1,110
王国の闇

第729話 ゴウカの実力

しおりを挟む
「テン、こいつを倒していいんだな!?」
「……仕方ないね、やりな!!あたしも本気を出すよ!!エルマ、それにあんた等も下がってな!!ここはルナとあたしでやる!!」
「テン!?本気ですか!?」
『ほほうっ!!本当に奥の手があるのか!?』


テンとルナは武器を構えると、その態度にゴウカは期待するようにドラゴンスレイヤーを構える。その気迫だけで普通の人間は卒倒しそうだが、テンとルナはお互いに視線を向けると頷き合う。


「行くぞぉおおおっ!!」
「うおおおおっ!!」


二人は同時に「強化術」を発動させ、全身から白炎を放つ。聖属性の魔力を限界まで活性化させ、身体能力を一気に向上させる。強化術の発動時間は30秒だけであり、その間にゴウカを仕留めなければならない。

ゴウカに対してテンとルナは同時に踏み込み、二人は全力の一撃を放つ。恐らくは今の二人ならば赤毛熊程度の相手ならば一撃で屠れる程の力を誇り、ゴウカに全力の一撃を叩き込む。


「うらああああっ!!」
「だあああっ!!」
『――ふんっ!!』


二人の攻撃に対してゴウカも大剣を振りかざす。三人の刃が触れ合った瞬間、激しい金属音と衝撃波が周囲に拡散した。

刃を交わしただけで衝撃波が発生した事にエルマ達は驚愕するが、その衝撃波によってテンとルナは後方へと吹き飛び、ゴウカの巨体も後退る。テンとルナの渾身の一撃を受けてもゴウカを後退る程度で精いっぱいであり、その光景に他の者達は衝撃を受けた。


「そ、そんな馬鹿なっ……」
「あの二人の攻撃を受けて……無傷だと!?」
「有り得ないっ……!!」
『ぐうっ……驚いたな、俺の攻撃を弾くとは!!』


ゴウカは興奮した様子で立ち上がり、自分の攻撃を二人がかりとはいえ弾き返した事に興奮する。これまでの戦闘でゴウカの攻撃を弾き返した敵は数年ぶりであり、彼は興奮した様子で叫ぶ。


『さあ、続けよう!!もっとお前達の全力を見せて見ろ!!』
「う、ううっ……」
「はあっ、はあっ……」


しかし、興奮するゴウカとは対照的にテンとルナの顔色は悪く、二人とも立ち上がるのも辛そうな表情だった。先ほどの攻防で二人は体力を出し尽くし、強化術を強制的に解除されてしまった。

二人の全力を込めた一撃をゴウカは弾き返し、結果的にはたった一度の攻撃でテンとルナは体力を使い果たしてしまう。その様子を見てゴウカはどうして二人が立ち上がらないのかと不満を抱く。


『どうした!?さっきの威勢はどうした、早く立て!!そして戦えっ!!』
「化物がっ……!!」
「ううっ……い、痛い……!?」


テンは悪態を吐くが、ルナの方は全身筋肉痛に襲われてまともに動く事もできず、二人とも戦える状態ではない。その様子を見て他の者達も黙っていられず、全員てゴウカに襲い掛かった。


「二人を助けろ!!我々も続くぞ!!」
「強化術を発動させろ、こいつは全力で挑まなければ勝てないっ!!」
「うおおおっ!!」
『……つまらんっ!!』


他の者達も白炎を身体に纏った状態でゴウカへと襲い掛かるが、それに対してゴウカはドラゴンスレイヤーを横向きに構えると、。その光景を見たテンは嫌な予感を抱き、他の者達に注意した。


「あんた達、逃げなっ!!それを喰らったら……!?」
『――はああっ!!』


テンが言葉を言い終える前に力を貯め終えたゴウカがドラゴンスレイヤーを振り抜いた瞬間、強烈な衝撃波が発生して聖女騎士団へと襲い掛かった。


『っ――!?』


全員が悲鳴を上げる事も出来ず、衝撃波を受けた瞬間に吹き飛び、地面に倒れ込む。エルマも、レイラも、アリシアも、彼の一撃によって吹き飛び、その光景を見ていたテンは目を見開く。

かつては王国最強の騎士団と呼ばれた聖女騎士団が、たった一人の剣士の攻撃によって敗北した。その事実にテンは身体を震わせ、目の前に立つゴウカは間違いなく、彼女がかつて目標としていた「ジャンヌ」とに立つ人間だと察した。


(こいつ……王妃様と同じなのかい……!?)


テンはジャンヌにも匹敵するかもしれぬ力を誇るゴウカに身体を震わせ、普段の彼女ならば仲間を傷つけられた怒りで頭がどうにかなっていたかもしれない。しかし、あまりにも圧倒的な力の差を見せつけられて彼女は動けず、自分が怯えている事に気付く。


(くそっ……ふざけんじゃないよっ!!動け、動けっ!!)


怯える身体を無理やりに奮い立たせ、テンは退魔刀を構えようとした。だが、その退魔刀すらも支える腕も振るえており、とても戦える状態ではなかった。


『ほう……まだ立ち上がるか、流石だな。だが、その状態では戦えないだろう』
「くっ……!!」
『それよりもお前達がそこまでして戦う理由……この中に誰かいるのか?』
「なっ!?ち、近寄るんじゃないよ!!」


ゴウカが白猫亭を庇うように立つテンを見て彼女が誰かを守るためにここに居る事を知り、彼はそれを知るために歩み寄る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物語のようにはいかない

わらびもち
恋愛
 転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。  そう、言われる方ではなく『言う』方。  しかも言ってしまってから一年は経過している。  そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。  え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?  いや、そもそも修復可能なの?   発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?  せめて失言『前』に転生していればよかったのに!  自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。  夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。

かわいそうな旦那様‥

みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。 そんなテオに、リリアはある提案をしました。 「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」 テオはその提案を承諾しました。 そんな二人の結婚生活は‥‥。 ※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。 ※小説家になろうにも投稿中 ※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m

少年売買契約

眠りん
BL
 殺人現場を目撃した事により、誘拐されて闇市場で売られてしまった少年。  闇オークションで買われた先で「お前は道具だ」と言われてから自我をなくし、道具なのだと自分に言い聞かせた。  性の道具となり、人としての尊厳を奪われた少年に救いの手を差し伸べるのは──。 表紙:右京 梓様 ※胸糞要素がありますがハッピーエンドです。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました

ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。 それは王家から婚約の打診があったときから 始まった。 体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。 2人は私の異変に気付くこともない。 こんなこと誰にも言えない。 彼の支配から逃れなくてはならないのに 侯爵家のキングは私を放さない。 * 作り話です

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...